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和歌山大学生涯学習教育研究センター

地域連携プロジェクト

 
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電波望遠鏡プロジェクト

「8mパラボラアンテナ、新しい使命を帯びて宇宙の観測へ」

   

2009年2月22日更新

概要

 野辺山観測所で1994年に運用を終了し、1998年に和歌山県のみさと天文台に移設、展示されていた口径 8m の太陽電波望遠鏡を、波長 21cm の水素原子(HI エイチワン) 輝線観測用の望遠鏡として改修、再生するプロジェクトが2006年1月から進められてきた。水素原子は銀河系円盤いっぱいに広がっており、また円盤内の星間物質の中で、もっとも普通に存在するガスである。欧米では多くの電波望遠鏡が HI 観測で活躍している。一方わが国では、より波長の短い電波での観測で特徴を出し、本格的な HI 観測は行われてこなかった。本望遠鏡の完成により、国内での継続的な HI 観測が可能になる。さらに、HI 観測が銀河の渦巻き構造を明らかにしたという歴史的観測を大学生や高校生が追体験することなどで、天文教育に新しい生きた教材を提供することができる。

電波天文学と波長21cm

 電波天文学は、1931年にジャンスキー(K. G. Jansky)がメートル波の太陽系外(天の川)電波を発見したことから始まっている。銀河系内にある星間物質は、電離した水素(HII エイチツー)があれば、その発する強い可視光の輝線スペクトルによって観測が可能であるが、電離していない水素原子(HI)は、観測できないと考えられていた。可視光では、星間物質の吸収の影響を受けやすく、天の川の方向には遠くまで観測することができない。ところが、1944年、ファン・デ・フルスト(H. C. van de Hulst)は、水素の電子のスピンの方向が遷移することで、水素原子から波長21cmの電波輝線が放射されることを理論的に発見した。もし、この電波が観測できるようになれば、星間吸収の影響をほとんど受けないため、銀河の奥深くまで、観測することが可能になると考えられた。1951年、ハーバード、ライデン、シドニーなど多くの天文台でほぼ同時に、銀河からの21cm輝線の観測に成功した。これ以降、銀河を観測する標準の道具として、波長21cmの電波望遠鏡が活躍している。

21cm電波観測で何が分かるのか?

 水素原子(HI)の出す21cm輝線は、レーザー光線のように決まった周波数で放射される。しかし、放射をする水素原子が観測者に対して運動をしていると、その運動の速度に応じて観測される周波数が変化する。これはドップラー効果による。電波観測機器は高い周波数分解能を持つので、水素分子の詳しい分布や運動の様子を調べることができる。この水素原子の観測により、我々の銀河系の回転曲線を測定できる。回転曲線とは、横軸に銀河中心からの半径をとり、縦軸に各半径に対応する回転速度をプロットした曲線である。この回転曲線は、我々の銀河系における質量の分布と密接に関係している。 また、観測される21cm輝線の強度が強い場所は、水素原子が多く存在する。強い放射の観測される場所は、銀河系の渦巻腕に対応すると考えられる。そこで、回転曲線を用いて、観測されたドップラー効果の大きさから、渦巻腕に対応する銀河系の円盤上での位置を決定する事ができる。これにより、真横からしか観測できない我々の銀河の、真上から見たイメージを得ることができる。

パラボラ面の改修

 展示されていた望遠鏡のパラボラ面は、より長波長の太陽観測用であったこと、また、移設時にトラックで運ぶために切断し、再度溶接で組み立てたために、波長21cmの観測で要求される面精度(1cm)から大きく劣っていた。そこで、赤道儀架台のフォークにはさまれる中心部分だけを残し、あとは、新たに設計し、製作した。すべての姿勢で要求される面精度を達成できるよう、トラスの結合方法にユニークな工夫を行っている。また、焦点支持は、できる限り損失を少なくするために、1本で行い、強度を高めるために円弧状にした。2006年5月26日、太陽用の旧パラボラに替えて、新調したHI観測用のパラボラを赤道儀に取り付けた。なお、このパラボラ面の改修については、平成17年度〜20年度の和歌山大学のオンリーワン創生プロジェクト経費(代表:尾久土正己)に採択されている。パラボラの付け替えの映像はこちら

受信機の製作

 焦点部に取り付けるフィードにはホーンアンテナを用意した。フィードで受けた信号は、低雑音アンプ(LNA)で増幅したあと、低損失の同軸ケーブルで観測小屋に導かれ、ダウンコンバーターを介して高速サンプラーに接続している。この信号をUSB経由でパソコンに取り込んでいる。取り込んだデータは、パソコン上で処理され、分光計としての機能を実現している。なお、受信機の製作については、平成17年度の国立天文台・大学特別支援経費(代表:富田晃彦)に採択されている。

教育利用

 以上のパラボラと受信機を使って、測定や試験観測を行い、要求された性能を達成する。その後、本観測に入るが、その際、マシンタイムの多くを、大学学部生、修士課程の卒論、修論、自主演習に与えることを考えている。すでに、電波天文学に関心のある全国の高校生の利用も始まっており、成果は天文学会のジュニアセッションで発表されている。さらに、全国の学校や科学館でも電波観測を行うことができるよう、学部生によって、教材用電波望遠鏡(口径2m)が製作された。すべて学生の手で安価に製作されており、このノウハウを公開することで、教育現場への普及を狙っている。さらに安価なシステムとして口径1mの望遠鏡を製作し、工作教室を実施するなど普及に努めている。なお、この2mアンテナの製作は、和歌山大学学生自主創造科学センターの平成17年度の自主演習プロジェクトによって行われている。8mアンテナや2mなどの小型アンテナを利用した教材開発については、平成17年度〜18年度の文部科学省科学研究費(代表:石塚亙)に採択されている。

試験観測の結果

 8m望遠鏡では、天の川に沿ってスペクトル観測を行い、右下図のようなスペクトルマップを得ることに成功している。下図は、これらのスペクトルから描いた私たちの銀河系の姿である。また、今後の研究観測に向けて、ビームサイズの測定や、連続波観測のためのシステムの整備が現在進行中である。また、西はりま天文台の鳴沢氏らの呼びかけに応じてSETIの共同観測にも参加する予定である。

リンク

野辺山動スペクトル計(この望遠鏡のかつての姿)

FortyFoot Telescope(アメリカ国立電波天文台での教育用望遠鏡)

和歌山大学学生自主創造科学センター(教材用望遠鏡の製作に取り組んでいる)

全国同時SETI観測実験(西はりま天文台の鳴沢氏のHP)

日本天文学会2006年春季年会記者会見用資料(11MB, ppt形式)

研究組織

 尾久土正己 和歌山大学観光学部・学生自主創造科学センター
 佐藤奈穂子 和歌山大学生涯学習教育研究センター
 富田晃彦 和歌山大学教育学部
 石塚亙 和歌山大学教育学部
 西端一憲 元・和歌山大学生涯学習センター
 下代博之 下代組機工
 豊増伸治 みさと天文台
 市川雄一 元・日本通信機(株)
 藤沢健太 山口大学理学部
 祖父江義明 鹿児島大学
 半田利弘 東京大学理学部天文学教育研究センター
 戎崎俊一 理化学研究所
 佐藤文隆 甲南大学理学部

 

 

↑写真:野辺山時代の電波望遠鏡(動スペクトル計

 

↑写真:新たに製作したHI観測用パラボラ鏡

↑写真:2m鏡と得られた天の川のHIスペクトル

↑8m望遠鏡で得た天の川のHIスペクトル。天の川を銀経10度刻みで観測している。何本かの腕と銀河回転が見えている。