渡部 直輝さん

渡部直輝
卒業 2010年3月 精密物質学科
修了 2012年3月 物質科学クラスタ
所属研究室 構造有機化学研究室 奥野グループ
勤務先 三菱自動車工業株式会社
開発本部 機能実験部 ブレーキ技術開発
職種 技術職(エンジニア兼テストドライバー)
現在携わっている仕事内容について教えてください。
私は実験部門の中にあるブレーキを開発する部署に所属していますので、採用予定のブレーキ部品と計測器とを試作車に取り付け、実際にテストコースを走行し、得られるデータの収集・解析を行っています。また気温や湿度などをコントロール出来る設備を用いた台上試験では、炎天下の砂漠地帯やロシアの極寒地などの日射や気温を再現したりと、ありとあらゆる場面・状況での使用を想定した試験も行うので、1車種の開発を終えるまでにブレーキ分野だけでも200を超える試験を行います。
今の勤務先に就職した理由をお聞かせ下さい。
私が幼い頃、両親がデリカスターワゴンという悪路も走れる当社製の車を購入しました。キャンプや川遊びによく連れて行ってもらい、川の中やゴロゴロした石ばかりの河川敷を走行したりと本当に楽しい日々を送りました。私は子供ながら、いつもワクワクさせてくれるデリカを家族のように感じていました。もともと車が好きだったこともありますが、このような経験から世界中の方々に「心躍らされる家族」との生活を提供したいという気持ちが大きく、三菱自動車に就職しました。 また金属、布、ゴム、ガラス、プラスチック等、多くの材料から作られる自動車部品は車1台当たり約3万点、そしてそれ以上もの数の取引会社が存在しています。言い換えると自動車メーカーで働くことは製造業をはじめ、日本の産業を支えることに繋がるのではないかと考えたことも、自動車メーカーに就職した理由のひとつです。
私は子供の頃に「自動車屋さんになりたい」という夢を持っていました。それは漠然としたもので、興味あるもののうちの一つにしか過ぎなかったように思います。しかし学生の頃に、現代の名工にも選出された加藤博義さんという有名なテストドライバーの方の仕事ぶりについて知る機会があり、テストドライバーという職種に非常に興味を覚えました。そのことがきっかけで漠然とした夢から「自動車会社で自ら試験を行うエンジニアとして働きたい」という明確な目標に切り替わりました。当社では職種や配属部署は、一部を除き採用後に決定されますが、自分の希望を達成するために成すべき事を考え、きちんと準備することで、実際にテストコースを走行して試験をするという業務に就くことが出来ました。
仕事の楽しさについてお聞かせ下さい。
試験結果が全て目論見通りだと良いですが、実際は思い通りの結果が得られないこともあります。そのようなときは関連部署の方も交えて議論し、試作品を作っては「ああでもない、こうでもない」とテストを繰り返します。困難と思えるようなことでも、様々な分野の専門家と協力し、ひとつのものを作り上げるという点に楽しさを感じます。
またエンジニア兼テストドライバーとして業務に当たる社員は、正確な試験データを取得するため、そして個人の車両評価能力の幅を広げるため、運転技量向上を目的とした教育を受けることになります。そこでは自動車工学の知識と運転技術とを修得するため、エンジニアとしての一能力を伸ばせることに喜びを感じます。
これまで関わってきた仕事の中で、印象に残ったことや、達成感の得られたことを教えて下さい。
当社初採用のブレーキシステムの開発を任されたことです。誰も経験のないコンポーネントだったため、五里霧中のなか試行錯誤を繰り返しました。サプライヤー企業や関連部署の方々と連携をとり、懸念事項を一つ一つ解決することで新車種への採用に至ったことが最も印象に残っています。
大学院進学のきっかけはなんですか。
学部生の頃は就職活動を行い内定も頂いていましたが、「勉強できるのは今しかない」と感じたこと、またより専門知識を深めると共に、学部生の頃に取り組んでいた研究テーマを継続・発展させていきたいという明確な目的があったため、進学を決めました。
大学院での研究内容をお聞かせ下さい。
イナミン骨格を内包するジアセチレン誘導体の構造と物性について検討をしました。イナミンとはアミノ基が置換したアセチレン化合物を示す総称であり、この化合物は電子豊富なn系を有するために興味深い構造と電子状態とを持ちます。私はフェノチアジン骨格をジアセチレンで架橋した構造をした化合物Ptz2DAを合成し、電荷移動錯体の形成を試みました。その結果、クロロホルム溶液から濃縮法によりPtz2DAはTCNQと組成比が1:2の錯体を形成することがわかりました。
またTCNQ分子については、加熱によりアセチレン結合に付加するという反応が知られています。Ptz2DAとTCNQとを酢酸エチルに溶解させ加熱を行うと、付加反応が進行することが明らかになりました。付加した化合物については単離には成功したものの、構造解析には至りませんでした。しかし本系は同じ化合物の組み合わせで、電荷移動錯体と付加体とを与える極めて珍しい例であり、電荷移動相互作用と付加反応の位置選択性を検討する上で重要な系となります。
大学院の講義で印象に残っていることはありますか。
ゴムやエンジニアリングプラスチックなどの高分子材料は日常生活でよく目にする素材です。それらはどのような構造をしていてどの部分がどう物性に寄与しているのかなど、普段の研究では取り扱うことのない身近な物質に関して、様々な事を学べた高分子化学に関する講義が一番印象に残っています。
授業や研究など、大学院で学んだことで、現在の仕事に役立っているのはどのようなことですか。
私は有機化学に関する研究を行っていました。白衣を着用して試験管を振っているのをイメージしていただけると分かりやすいかと思います。そんな私が今は自動車の整備・試運転に関する業務に就いているのですから、学生時代の研究が直接活かされることはほとんどありません。しかしながら、効率的な仕事の進め方や試験結果に対するアプローチ手法などに差異はないので、大学で身に付く「物事に対する考え方」すなわち「論理的思考力」ならびに「考察力」は大いに業務の助けになっています。
学部と大学院で何が一番違うと感じますか(自分自身で実力が付いたと実感すること等)。
主観ですが、大学院は研究を目的とした学府という点が最も異なるように感じます。当然ながら大学院生の方が学部生と比べ、あらゆる面において求められるレベルが高くなります。大学院は学部の延長線上ではありません(M1≠B5、D1≠M3)。高い目的意識と忍耐力とを兼ね備え、修了時には修士あるいは博士という学位に見合った実力を身に付けなければなりません。学部と大学院との違いを一言で表現するなら「心構え」や「意識」という言葉が当てはまるように思います。
学生生活で印象に残ったことがありましたらお聞かせ下さい。
大学院生の頃、IEREという英会話の講義が開催されるというメールを見て何気なく参加したこと、正確にはそこで教鞭を取られていた先生と出会ったことが私の人生を大きく変えたように思います。授業ではその名の通り英会話中心の講義だったのですが、英語というよりはむしろ人として成長するための本質的なことを伝えて下さっていたように思います。また、先生や留学生を含めた講義関係者の多様な価値観に触れることで、多面的な考えを持つことが出来るようになりました。非常に有意義で貴重な経験だったと感じています。
もう一度、学生に戻れるとしたら、どのようなことをしたいですか。
勉強です。自分の研究を深めることは第一に大切ですが、それだけでなく様々なことに興味を持ち、確かな知識を身に付けておけばよかったと思います。また当然ながら語学は社会で必要とされるだけでなく、日常で使うこともたまにはあるでしょうから、やっておいて損はないです。社会人になってからでも勉強することは出来ますが、人、モノ、時間など環境が揃っている大学は比較にならないくらい勉強し易いので、学生の間にもっと勉強すればよかったと思っています。
もうひとつは積極性を持って行動することです。"No more shyness."と"Let me do it."。この二つだけは大切にしなさいと、英会話クラスの先生から教わりました。何をやってみてもいいと思います。とにかく何事にもチャレンジしてみること。何度も壁にぶつかって深く考えること。その繰り返しが前記の勉強に関することも含め、自分の視野を大きく広げることに繋がります。全く関連性のないことをやっていても、どこかのタイミングでそれらが同じベクトルを向いたとき、非常に大きな力を持つはずです。大学はその要素を増やすことに集中できる環境にあると私は思います。様々なことに挑戦し、見識や視野を広げて下さい。
大学の後輩や、これから大学院を受験しようと思っている受験生に向けてアドバイスをお願いします。
時間が許す限り出来るだけ多くのことにがむしゃらにチャレンジして下さい。学生生活で一所懸命に取り組んだものは一つも無駄になることはありません。"No more shyness." & "Let me do it."です!
また無事合格し進学が決定したら、失敗を恐れず積極的に研究に取り組んで下さい。2年あるいは5年後、学部卒で既に社会で活躍しているあなた方の同期と否応なく比較されます。大学院とはどういった機関なのかを意識し、恵まれた環境をフル活用して彼らに負けないよう頑張って下さい。
大学院への進学には入学金や授業料などの費用が発生しますが、熱意があるならば是非とも受験して下さい。得られる経験は絶対にお金では買えません。奨学金制度を利用することも選択肢の一つです。実際に私も利用することで実り多い大学院生活を送り、人生を大きく変えることが出来ました。
これからの目標などございましたらお聞かせ下さい。
人としての力「人間力」をつけることです。

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