研究テーマ


桶矢研究室の研究テーマ
LAST UPDATE 2006.07.08


桶矢研究室では、Pd(II)およびPt(II)のhfacビスキレート錯体を出発物質として、
配位子置換反応のメカニズムやダイナミクス、金属上での分子変換、新規錯体の合成
などを行っています。
特に、プロトンスポンジ(N,N,N',N'-テトラメチル-1,8-ジアミノナフタレン、((Me2N)2C10H6))とhfacとのPd錯体を介した新規多核錯体の合成やPd錯体を触媒としたアリールカップリング反応の反応機構解明に興味を持っています。


当研究室では現在、大きく分けて次の三つのテーマを行っています。

(1) Pt(II)のピラゾール類錯体と電荷移動錯体Pd(hfac)2((Me2N)2C10H6)との反応 〜機能性をもつ混合金属多核錯体の合成〜
(2) アミノ基をもつフェノールのカップリング反応におけるメカニズムの解明 〜M(hfac)2 (M=Pd(II)、Pt(II))とヒドロキシアニリンやアルキルアミノフェノールとの反応〜
(3) Pd(II)のhfac・b-diketone混合キレート錯体の合成および反応性の研究

メンバーはこれらのテーマに分かれ、錯体合成、1H、13C、19F NMRによる反応機構や溶液内挙動の解明、X線による錯体構造の決定を行っています。
各自がどのような研究を行っているかは、メンバーのページ、またはメンバーページからリンクされている卒業生のページをご覧下さい。

TOPICS!
【白金とパラジウムについて】
 どちらも第10族に属する貴金属元素です。当研究室で主に扱っている二価の状態(d8)では通常平面四配位型の構造をとります。この状態では配位平面に対して金属の上下(axial)方向が大きく空いており、金属や配位子に様々な分子が近づくことが出来ます。いずれも、金属単体あるいは錯体の形で、有機合成において様々な機能を発現する触媒の反応中心として知られています。また、白金は制癌剤や抗癌剤のような生理作用をもつことでも知られています。

【hfacとはどんなものだろう?】
 1,1,1,5,5,5-ヘキサフルオロペンタン-2,4-ジオンまたは1,1,1,5,5,5-ヘキサフルオロアセチルアセトン(hfacH)は、Keto型とEnol型の二つの互変異性体をもちます。
hfacH isomers
 そして、Enol型のときに酸素に結合したプロトン(H+)が一つ取れ、一価の陰イオンになります。これが1,1,1,5,5,5-ヘキサフルオロペンタン-2,4-ジオナト配位子または 1,1,1,5,5,5-ヘキサフルオロアセチルアセトナト配位子、つまりhfacです。 hfac
 このhfacは一つの金属を二つの酸素で挟み込む、いわゆるキレート錯体を形成します。金属としてPt(II)、Pd(II)を用いると、我々が用いているビスキレート錯体、Pt(hfac)2、Pd(hfac)2が得られます。
bis-chelate complex bis-chelate complex
 hfacの特徴は、以下のようになっています
※共鳴がO-C-C-C-O部広がっているために基本的な構造は平面であり、二つのカルボニル酸素原子を使って金属にキレート配位できます。もちろん、片方のOで単座配位子にもなります。

※最大の特徴は、多くの溶媒に可溶で、トリフルオロメチル基とカルボニル酸素とが結合した二位と四位の炭素(カルボニル炭素)が電子不足状態にあり、求核攻撃を受けやすいことです。

※また、金属に配位したときには置換活性でもあります。このため、この配位子を持つ錯体は金属上および配位子上において多様な反応性を示すことが可能です。

※錯体の反応性は中心金属に依存し、本研究室で扱っている錯体では、Pd(II)錯体は反応活性が高く特に金属上での反応が起こりますが、Pt(II)錯体は反応活性が低く主にhfac上での反応が起こります。

reactivity1 reactivity2

【プロトンスポンジとは?】
 プロトン(H+)に対する親和力の強さから、プロトンスポンジと呼ばれる一群の化合物があります。1,8-ビス(ジメチルアミノ)ナフタレン(DMAN)はその中でも代表的なものであり、 pKa=12.34の強力な有機塩基です。これまで、窒素原子に結合している二つのメチル基の立体障害および二つの窒素原子間の狭さから、イオン半径が小さいプロトンは窒素原子間に取り込むことは出来るが、イオン半径の大きな遷移金属イオンに対する配位性(求核力)は弱いとされてきました。
proton sponge
 しかし、当研究室でO,O'-ビスキレート錯体であるPd(hfac)2とDMAN(以下N::Nと記します)とをヘキサン中で反応させることにより、電荷移動(CT)錯体Pd-1を経て、N::Nが遷移金属(Pd(II))に配位した初めての錯体Pd-2が合成されました。
 さらに、上記スキーム中にあるPd-2に弱い酸であるb-ジカルボニル化合物(b-dikH)のアセチルアセトン(acacH)、ベンゾイルアセトン(bzacH)あるいはジベンゾイルメタン(dbmH)をジエチルエーテル中で反応させると、Pd-2のhfacキレートがこれらのb-dik 配位子に交換することがわかりました。
 また、CT錯体Pd-1にb-dikHを反応させることにより、hfacとb-dikアニオンとがPdにキレート配位した混合キレートPd(II)錯体を合成することに成功しました。


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