----- 星の等級の算出 -----

Last revised on 22 October 2006


整約した画像を用意しよう

ここでは例として、 1998 年 11 月に和歌山大学教育学部屋上天文台 60 cm 望遠鏡 (焦点距離 7800 mm) に ST-7 (縦 510 pixel 横 765 pixel; pixel size: 9 micron) を付けて B,V,R フィルターで撮影 (1998 年度卒業生撮影) した、 かに座の散開星団 M 67 の FITS フレームを使います。 この撮影では視野角を 2.5 倍に拡大する Wide Field レンズを入れて撮影したので、 1 pixel 当たりの角度は約 0.6 arcsec、視野範囲は約 5.1 arcmin x 7.6 arcmin になっています。

いきなりおまけ: ヘッダー情報の更新

FITS ファイルの先頭部分には、テキスト (文字) で書かれた 内容説明があります (FITS ヘッダー)。

で内容を見ることができます。 l+ (エル・プラス) は long option で、 これを付けないと、 といった 1 行出力になります。 ファイル名、x 軸方向 pixel 数、y 軸方向 pixel 数、 データ値の型 (ここでは real、実数型)、 撮影対象名 (データ保存の際に入力したもの) だけが示されます。

ヘッダー情報はデータ保存の際に書き込まれたものですが、 文字打ち間違いがあった場合もあるでしょうし、 またデータ整約あるいは後のデータ解析の際して 別の文字列に置き換えておきたい、という場合が出てくるでしょう。 ヘッダー情報を書き換える IRAF のタスクは hedit です。

とします。 ここで FILED は項目、VALUE はそこに入れる値です。 ところでヘッダーの項目名、項目数、その順番は、 データ取得を制御するソフトウエアごとに若干違ったものが出力されます。 例えば、 1998 年に ST-7 で M 67 を撮影した際には CCDOPS version 4 を、 2005 年に ST-9E で M 57 を撮影した際には CCDOPS version 5.4 を使っています。 ヘッダーの出力例として、 前者はこれ後者はこれになります。 項目名は、左側に書かれている変数名を指定すればいいのです。

撮影対象名を指定する項目名は、特別に title となります (一番 hedit を使う対象でしょう)。 また、新項目を立てるか add=yes/no、 すでにある項目を削除するか delete=yes/no、 すでにある項目に対する値を更新するか update=yes/no をオプションとして指定することができます。

観測日時の修正も必要な場合があるでしょう。 使用パソコンの内部の時計を参照しているので、 実際の時刻とずれている場合があるからです。 どの項目を更新するのか、 imhead で変数名をよく見て決めて下さい。 また、パソコンの時計と実際の時刻の差は、 117 時報を参考に算出して下さい。 その時間差は、観測終了 (あるいは観測開始) 時に野帳に書いておくとよいでしょう。

その他、いろいろな説明は、

で見ることができます。

天体の明るさの表現方法 (1) -- 光度とフラックス --

天体の明るさは、 その天体が放出している放射エネルギーに対応する「本来の明るさ」 (あるいは光度; luminosity) と、 (ある距離離れた) 観測者が受けとるエネルギー「輻射流束」(フラックス; flux) に分けて考えていきます。

脱線ですが、 輻射と放射は同じ意味です (radiation)。 方言の違いだと思って下さい。 お役人さん推奨の科学用語の標準化では、 「放射」が採用されています。

本来の明るさは、例えばワット (W) の単位で表現します。 太陽光度は 3.85 x 1026 [W] です。 100 ワット電球を 3.85 x 1024 個点灯したエネルギーを 周りの空間に放射しているわけです。 W は MKS (m, kg, s; メートル、キログラム、秒) 単位系での組合せ単位です。 天文学では CGS (cm, g, s; センチメートル、グラム、秒) 単位系を多用し、 erg s-1 (エルグ毎秒) を使う場合があります。

という換算になっているので、 という表現にもなります。 天文学では何かと数値が大きくなりますから、 太陽光度を基準にした放射エネルギー量表現もよく使います。

地球上から観測した見かけの明るさはフラックスの方に対応します。 距離 d 離れたところで、単位面積あたり受けとるフラックス f は、 天体光度を L とすると、

となります。 半径 d の球殻 (その表面積hは4πd2) に向けて全方向平等に放射している、 と仮定した時の関係式です。 地球-太陽間の距離は 1 AU (= 1.496 x 1011 [m] = 1.496 x 1013 [cm]) なので、 地球上でのフラックス f (太陽) は、 になります。 を使って換算すると、 が得られます。 太陽の方向に面を向けた 1 平方センチメートルの領域に 2 分間じっとしていると 2 カロリーの太陽エネルギーを得ることができる (1 cc の体積を持つ水の温度が 2 度上昇する)、 という「太陽定数」にちゃんと行き当たります。 逆に、太陽定数と 1 天文単位の値から、 太陽光度に行き当たります。

天体の明るさの表現方法 (2) -- 等級という目盛 --

さて天体の明るさの単位には、等級 (magnitude) という表現がよく使われます。 エネルギーの単位と換算できるものですが、 天体の明るさをエネルギーとして絶対的に測定することが簡単でないため、 天体どうしの相互比較で明るさを (とりあえず) 決めます。

こういうことは、天文学でよく行なわれる方法です。 例えば太陽系内の天体配置図を作成する際、 km 単位で示していくずっと以前に、 地球-太陽間の平均距離 = 1 AU (天文単位) を基準に描いていました。 後になって、1 AU = 1.49597870 x 1011 [m] が測定されたのです。 星の明るさも互いの比較によって 明るい星、暗い星を決めています。 紀元前 2 世紀にギリシアの天文学者ヒッパルコスが、 一番明るく見える星を 1 等星、 一番暗く見える星を 6 等星としました。 19 世紀になって、1 等星は 6 等星に比べて (5 等級の差) フラックスとして 100 倍程度大きいこと、 等級値はフラックスに対して等比数列的に対応していることが 知られるようになりました。

そこで等級という概念は、

と定式化されました (ポグソンの式)。 ここで I0 という明るさで観測される星は m0 という等級値を持っている、 それに対し、I という明るさの星は m という等級値になる、 ということを示しています。

log は常用対数 (底が 10) です。 天文学では常用対数を多用するので、 log と書いてあれば多くの場合常用対数です。 底が e の自然対数は ln と表記することもあります。

I = 10 I0 なら、 m = m0 - 2.5、 I = 100 I0 なら、 m = m0 - 5 となります。 10 倍フラックスが大きいと、等級値は 2.5 小さい数値に、 100 倍フラックスが大きいと、等級値は 5 小さい数値になります。 等級値は数値が小さいほど明るい (大きなフラックス) に対応しています (例えば 2 等級より 1 等級の方が明るい、 とヒッパルコス大先生が決めてしまったので、 今さら変えられない)。 したがって、ポグソンの式の右辺係数が負の数になっているのです。 また等級値が 1 違うと、フラックスは 100.4 = 約 2.512 倍違います (100 の 5 乗根という表現をする場合もある)。 この 2.512 という値と 上記のポグソンの式に出てくる 2.5 がよく似ているのは偶然で、 混同しないように (混同している人が時々います)。

ポグソンの式は、以下のように表現することもできます。

const はある定数という意味です。 星の明るさの相互比較で等級値を決めているので、 この定数値はすぐには求まりません (というか、放ってあります)。

ポグソンの式は、 I として光度でもフラックスでも使えます。 光度を使えば絶対等級 (以下、大文字で M) に対応し、 フラックスを使えば見かけの等級 (以下、小文字で m) に対応します。 絶対等級は 10 pc に置いた時の見かけの等級でもある (そう決めている) ので、 対象天体までの距離を d [pc] とすると、

となります。 上の式から下の式を引き算すると厄介な const が姿を消し、 少し式を整理すると、 となります。 m - M は距離指数 (distance modulus) と呼ばれる量です。

天体の明るさの表現方法 (3) -- 測光システム --

実際の観測では望遠鏡に検出器を取り付け、 信号 (カウント値) を読みます。 その際、天体が放射する全電磁波を一度に受けることはできず、 ある波長範囲のものを記録することになります (機器全体の波長透過特性と検出器の波長感度特性の積に依存する)。 可視光というものも、電磁波の一部分の波長域を示しています。 さらに可視光観測といっても、 その中をさらにいくつかの波長域に分割して観測することが普通です。

その場合、特定の波長域 (バンド) を透過するフィルターを通して観測します。 フィルターを通すということは検出器にとって感度のある波長域の 一部分しか使わないわけですので、 得る光子数は減ります。 テスト観測として天体の有無そのものを検査したり、 非常に淡い天体の検出を試みたりする場合に フィルターなしで撮像することがありますが、 一般にはフィルターを通し、 どのバンドの撮像であるかを指定しながら撮像します。 このバンド幅として、 広いものは広帯域 (broad band)、 狭いものは狭帯域 (narrow band) と呼ばれます。 輝線天体を狙う場合、狭帯域撮像を行なう場合があります。 星のように連続光で光っている天体を狙う場合、 広帯域撮像はよく行なわれます。 分光データは、 非常に狭い帯域でその帯域を連続してずらしていき、 それらを総合したものと言えます (バンドごとに撮像することは、非常に粗い分光とも言えます)。

可視光は大体 3800 から 7700 Åの波長域に対応しています。 広帯域のバンドは、大体 1000 Åの波長幅のものを指し、 可視光域を数バンドに分割します。 いつもお世話になっているカラー画面 (テレビ、パソコンの液晶モニター、携帯電話の画面など) は、 光の 3 原色 (赤、緑、青; red, green, blue; RGB) の組合せで 表現しています。 これは可視光域を一旦広帯域バンドで 3 分割し、 それぞれで強度を調整して 色 (及び光の強度) を再現しているのです。 パソコンや携帯電話のモニター画面が RGB の光点の集合体であることは、 例えば画面上に小さな水滴を落として RGB の細胞を拡大して見れば分かります (やったことがない人が多いらしいが、是非やってみて下さい)。

現在もっとも多く使われている可視光域の広帯域バンドのシステムは、 UBVRI と呼ばれているものです。

上記の R,V,B バンドがほぼ、R,G,B の光の 3 原色に対応しています。

Johnson (ジョンソン) は、U,B,V,R,I のバンドを定義しました。 ジョンソン・システムと呼ばれています。 その後 Kron (クロン) さらにその後 Cousins (カズンズ) は R,I のバンドについて、 もう少し違った定義をしました。 カズンズ・システムと呼ばれています。 ややこしいことに、 R,I バンドはジョンソン・システムとカズンズ・システムの 2 種類が 使われています。 後者の方が多用され、 天文学ゼミ所有の ST-7,9 のカメラでも、 カズンズ・システムの方のフィルターを使っています。

古くは、実視等級 (visual; mvis) と 写真等級 (photographic; mpg) が使われていました。 完全に一致はしませんが、ジョンソン・システムの V と B バンドに近いものです。 銀塩乳剤を使用していた (いわゆる) 写真では、 青い方の感度が強かったのです。 CCD カメラの時代になると様子が変わりました。 CCD チップの感度は、赤い方が強いのです。 R バンドが一番よく写ります。 初期のころの CCD カメラは B バンドの撮像でも大変苦労しましたが、 最近の CCD チップは青い方の感度が大幅に改善されています。

よく使われている広帯域バンドの有効中心波長 (透過曲線の重心位置)、 透過曲線の半値幅 (FWHM) を以下に示します。

システム バンド 有効中心波長 [Å] 透過曲線 FWHM [Å]
Johnson U 3652 526
Johnson B 4448 1008
Johnson V 5505 827
Cousins Rc 6588 1568
Cousins Ic 8060 1542
Johnson R 6930 2096
Johnson I 8785 1706
旧国際式 ph 4300 1400
旧国際式 vis; v 5400 520
HST WFPC2 F555W 5536 1480
HST WFPC2 F606W 6102 2050
HST WFPC2 F702W 6979 1957
HST WFPC2 F814W 8092 1653
SDSS u 3585 556
SDSS g 4858 1297
SDSS r 6290 1358
SDSS i 7706 1547
SDSS z 9222 1530
参考文献: 理科年表 2004 (p.117)、 市川隆 (1997) 天文月報 1997 年 1 月号 p.23、 Fukugita, Shimasaku, Ichikawa (1995) PASP 107, 945 (table 5)

天体の明るさの表現方法 (4) -- 標準星 --

最後に等級の原点という問題が残っています。 あるシステムのあるバンドごとに、 この星は何等級、ということを与えます。 標準星 (standard star) です。 現在最も多く使われている標準星のカタログはランドルトのもの、

です。 ここでは Johnson UBV, Cousins RI システムが使われています。

標準星と他の一般の星を交互に多数回観測することで、 その星の等級が正確に求まるようになると、 その星も標準星として使えるようになります。 このようにして、標準星が増えていきます。 散開星団 M 67 は標準星の領域として 繰り返し観測されてきました。 視野内に多くの星があり、 しかし極度に密集しておらず、 いろいろな色の星があることから、 標準星の領域として散開星団は適しています。 M 67 の標準星としてのカタログとして、

はよく用いられています。 星の番号付きファイディング・チャートと それぞれの星の BVRI 等級が掲載されています。 手元にある画像との星の照合には多少手間がかかります。

いずれにしても最初の標準星という「一撃」を与えないと、 永久に標準星は決まりません。 歴史的には北極星を 2 等級と決めたこともありました。 しかし北極星は変光星 (セファイド) でした。 しかもその後の研究で 変光の幅も周期も変化していく、特殊なセファイドでした。 あれこれ標準星を決め直していき、 現在は Landolt のカタログや M 67 のカタログに行きついているのです。 また偶然とは言え、ベガ (こと座α星) が、 どのバンドでもほぼ 0 等星になっています。

それぞれのバンドでの 0 等級は、 フラックスとしてエネルギーの単位で表現するとどうなるか、 実は難しい測定なのですが、 現在のところ、以下の値が示されています。 fλ あるいは fν は、 単位波長あるいは単位振動数当たりのフラックス (以下では CGS 単位系で表現) を示しています (それぞれのバンドでの有効中心波長において)。

band fλ fν
[10-9 erg s-1 cm-2-1] [10-20 erg s-1 cm-2 Hz-1]
Johnson U 4.24 1.86
Johnson B 6.45 4.18
Johnson V 3.69 3.68
Cousins Rc 2.20 3.10
Cousins Ic 1.14 2.46
参考文献: 市川隆 (1997) 天文月報 1997 年 1 月号 p.23

逆にフラックス測定を測定し、その後等級に変換するという 方法もあります。 AB 等級と呼ばれるシステムです。

可視光域では波長当たりの量で示すことが多いのですが、 電波域では振動数当たりの量で示すことが多くなっています。 電波域で多用されている単位として、ジャンスキー [Jy] があります。 で与えられます。 これを用いて少し式を変形すると、 となります。 Johnson V band での等級と、V band での中心振動数 (あるいは波長) での AB 等級は同じになるように設定されています。

寄り道しましたが、もとに戻りましょう。 あるバンドで等級 m0 で与えられている標準星が、 ある条件下で、検出器上で I0 カウントとして受かりました。

で、この観測の条件下での const の値が決まります。 ここでは C と置き直しましょう。 同じ観測機器 (同じ望遠鏡、同じフィルター、同じ検出器)、 同じ露出時間 (実際の露出時間に応じて適宜補正)、 同じ天候条件 (ほぼ同じ観測時刻、ほぼ同じ観測高度なら) で、 ある観測天体を観測し、I カウントとして受かりました。 この天体の等級 m は、 として算出することができます。

星像の重心と FWHM

星は点像のはず (あまりに遠方にあるので、事実上点に見える) ですが、 大気揺らぎで実際には広がった像に写ってしまいます。 例えば こんな感じです。 そのため、 強度 (カウント値) を線輪郭で表現すると、 「鈍った」ものになります。 この曲線はガウス曲線 (Gaussian) でよく 近似されます。 鈍った輪郭ではその広がりや端をどう表現するか、難しくなります。 よく使われる表現に FWHM があります。 半値全幅、あるいは半値幅と呼ばれるもので、 この図 で説明しました。 星像線輪郭は完全には Gaussian になっていませんが Gaussian だとして作業を進めることが多くあります。 Gaussian ではその標準偏差 (σ) を中心からの線分の長さとして表すと、 FWHM の長さの半分より若干小さいものになっています。 これも先ほどの を参照して下さい。 なお、標準偏差を分散と書いてある場合もあります。 一方、分散を標準偏差の自乗として定義している場合もあります。 ややこしいので、σと表記することにします。

星像が広がった領域をピクセル座標として特定し、 それぞれでのカウント値を合計すれば、 星からやってきた情報の総カウントを数えることができます。 矩形領域 (x 座標範囲が x1 - x2、y 座標範囲が y1 - y2) の指定で済むなら、

などとして、MEAN (平均) x NPIX (ピクセル数) で 総カウントを見ることができます。

星像の重心位置を中心にある半径、という開口 (aperture) を取りたい場合、 IRAF パッケージの apphot を用います。 これは IRAF を起動した時に、 (特に設定ファイル login.cl を変更していない限り) 自動的にロードされていないパッケージ (IRAF タスクの群れ) です。 これは noao パッケージの中にある digiphot パッケージの中に 入っています。

と打つと、noao パッケージがロードされ (プロンプトが cl から no に変わる)、 さらにロード可能なパッケージ (パッケージはタスクと違って名前の後にピリオドが付けてある) が 表示されます。 その中に digiphot (digiphot. と表示されている) パッケージがあります。 ここで apphot パッケージが表示されています。 なお、noao パッケージは IRAF 起動時に自動的にロードされているので、 digiphot から始めても大丈夫です。 これで apphot (aperture photometry の意味だろう) パッケージが ロードされました。 使用できる IRAF タスクが一覧で表示されています。 以上の作業の画面表示は このようになるでしょう。 ここで中心になるタスクは phot です。 phot をする際に多くのパラメーター設定が必要になります。 パラメーター設定をするだけのタスクも用意されていて、 タスク一覧のところでは、タスク名の最後に @ マークが付けられています。

測光パラメーターとして、 この図で説明するようなものがあります。 星像重心位置と星像線輪郭 FWHM については IRAF タスク imexamine (imexam で十分) で、 それ以外の作業は apphot パッケージを使います。

display タスクを使って ds9 に作業対象画像を表示させます。 imexam タスクを走らせます。 im で始まるタスクは images パッケージの下に収められているタスクで、 IRAF 起動時に自動的にロードされています (login.cl の最後の方を vi などで見てみよう)。

そうすると、ds9 上に丸印のカーソルが出てきます。 まず ds9 端末をクリックして ds9 端末をハイライトさせます。

その後、目的の星の上に丸印カーソルを移動させ (例えばこのように)、 「r」のキーを押します (radial plot の r)。 そうすると このような新しい端末が出てきます。 図の横軸は星像中心からの半径方向、縦軸はカウント値です。 小さな十字印は実際の値、破線は Moffat あるいは Gaussian 曲線 (default は Moffat) による fitting です。 画面右上に星像重心位置が x,y 座標値として記されています (黄色の下線を引きました)。 ここでは (268.24, 122.94) です。 ds9 で表示されている方向で言えば、 左下隅が座標原点で右に行くほど x 座標値増大、上に行くほど y 座標値増大です。 丸印カーソルは星像重心位置上に完全に乗せなくても、 imexam 実行時にカーソル位置周辺を検査して、 重心位置を自動的に計算してくれます。 試しに、カーソル位置を僅かに変えて imexam をしてもらっても、 表示される重心位置が変わらない (あるいは、ほとんど変わらない) ことが 確認できると思います。

画面一番右下に表示されている値が、 ピクセル単位で表現した FWHM 値です (赤枠で囲みました)。 ここでは 3.76 pixel です。 サンプルとして使用フレームでは 1 pixel が約 0.6 arcsec に対応していますから、 約 2.3 arcsec FWHM の星像ということになります。 日本の空で気流が良ければ 2 - 3 arcsec FWHM の像が得られますので、 これはまずまずの値でしょう。 もちろん結果として得られる星像 FWHM は気流の乱れによるものの他、 望遠鏡の追尾の精度、 カメラの焦点の合い具合が総合したものになります。 また、ピーク値は約 600 カウントになっています。 CCD の飽和カウント約 6.5 万カウントよりずっと低いカウントになっています。 したがって「サチって」いません。

カーソルをこの場所に置いたまま「s」(surface plot の s) を押すと、 タスク surface を実行したことと同じように、 このような描画が出ます。 星像中央部は平坦になっていません。 もし平頂が見えれば、サチっているのです。 このような像はよい精度で重心位置が決まりませんし、 だいいち正しい測光値も得られません。 ピーク値付近で正確なデータが得られていないからです。 この例の星ではサチっていませんから、 星像重心検出に使えるということになります。

別の星を狙ってみましょう。 例えばこのように 星の上にカーソルを置き、 また「r」のキーを押します。 前に出したグラフ描画端末が このようなグラフに更新されます。 ds9 上ではかなり明るく写っていますが、 サチってはいないようです。

2 つの星での例で分かるように、 星を変えても FWHM 値はほとんど変わりません。 星像の大きさは大気揺らぎ (及び望遠鏡追尾と焦点合わせ) によって決まる、 本来点像のものの広がりですから、 写っている星すべてで共通の値になるはずです。 もっとも収差 (光軸中心から外れたところで発生する結像の不完全) があれば、 光軸中心からずれるにしたがって FWHM は大きくなるでしょう。 大気揺らぎが一番の原因ですから、 天候条件が変わる (撮影時間や日が変わる) と FWHM は大きく 変化する可能性がありますし、 バンドが違えば変わります。 大気中の光の屈折は、波長が短いほど大きくなります。 したがって他の条件が同じなら、 I -> R -> V -> B -> U バンドの順に FWHM は大きくなるでしょう。

いくつかの星をサンプルしていけば、 そのフレームでの標準の星像 FWHM を得ることができます。 せっかくなので S/N のよい像でサンプルしていきましょう。 例えば 5 つや 10 個サンプルすると、 1 つか 2 つ、とても大きな FWHM を返してくることがあるでしょう。 その星像はサチっていて、 無理に変な値を返している、 あるいは星のように見えていた銀河や星雲でしょう。 もちろんこのような例を除外し、 互いにそろった値の集合で平均値を出すことにします。

タスク phot を実行する際、 測光したい星の重心位置 (x,y) を記した データ・ファイルを用意する必要があります。 例えば上の 2 星を対象とする際、

というテキスト・ファイルを作成することになります。 星 1 つ 1 つに対し、x 座標 y 座標の値をスペース (スペースは何文字分でも OK) で区切って記していきます。

FWHM にしても、星像重心にしても、 いちいち手元にメモをするのが大変です。 自動的に結果をファイルに出力するようにしておきましょう。

などとすると、imexam.log というファイルができます。 ファイル名は何でも OK です。 分かりやすいものを考えて下さい。 またすでに存在するファイルであれば追記するようになります。 この方法で作成したファイルを cat コマンド (iRAF の中でも動作します) などで見ると、 このようになっています。 COL, LINE が星像重心の x, y 座標、 一番最後の DIRECT が FWHM 値です (解析的曲線を使って合わせたのではなく直接測定で得られた FWHM 値、という意味)。

phot の実行

さていよいよタスク phot の実行です。 phot を行なうには この図で説明した多くのパラメーターが必要です。 apphot パッケージのタスク群は apphot をロードした際に表示されますが、

とクエスチョン・マークを打つことでいつでもタスク群を表示させることができます。

というパラメーター設定のタスク (最後にアット・マーク付き) で 各種パラメーターを設定し、 最後に phot を走らせます。 パラメーター設定ファイルではタスク名だけを打っても (そのタスク実行)、 epar タスク名、とやったことと同じになります。

centerpars は星像重心位置を決めるためのパラメーターです。 すでに重心位置は決まっていますが、 大事を取って決め直しておきます。 また、互いに僅かに位置がずれあっている画像に対しても、 ある画像でサンプルしておいた座標を初期値として 重心位置を決め直していくこともできます。 centerpars のパラメーター設定は、 このような感じ でいいでしょう。 calgori=centroid (重心) と、cbox の指定で十分です。 cbox として FWHM の 2.5 - 4 倍くらいがおすすめ、 と help を見たら書いてありますが、 そんなに大きくなくても十分です。 ここでは FWHM = 3.74 と考えて、cbox=10 としてみました。

datapars はさほど重要ではありません。 このような感じ の設定が考えられます。 phot 出力の数値について、最初からある補正をかけておこうということですが、 これから例示する作業には影響がありません。 scale は 1.0 のままでいいでしょう。 fwhmpsf は FWHM of PSF (point spread function; 点像拡散関数、 要するに星像の広がりのこと) を入れておいてもいいでしょう。

fitskypars は重要です。 スカイをどうするかのパラメーター設定です。 フレームのスカイ引きは済んでいるはずですが、 局所的に背景が 0 になりきっていない可能性があります。 フラットが完全でなかったり、 あるいは背景として淡い構造が乗っていたりする場合です。 局所的なスカイを評価し、それを差し引かなければなりません。 そのスカイをサンプルする領域として、 星の周りのドーナツ形領域を考えます。 annulus でそのドーナツの内径、 dannulu でドーナツの幅を決めます。 annulus + dannulu がドーナツの外径になるわけです。 そのドーナツ領域でのカウントの重心 (平均値) を星像での スカイ値とします。 この例では、 ドーナツ内径に 3 FWHM、 ドーナツ幅に 5 pixel、 salgori=centroid (重心) を選んでいます。 あるいは、スカイ引きがすでに完全だとするのなら、 この例のように、 salgori=constant, skyvalu=0 とする手があります。 この場合、annulus, dannulu の指定内容は無効になります。 フラット及びスカイ処理に問題のない場合、 後者の設定の方がいいでしょう。

photpars も開口半径などを決める重要なパラメーター設定タスクです。 これが一つの例です。 apertur のところに開口半径を入れます。 星像の裾野のところまでしっかり入れたいのなら、 3 FWHM を入力します。 開口直径としては 6 FWHM 分取ることになり、 大変大きな領域をサンプルします。 fitskypars では (例として) 局所スカイ評価のドーナツ領域の 内径を 3 FWHM としたので、 測光開口も 3 FWHM にするということは、 ドーナツ領域を測光開口領域からすき間を開けずにすぐ外側に設定した、 ということになります。 zmag は const の値に対応しています。 しかし最初はこの値が分かりません。 とりあえず 25 を入れておきます。 これは、機器等級 (minst) として、

を与えておく、ということです。 右辺第一項だけなら負の数のままですが、 25 を加えて、それらしい正の値にとりあえずしておこう、ということです。

さていよいよ phot の実行です。 phot のパラメーター設定は epar タスクが必要です。 この例のように、 image として対象の画像、 coords (測光する星の座標を記したテキスト・ファイル) として、 imexam で出力したファイル (ここではそれを m67.coo という名にした) を指定します。 これで

と打ってパラメーター設定を write (書き込み保存)、quit (終了) して、 とするか、epar のところで とするかで phot を走らせます。

機器等級の算出

phot を走らせます。 Default setting でよいか、いちいち聞いてくる場合がありますが、 すべて default のままでいいので リターンで返して下さい。 出力ファイルは phot の中で特に指定しない限り、 FILENAME.mag.1 という名になります。 phot を別設定で実行すると新しい出力ファイルができ、 その名は FILENAME.mag.2 になります。 以下、phot 出力の「マグ・ファイル」が最後の数値を 1 ずつ上げながら 出てくることになります。

局所スカイがないとした設定、 つまり fitskypars で salgori=constant, skyvalu=0 とした場合の phot 出力の例を m67r.fits.mag.1に、 局所スカイをドーナツ領域を使って評価した設定、 つまり fitskypars で salgori=centorid, annulus=3FWHM, dannulu=5 と した場合の phot 出力の例を m67r.fits.mag.2に示しました。 いずれの場合も、 最初の 55 行分はどういう設定だったのかを再出力しています。 まずは無視していいでしょう。 星 1 つに対し、5 行分で結果を示しています。 その 5 行の中の量の説明が次に書かれています。 1 つの量に対し、 量の名前、その単位、数値の表現方法が縦方向に並べて書いてあります。 ファイルの最後になってようかく結果が出てきます。

1 行目は、フレームの名前、星の位置の初期値 (imexam で調べた重心位置) が 記されています。 2 行目の最初に phot で決定しなおした星の重心位置が出ています。 ほとんど最初に与えた値と変わらないはずです。 もし大きく値が変わることになっていれば、 2 行目最後に ERROR の表示が出ます (今回の例ではもちろん NoError)。 3 行目の最初の値が sky の値です。 sky なしとした場合は、もちろん 0 が返ってきます。 sky を見直した場合、0 でないある値が返ってきます。

5 行目は重要です。 最初の数値は測光開口半径です。 予定した値と同じか確認しておきましょう。 その次が SUM、開口内の pixel でのカウントを全て足し合わせたものです。 その次が開口内の pixel 数です (area)。 開口半径が同じですからこの pixel 数、すなわち面積はどれも同じになるはずですが、 pixel という離散的な世界での数量なので、 互いにわずかに数値が違う場合があります。 その次の値が flux で、 SUM - (sky x area) として計算されます。 sky=0 としているのであれば、SUM = FLUX になります。 この flux に対し、 -2.5 log FLUX + 25 (25 は photpars で与えた) で計算した 機器等級 (instrumental magnitude; m_{inst}) が その次に与えられています。 sky を 0 としてしまった結果でも、 sky を見直して勘定に入れた結果でも、 この例ではほとんど変わりません。

標準星との照合

星の明るさは、互いの比較によって行なうことが基本になっていました。 同じ視野内 (同じ条件下であれば同じ視野ということにこだわらなくてもよい) の星の相対的な明るさ (互いの順番付け) なら、 以上の作業で終了していることになります。 例えばセファイド変光星の観測、 超新星の光度変化の観測などでは 同じ視野内の星 (参照星) を基準にして、 相対的に光度変化を追うことがあります。 このような測光を相対測光 (relative photometry) といいます。

これに対し、 等級値の絶対値を算出 (零点を決める) する作業を 絶対測光 (absolute photometry) といいます。 絶対測光の本来の意味は、 星の光と地上実験室での光源を交互に観測して、 星の光をエネルギー単位で求めることです。 今の場合は標準星のデータを基に 等級の絶対値を求める作業ですから、 細かくいえば少し違います。 天頂角 (あるいは地平高度) に依存する大気吸収を評価しながら 標準星データと照合する測光を全天測光 (all-sky photometry) といいます。 今から紹介する例は、 視野内に標準星があるものです。 大変都合よく等級の絶対値を求めることができる例です。

過去に繰返し精密な観測が行なわれ、 その星の等級の絶対値を精度よく測定されている星を標準星といいます。 散開星団 M 67 は、標準星野として大変よく使われている領域です。 機器等級を算出した星も、標準星としてデータが発表されています。 機器等級 minst と、絶対値が分かっている等級値 m の差は 星に依らないはずです。

その差 D = C-25 を求めると、 として、標準星としてデータがない星についても、 機器等級を求めればすべて本来の等級を求めることができます。

ただし、この D の値は一定とは限りません。 色補正項というものが入っており、 その補正をする必要があります。 これは filter の response curve の標準のものとの違いに起因するもので、 精度高い測光、特に色の議論をする際には重要なものです。 これについては、節を改めて紹介することにします。 ここでは単一の D が求まるとして、 その値を調べていくことにします。

標準星のデータは、論文としてあるいはネットワーク上のアーカイブ・データとして 公開されています。

練習問題として、 サンプル画像に写っている全ての星の等級 (B,V,R バンドとも) を出してみましょう。


Tomita Akihiko; atomita @ center.wakayama-u.ac.jp