ぶつかったり重なったり 学生ひとりひとりの思い 吹奏楽団定期演奏会が描く軌跡

ぶつかったり重なったり 学生ひとりひとりの思い 吹奏楽団定期演奏会が描く軌跡

トピックス

・定期演奏会が盛大に開催される
・和田健志団長(経済3回)の話
・ルポ企画「密着初心者」―大学で初めて吹奏楽に挑む2人のストーリー
・語る「一人一人が音楽家たれ」―吹奏楽団音楽監督の米山龍介名誉教授
・インタビュー「学生指揮の葛藤と団員への感謝」―山﨑琴音さん(教育3回)
・この人に注目―団の雰囲気向上を考える次期団長の明賀諒さん(教育2回)と「音楽が自分の核」と語る岩崎翔馬さん(経済2回)
・編集後記

【第41回定期演奏会、盛大に開催】

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(金管楽器、木管楽器、打楽器などの重層的なハーモニーが大ホールに響き渡った=12月14日17時45分、和歌山市民会館、筆者撮影)

 今年で41回目となった和歌山大学吹奏楽団(WUWO)の定期演奏会(定演)が14日、和歌山市民会館の大ホールで開かれた。同楽団の団員57人が繊細かつ迫力ある演奏を披露した。
 指揮は、同楽団音楽監督の米山龍介和歌山大名誉教授、教育学部3回生の山﨑琴音さん、経済学部2回生の岩﨑翔馬さんが務めた。演奏会は2部構成で行われた。1部ではクラッシックを中心に「olympiada」「『ノートルダムの鐘』より」などが、2部ではOB・OG12名も加わり、ポップスを中心に「シロクマ」「嵐メドレー」などが演奏され、アンコールも含め、計11曲が披露された。
 和歌山県教育委員会、和歌山市教育委員会、朝日新聞和歌山総局、和歌山大学・職場・一般吹奏楽連盟が後援。
 会場には、幼い子供から高齢者まで大勢の人が詰めかけた。訪れた人は、力強い演奏と艶やかな音色、団員の真剣な表情に、時折、手拍子を交えながら聞き入っていた。富山県から来た50代の女性は「音がきれいにまとまっていて温かみのある演奏だった。みんなでペンライトを振る演出もよかった」と笑顔で話した。また、和歌山市から来た20代の男性は「ソロで演奏する奏者とバックで演奏する奏者の掛け合いに団員たちの信頼関係を見ることができた。全体を通して団員たちの姿がまぶしかった」と語った。
 演奏会終了後、大ホール付近にあるロビーでは、3・4回生の団員が訪れた人たちを見送った。そこで団員たちは、ゆかりのある人たちと話に花を咲かせたり、記念撮影をしたりしていた。涙ぐむ団員と関係者が抱擁する場面もあった。
 今回の定演は例年の会場としていた和歌山県民文化会館(県文)から和歌山市民会館に変更、3部構成も見直して2部構成とし、各部の曲数を増やした。

団長・和田健志さん(経済3回)の話

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(写真提供:和歌山大学吹奏楽団)

 まったく吹奏楽経験のなかった初心者が団長になったケースは初めてだろう。その意味で定演が成功したことは大きな達成感がある。今まで、初心者としての経験のギャップを埋めるため、依頼演奏に全て出席したり高校の定演を見学したり、勉強してきた。今回、団員がサンタに扮したことやサイリウムをみんなで振る演出はその結果だ。
 定演が成功に終わったのは、今まで指導してくれた先輩やひとりひとり役割を果たした団員、いつも支えてくださっている方々のおかげ。前団長にも支えてもらった。感謝の気持ちを伝えたい。
 次の幹部には、今までよりもっと冒険して、団員もお客さんも楽しめる団にしていってほしい。そして、「和大の吹奏がおもしろい」と有名になってほしい。演奏会により多くの人が来てもらえるようにしたい。

【ルポ・密着初心者 「憧れて」「周りに流されて」―初めての吹奏楽、重なった2人の思い】

 ステージの1番後ろ、1段高い場所から譜面台越しに、ずらっと並ぶ奏者を見下ろす。「緊張するから客席は絶対見ないようにしよ」。心で言い聞かせ、北島綾香さん(経済1回)は指揮者を見つめた。
 下から見上げた、ライトの光を浴びる指揮者の姿。「かっこいい」。オーボエを握る西端那菜さん(経済1回)は心の中でつぶやいた。指揮棒を持つ手が大きく、ぐっと振り上げられる。定演が開演して1曲目、すでに感極まっていた。

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(演奏に臨む北島綾香さん(左上)=12月14日、和歌山市民会館、筆者撮影)

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(演奏に臨む西端那菜さん=12月14日、和歌山市民会館、筆者撮影)

<高校生のときから憧れて>
 4月8日、学生会館の入り口横にある階段に新1回生の西端那菜さんは足をかけた。上るのをためらう気持ちもある。だが、1歩踏み出し、2階にある吹奏楽団の練習室へ向かった。
 吹奏楽は高校生のときに始めようと思った。しかし、実力校の練習や数あるイベントと勉強が両立できるか不安で結局は諦めた。それでも、運動会などで堂々と演奏する吹奏楽部の姿を見て後ろ髪がひかれた。
 後悔を引きずりながら、和歌山大学に入学。そこに吹奏楽団があり、入団を決意した。しかし、1度固めた意志も揺らぐ。入学後、様々な部活やサークルの活動を見たとき、このまま吹奏楽団に入って大丈夫だろうか、と思った。経験者ばかりの中でついていけるか、不安を感じた。
 階段を上りきった先に団員がいた。「お話聞きたいです」思い切って声をかけると、快く応じてくれた。憧れの楽器に初めて挑戦させてもらった。1週間くらい考えたが「ここで諦めたらだめだ」、入団を決意した。
 25日、新1回生と団員の合同合奏を聴きに、再び練習室を訪ねた。まだ入団の確定まで10日以上あるが、「後戻りできないように」と、入団届を提出。団員としてスタートをきった。

<優柔不断な自分>
 「綾香、ひまやろ?一緒に行こ」。4月11日、北島綾香さんは、大学に入学して出会った友人2人から吹奏楽団の新入生歓迎会に誘われた。2人は吹奏楽経験者。誘われるがまま、学生会館の2階を訪れた。
 その日は新1回生の経験者と団員の合同合奏だった。初心者の自分は1人、廊下で先輩から説明を受けていた。楽器体験、食事会にも参加。「いい雰囲気」と感じた。
 後日、授業の合間などで再び楽器体験に行った。「先輩に誘われたし、とりあえず」。決めきれず、ついに入団が確定する5月6日を迎えた。友人にも聞かれる。「綾香は結局どうするの?」「――新しいことやりたかったし」。そう言い聞かせ入団を決めた。

<期待を超えたい>
 入団後、那菜さんは、第2希望に書いていたオーボエに決まった。オーボエは木管楽器の中で最も難しいと言われている。音を出して1つの旋律を奏でられるまで1ヵ月かかった。みんなで合奏するのにもなかなか加われない。合奏する部屋とは別の部屋で楽譜と向き合った。正直、寂しかった。
 「吹けるようになったり指覚えたりするの早いね」。那菜さんに声をかけたのは3回生でオーボエ担当の塩﨑真央(まひろ)さん。那菜さんの入部直後から指導してきた。那菜さんは2時間かけて学校に通うため夜遅くまで残って練習できない。にもかかわらず、塩﨑さんは「私が設定した目標を超えて吹けるようになってくる」と言う。「那菜ちゃんの努力を近くで見て、私も頑張ろうって思う」。

<仲間>
 パーカッションに決まった綾香さんは最初のころ、部活に取り組む自分に疑問を抱くことがあった。「周りに流されて入団して、なんで今吹奏楽をやってるんだろう」。分からないこともたくさんある。楽譜が読めないし、扱う楽器が多い。練習中失敗も重ねた。「ビビり」の自分には音を出すのをためらうこともあった。でも、「合奏のとき間違えてもいいから音出すといいよ」という先輩の言葉に背中を押された。
 パーカッションのメンバーと一緒にいると楽しい。先輩たちの掛け合いに何度も笑ってしまう。先輩のもとへスキップで駆け付けると驚かれた。友人に言われた。「先輩たちが綾香のお母さんみたい」

<オンステージ>
 8月21日、2人は初めての演奏会「サマーコンサート(サマコン)」を迎えた。練習とは違い、ホールには多くの観客がいる。演奏に入ると緊張は解けた那菜さんに対し、綾香さんは経験にないほど緊張した。
 「お客さんが来て、聞いてくれる。これはやりがい」「みんなで1つのものを作るのは楽しい」。計2日のサマコンで吹奏楽の魅力に触れた。

<追いつきたい>
 定演の練習は10月に始まった。2ヵ月の練習期間で取り組む曲は11曲だ。
 那菜さんは最初、楽譜通りに吹くので精一杯だった。しかし合奏のとき、指揮者から「クレシェンドや強弱が表現できるように」と言われた。どうしたらいいだろうか。動画再生サイトで楽曲を1日3回聴いた。合奏の前に指揮者の山﨑琴音さんが教えてくれる楽曲の解説を思い浮かべながら演奏した。「がっつくタイプ」を自認する。期待に応えたい、言われた以上のことをやりたい、そんな思いで日々練習に取り組んだ。
 オーボエの先輩・塩﨑さんが風邪で休んだある日の合奏練習。塩﨑さんが吹くことになっているソロのパートを那菜さんが代わりに演奏した。「音外さずにきれい」「すごい、感動した」。那菜さんの代奏を聴いた先輩たちは異口同音に話した。

<難題>
 11月中旬、突然、綾香さんに鍵盤を叩くという役割が降ってきた。そのときは軽い気持ちで「いいですよ」と返事。しかし、実際やってみると2割ほどしかできなかった。
 「できるところを確実に」。そう考え、先輩にアドバイスを請うた。そこで、同時に2つの音を出さなければならないところを1つの音に絞って叩くことにした。そしてひたすら黙々と練習に取り組んだ。
 本番前日の夜11時。パーカッションの先輩、和田健志さんからLINEがきた。「自分も初心者で始めたから分かる。まだ練習したい気持ちもあるだろう」「最後はやりきったって思えるよう演奏しよう!」。入団直後から付きっ切りで指導してくれた先輩からのメッセージ。「先輩にはすごい感謝してます」。普段言えない本音で返信した。

<大舞台で>
 迎えた定演当日。2人は少しばかりのさみしさを抱え本番に臨んだ。「今のメンバーでの演奏はこれで最後」「今まで目標にしてきたことが終わる」。
 綾香さんは本番直前まで1人、鍵盤に向かい、黙々と練習していた。今までずっと頑張ってきた。本番では、できるようになったことを出し切った。でも、少し後悔が残る。できそうでできなかった部分が1ヵ所あったが、本番でそこに挑戦しなかった。「今回の反省点」と振り返る。
 アンコールの曲「You Raise Me Up」。照明が落とされ暗くなったホールの中で1点、ライトを浴びたユーフォニアムから優しく落ち着いた音色が響く。那菜さんは、隣に座る塩﨑さんが泣いているのに気付いた。思わず自分の目頭も熱くなった。

 当初、入団に迷いもあった2人。でも、「入ってよかった」と口をそろえる。「できないことができるようになる楽しさがある」「流れに身を任せたら楽しいことが待っている」と言うのは綾香さん。那菜さんは「入るの悩んでたけど挑戦してよかった」「音楽的なところを深めるべく、どんどんレベルアップしたい」と語った。

【語る・吹奏楽団音楽監督の米山龍介さん(和歌山大名誉教授)】

<世界的なオーボエ奏者として知られ、指揮者としても活躍する米山龍介さんに、吹奏楽団への思いを語ってもらいました>

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 学問の専門が異なるいろいろな学生が「音楽が好き」という一点で集う、それがこの吹奏楽団だろう。コンクールには出ずに、和歌山とともに歩むのが特色。「ブラスバンド」ではなく「ウインドオーケストラ」ということにこだわっている。吹奏楽だけども弦楽器のコントラバスをベースパートに取り入れているのは、最も低い音の管楽器のチューバと共鳴させ、音色にマイルドな味わいを引き立たせるためだ。
 指揮者として、学生に対し右向け右ではやらない。同じ船のクルーだと思う。学生は50分の1の部品ではなくひとりひとりが音楽家であってほしい。そのうえで私は指揮者として彼らの個性を引き出し、1つの演奏としてうまくまとめる役割と責任がある。私がよく言う、感情たっぷりに演奏する「歌う」表現は、様々な喜怒哀楽を経験して半分大人になった大学生だからできること。そういうところも特色だと思う。
 今年の吹奏楽団のカラーは「マイルド」だった。派手すぎることもなく地味すぎることもなく、中庸といった感じ。その点、去年は「シャープ」だったね。音楽には性格が出る。だからその年の中心学年によって違ってくるんだろうね。

【インタビュー・学生指揮の山﨑琴音さん(教育3回)】

<定演を前に、本番にかける思いや1年間の活動について聞きました>

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―和歌山大学吹奏楽団とはどんな団ですか?
 4学部、様々な専門分野を持つ学生が集まり、運営も演奏も手作りでやっています。今回の定演のポスターも団員が作りましたし、HPの運営や渉外活動もすべてが学生主体です。和歌山県内各地で演奏会をおこなっています。
―指揮者としての1年、振り返るといかがでしたか?
 1曲1曲を研究できることや、指揮をしながら団員みんなと通じ合えるのがやりがいです。
 一方で、つらいこともありました。指揮者としてみんなに指示を出すからには誰よりも上手くないといけない。けれど、自分に秀でた能力があるわけでもない。理想像とかけ離れた自分、力不足に、みんながついてきてくれないかも、という不安で、自分を責めていた時期もありました。
―強い責任感を持って務められてきたんですね。
 それでも、学生指揮をされていた4回生の三浦佳穂先輩をはじめとする団員に相談したこともありました。どんなことも受け止めて、共感してくれて、励ましてくれました。そうした、いつも支えてくれる団員や、演奏会などで声をかけてくれるお客さんに感謝の気持ちを伝えたいと思っています。今回の定演で恩返しができるよう、頑張ります。

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(合奏練習で指揮をする山崎さん。音色の違いに耳をすませる=11月27日、学生会館)

【この人に注目① 団の雰囲気向上を考え続ける副団長の明賀諒さん(教育2回)】

 先輩がどう動いているか、観察の目を光らせる。「勉強できる最後の定演」。来年に向け、自分の中で準備は始まっている。
 10月、部活が「しんどい」と感じ、丸1か月休んだ。たまに顔を出したり団員から話を聞いたりして感じた。「団の雰囲気が悪い」。友人に相談すると言われた。「まずはお前が来い」。
 次期団長としてやれることは何か。同期の団員を集めて話し合った。「細かいことから心がけよう」。練習室前の靴を並べる。あいさつをきちんとする。早めの行動を心掛ける。これがスタートラインだ。

【この人に注目② 「音楽が自分の核」と語る副学生指揮の岩﨑翔馬さん(経済2回)】

 楽譜に書かれていない曲の盛り上がり・下がりを自分で考え、表現する。「これぞ音楽。解釈が何通りもあって正解はない」。団員ひとりひとりが持つ50通りの解釈を1つの音楽にまとめるのが指揮者の役割だ。
 指揮者と奏者の両立が難しい。指揮者として、ときに団員に注文をつけなければならないこともある。自分の演奏の技量がついていかないと説得力がない。部活が終わっても学校に残って練習する。
 すでに来年の定演を意識している。「指揮者だけでなく全員で議論してつくる音楽にしたい」。柔和な目の奥が鋭く光る。

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(トロンボーン奏者で副学生指揮の岩﨑さん(左)とチューバ奏者で副団長の明賀さん)

【編集後記】

 分厚い扉を押し開けると、弦楽器の重厚な低い音が体の中を震わせる。そこに管楽器の高い音が加わり、重層的なハーモニーで部屋の空気が振動する。◆昨年の11月、初めて吹奏楽団の練習室を訪ねた。目の前でたいそうな楽器を操るのは自分と同じ大学生。でも、そこから醸し出される音色に畏れ、おののいた。◆そんな彼らが取材中、小欄に葛藤を吐露した。「言い合いになった」「自分の能力不足」「正直しんどかった」。愛することを追求したいがゆえ、大勢が切磋琢磨する中での難しさもあるだろう。団の人間味を見た気がした。◆開演前、舞台裏で全員が円陣を組み、頼もしい足取りで舞台上へ。我が身を省みる。今まで、葛藤するほど突き詰められたことはあっただろうか。

(観光4回・岩安良祐)