国立大学法人 和歌山大学

全空間画像計測プロジェクト

「全空間画像計測プロジェクト」とは、撮影画像から物体の三次元形状や変形、ひずみを計測する技術をあらゆる分野で活用し、産業の活性化などを目指す取り組みのこと。構造物の破損などを調べたり、産業生産物の検査や医療の現場への応用も可能だという最先端の研究開発に密着しました。

最先端の研究開発「全空間画像計測プロジェクト」

全空間画像計測プロジェクトとは?

光波画像計測研究室
上段左から、藤垣元治准教授、福田智嘉羅さん、周暁尭さん、志茂公亮さん、西谷陸さん、柾谷明大特任助教、山中啓司研究員。下段左から、後藤良介さん、中坊真希子さん、近藤寛之さん、村上僚祐さん。藤垣先生の印象は?「話しやすくて、優しい。研究の内容なども道筋を示してくれます。でもたまに無茶を言います(笑)」。

「全空間画像計測プロジェクト」は、システム工学部 光メカトロニクス学科 光波画像計測研究室(藤垣元治准教授、柾谷明大特任助教)が中心となって行っている研究開発。つい最近、カメラで撮影した画像データを基に、高速かつ高精度で、物体を立体的に計測できるシステムを実現しました。

「実際の構造物は三次元構造をしていますよね。このプロジェクトでは、将来は、物体の外部の情報だけでなく、内部の情報も、超音波画像やCT画像のように計測することを目指しています。そこで、物体の外部と内部の両方を画像により計測することを『全空間画像計測』と名付けました」と、同研究室の藤垣准教授。プロジェクトの概要について伺いました。

プロジェクト創設のねらいと目的

「クオリティを向上させて競争力のある製品を作るためには、外観検査や内部欠陥検査は重要な要素です。また建物や橋梁といった大型構造物のわずかな変形や地盤の変位を計測することで、インフラの長寿命化や防災・減災に役立ちます。さらに光や画像を利用することで、高速、高精度にこれらの検査や計測を行うことができます。これまでに得られた研究成果を発展させ、多くの産業分野で活用、社会に貢献するために、学内・学外で関係する多くの皆さんの協力をいただいてこのプロジェクトをつくりました」。

産業生産物・加工品の検査、人体計測・医療や福祉、服飾への応用を主とした研究。土木・建築分野では、がけ崩れの早期検知や橋、ビルなど大型構造物の欠陥調査などへの活用から防災・インフラ構造物の長寿命化に。電子・金属部品の検査装置や手術用ナビゲーション、農産物の成長計測や仕分け装置、考古物や文化財の三次元記録、さらには宇宙構造物の三次元計測など、研究成果の応用は多岐に及ぶ。

「プロジェクトの目的は、画像計測に関する研究の実用化を目指し最先端の研究開発を行うことが1つ。それに多くの産業分野への技術移転と人材養成ができる仕組みを作り、産業の活性化、新しい産業の創出に貢献することです。でも本当の目的は、卒業研究や大学院の学生に意欲を持って研究に取り組んでもらうことです。それがいい研究成果に結びつき、世の中に役立つものが生まれます。役立つことが分かるとさらにやる気が出てくるという好循環が生まれます。教育と研究の両方でいい成果が出せるようになります」

斜面の動きを計測すると・・・

ここで実際に研究のデモンストレーションをしていただきました。場所は学生自主創造科学センターがある総合研究棟の4階。パソコンにつないだカメラの方向に遠く見えるのは工事現場の斜面です。そこには2つの看板と隣接して1本の杭が設置されており、その様子はリアルタイムにカメラで撮影されています。隣接した杭を叩くことによって、わずかに斜面が動き、それで生じる看板位置の「ずれ」の量が、パソコン上の画面に現れます。位相解析という手法を使うことで、150メートル離れていても0.1ミリの動きが検出できるそうです。

「自分の家の裏山のがけ崩れを自分の家で検知できるようになればと考えました。そこで、簡単で安く設置できる小型の計測システムを作ろうと思ったのがきっかけです。例えば地面が数ミリずれた後、実際に土砂崩れが起こるのはある程度時間が経ってからということがよくあります。そんな時に逃げる余裕が生まれるわけです。今の世の中にあるものは、設置に手間がかかってコスト的にも高い。将来的には、日本中、世界中で使ってもらえるものにしたいと思っています」。

斜面の動きを計測すると・・・斜面の動きを計測すると・・・

企業連携と学生の人材育成

プロジェクトの特徴は、研究だけでなく全空間画像計測技術の発展と普及を行うために、新技術の研究開発から技術移転のための技術研修・人材育成をトータルに行う点にあります。

研究室の学生にも積極的に企業と関わってもらっていると藤垣准教授は話します。

「例えば展示会に出展して参加企業の担当者を前に実験のデモやプレゼンテーションをしたり、企業の研究者との共同研究など。企業の方々と一緒に取り組むと、社会性が身に付くし、コミュニケーション能力も培われます。もちろん研究も進みます。やりがいがありますし、学生たちのモチベーションも高まります」。

プロジェクトの今後

今後の展開として、企業との共同研究はもとより、藤垣准教授は大学発ベンチャー企業の設立を掲げます。「新技術を産業界に迅速に普及させるために、新技術のコアとなる部分を集約してユニット化した部品やデバイス、ソフトウェアを製造販売するベンチャー企業です。世の中に出す、企業に広める役割を担ってもらおうと考えています。地域の活性化にもなります」。

また産官学連携体制の強化を視野に入れたコンソーシアムづくりも準備しているとのことです。

「最新の技術情報の交換や人脈形成の場を作ります。企業の皆さんは、本コンソーシアムに参画することで、最新の情報や人脈形成、技術研修への参加、特許ライセンスや試作装置の利用ができます。そして全空間画像計測技術を効率良く導入することで、事業に活かせるようになります」。

将来的には用途に応じたシステムを、低コストで誰にでも気軽に使えるようにしたいと藤垣准教授。安心して生活できる社会構築に貢献するために、地域、企業との連携を深めた最先端の研究開発が期待されます。

Demonstration of study results

リアルタイム高精度三次元形状計測

「画像の1画素ごとに投影格子の位相値と、三次元座標の関係を全てテーブル化することで、従来にない高速かつ高精度な三次元計測を実現。工業生産品の検査に使えるほか、人体の計測にも使える。人間の筋肉や服の動きなどはもちろん、医療分野では目測ではわからない0.1ミリ以下の腫れも計測でき、遠隔診断にも使える。例えば家のヘルスメーターにこのシステムを付けると、お風呂上がりのお腹のへっこみなどがわかってしまうかも。

0.1ミリ以下の腫れも計測できる

周波数変調格子投影法を用いた形状計測手法

リアルタイムではないが撮影時間が速く、比較的低コスト。カメラとプロジェクタとパソコンだけで計測システムが組める。実際に手術ナビゲーションシステムとして使われようとしている。奥行の深い物体に対して精度よく形状計測ができ、表面の色も再現できる。これは学生が発明したそうである。製品化されて特許収入も入っているとのこと。写真はサイコロのぬいぐるみを計測中。

サイコロのぬいぐるみを計測中

位相シフトデジタルホログラフィを用いた変位・ひずみ計測

レーザーを用いて、非接触かつ全視野で変位・ひずみ分布を計測できる。サブナノメートルという変位分布の計測精度は世界一。主な用途としてはマイクロマシンを測ったり、構造物の欠陥検査や材料試験などに使われる。現場で使える小型のひずみ分布計測装置も開発中。

レーザーを用いて変位・ひずみ分布を計測

サンプリングモアレ法による三次元物体の形状ひずみ動的計測システム

動的状態の三次元物体の形状計測とひずみ分布計測が同時にできる手法を開発。ゴムや人体のように大きく伸び縮みしながら形が変わっていくようなものでも計測できる。写真は試験装置の上で時速80キロで回っているタイヤを計測中。1回転ごとにシャッターを切って、その画像をつなぎ合わせてモニターに。「どこが変形するか、耐えられるか」といったことがひずみを計測することで解明できる。その結果を使えば、性能のいいタイヤが設計できる。今後、タイヤの新製品の開発にも利用される予定。将来は、この技術を活かして作られたタイヤが街中を走っているかも。

時速80キロで回っているタイヤを計測中

連絡先

和歌山大学システム工学部 光メカトロニクス学科
光波画像計測研究室
担当:藤垣元治 E-mail[fujigaki@sys.wakayama-u.ac.jp]
tel. 073-457-8176
fax. 073-457-8213
URL http://hamachi.sys.wakayama-u.ac.jp/