国立大学法人 和歌山大学

わだいの人

[教育学部教授]海津 一朗さん

フィールドで感じる中世の世界 現存する貴重な文化財を次代へと繋ぐ

[教育学部教授]海津 一朗さん

生まれも育ちも東京都の杉並区。元、博物館学芸員という特殊なキャリアをもち、都邑独特のインテリジェンスな風格が漂います。今回紹介するわだいの人は、教育学部の教授でもあり、和歌山大学内にある「紀州経済史文化史研究所」の副所長でもある海津一朗教授。見た目のスマートでクールな印象とはがらりと異なるユーモアあふれる講義内容で、学生たちの注目と好奇心を集めています。

専門は日本中世史、社会史。和歌山に移住したのは12年ほど前。中世史の中でも特に、他の都道府県と比べて、荘園・村落の史料が豊富に残る和歌山に魅力を感じ、花の都を捨て移住を決意。紀州地域の経済や文化の歴史を研究しながら、前職の博物館学芸員としての知識と手腕を遺憾なく発揮し、県指定文化財の紀州藩三浦家文書など、数多くの貴重な史料を保存・伝承する同研究所の展示室もプロデュース。2007年には長年にわたる活動の蓄積が認められ、博物館相当施設として指定されました。

「和歌山の中世で面白いのは、豊臣秀吉の天下統一の前。『惣国一揆』と呼ばれる地侍と百姓の連合があり、当時は自治支配が行われていました。戦国時代のようなピラミッド社会ではなく、地域で選出された代表者が集まって合議を行う国づくり。後に、ヨーロッパ人宣教師のフロイスも『富裕な農民による共和国』と伝えているように、国政も経済も豊かであったと思われます」。

これだけ聞けばまるで、今の地方分権や住民自治は惣国の国づくりがはしり。しかも太田の惣国は、日本最後の惣国として秀吉軍と対峙。時代を動かした歴史的事実と、その証拠を今でも地域の中に残しています。

「すごいのは、今もその歴史が文化財として生きているところ。唯一の秀吉水攻め堤跡として現存する出水堤防もそのひとつ。数えだしたらきりがありません。ただその重要性があまり知られていないことと、保存できていないことが、とても残念で危機感さえ感じます」。

海津教授がフィールド活動を重要視するのはこのため。活動は、学生を巻き込んだ地元の祭りへの参加や出張講演会、さらに『フィールドミュージアム』と題したパンフレットやDVD、紙芝居・戯曲の制作など多種多彩。学校では決して収まりきらない、肌で感じる中世の空気がフィールドいっぱいにあふれていることを、学生だけでなく、地元の子どもたちにも知ってもらいたいと話します。

今年3月には、フィールドミュージアムを構想する和歌山大学博物館のシリーズ第一弾として、DVD「秀吉の太田城水攻め」を発表。紀の川を氾濫させるという空前絶後の規模で行われた水攻めの真相を解明し、歴史的な地元の教育用教材として、和歌山市内の小・中・高等学校、県内の公共図書館などに配布されています。

DVD「秀吉の太田城水攻め〜中世の自治から近世の平和へ〜」
DVD「秀吉の太田城水攻め〜中世の自治から近世の平和へ〜」。
県内の図書館などの他、紀州経済史文化史研究所の展示室でも希望により上映。

紀州経済史文化史研究所
■紀州経済史文化史研究所(和歌山大学内附属図書館棟3階)
研究施設として、また貴重な和歌山の遺産を保存・伝承する大学博物館として、
一般公開しています。
【開所時間】月曜〜金曜:午前10時〜午後4時
【常設展開館日】水曜〜金曜:午前10時30分〜午後4時
【閉館日】土曜、日曜、祝日、年末年始

海津 一朗さんのプロフィール

[教育学部教授]
海津 一朗さん

1959 年東京都生まれ。史学博士。紀州経済史文化史研究所 幹事(副所長)。日本中世史、社会史。「元寇」「南北朝内乱」「悪党」「荘園」「神国思想」をキーワードに、日本史史料研究やわかやま発見学など専門分野で活躍。学芸員の経験を生かし、和歌山大学内にある「紀州経済史文化史研究所」の展示室などもプロデュース。古文書や民俗など、歴史的希少価値の高い所蔵品の保存にも精通し、文化継承に尽力をそそぐ。
著書「中世終焉」(清文堂)他、今年3月、教育用教材としてDVD「秀吉の太田城水攻め」を制作。