和歌山大学システム工学部橋本研究室
LAST UPDATE 2016.04.02

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0. タングステートTOP 2. W3以外のユニットによる
ペルオキソへテロポリタングステート
3. ペルオキソイソポリタングステート
配位子付ペルオキソポリタングステート
4. ペルオキソ基を持たない
タングステート
5. ペルオキソポリタングステートの特徴  

本研究室で得られた新規錯体
[タングステン化合物 1.]
W3ユニットを持つペルオキソへテロポリタングステート

(10-a)
W3ユニット、[W3O14-x(O2)x]
Keggin型やWells-Dawson型のポリ酸に含まれる[W3O13]ユニットとは異なります。
本項の化合物は、全てW3ユニットをビルディングブロックとしています。
W3ユニットに含まれるペルオキソ基の数や位置、オキソ基の代わりに水が配位することなど、
ポリ酸により多少の違いはありますが、基本骨格は変わらず、共通のユニットと考えることができます。


○ ペルオキソ-3-タングスト-2-リン酸
(11-a)
By T. Terada
S. Kitaura
[(HPO4)2(WO2(O2))3]4-
W3ユニットを持つペルオキソタングストリン酸のプロトタイプと考えることもできる錯体です。
配位したプロトンの数は異なるものの、基本骨格は同じである[H(SO4)2(MO2(O2))3]3-(M=Mo, W)は
すでに知られていますが、この構造がリン酸で確認されたのは初めてです


○ ペルオキソ-3-タングスト-2-フェニルホスホン酸
(11-b)
By D. Shima
[(C6H5PO3)2(WO2(O2))3]4-
(11-a)に示したアニオンの リン酸をフェニルホスホン酸に替えたものです。構造解析上、ペルオキソ基一部が分解してオキソ基になっているように見えます。


○ ねじれ型ペルオキソタングステン酸
  By K. Kihara, Y. Hamamatsu*
(12-a) (12-b)
[{(HPO4)W3O7(O2)2}2O]6- [H3.5{(PO4)W3O6(O2)3}2(PO4)]5.5- ([CN3H6]+-Cs salt)
([CN3H6]+塩、K+塩、Na+* ) [H3{(PO4)W3O6(O2)3}2(PO4)]6- (Cs-Na salt)*
リン酸グループが三座で配位したW3ユニットが、(12-a)では直接、 (12-b)ではリン酸基を介して、
80°程度の二面角をもって結合しています。この類似構造は、(12-c)のように二座の配位子でも生成します。
なお、(11-a)はこの2つの間をつなぎ、それぞれの生成機構にも関係すると思われます。
さらに、(12-a)は水/有機混合溶媒系からNa塩としても得られ、この塩は水への溶解性も 有することから、
溶液内錯形成反応の解明に役立つことが期待されます。
By Y. Hamamatsu By H. Suzuki
(12-c) (12-d)
[{(SO4)W3O7(O2)2(OH2)}2O]6- [H2(CH3COO)(SO4)W6O15(O2)4(OH2)]3-
(12-c)は、硫酸をヘテロ原子グループとして用いた水/有機混合溶媒系からルビジウム-ナトリウム塩として得られました。青い部分は、水が配位していることを示しています。 このアニオンでは、二つの硫酸イオンSO42-がどちらもbipodal(二座)で配位しています。その意味で、(32-a)に示したプロピオン酸錯体と類似の構造で、C1対称です。一方水溶液系からは、 二つのSO42-がともにtripodal(三座)で配位した(12-a)の構造を持つアニオンがテトラメチルアンモニウム塩およびセシウム塩として得られることがわかっています。これらの硫酸の配位様式の違いは何に起因するのか、 興味深いところですが、錯体生成の化学量論は(12-a)の構造のものも(12-c)のものも同じであるので、解明は難しいかもしれません。
(12-d)では、二座の酢酸基と三座の硫酸基がそれぞれW3ユニットに配位しています。
これも比較的珍しいC1対称性のポリ酸です。


  By D. Shima
(12-e) (12-f)
[{(C6H5PO3)W3O7(O2)2}2O]6- [{(C6H5PO3)W3O7(O2)2}{(Hnic)W3O7(O2)2(OH2)}O]4-
nic=ニコチン酸イオン3-(C5H5N)COO-
(12-e)(12-a)のリン酸をフェニルホスホン酸に替えたものです。 骨格構造は、両者でほとんど同じで、おおよそC2対称を持っています。合成時にフェニルホスホン酸とニコチン酸を一緒に用いると、 (12-f)のアニオンが得られます。ピリジン環の窒素はプロトン化されています。また、配位水(青い球)は、 ニコチン酸基と反対の方向を向いてます。


  By D. Shima
(12-g)  
[{(C6H5PO3)W3O7(O2)2}{(C6H5PO3)(Ln(OH2)5)W3O7(O2)2(OH2)}O]3-
Ln=ランタノイド元素
アニオンのLnによる連結
(12-e)をランタノイドを用いて合成した場合、追加カチオンの種類によっては(12-g) のように、ランタノイド原子がフェニルホスホン酸とタングステン骨格に挟まれたものが得られます。タングステンへの配位水は、Ln原子と 反対側に位置しています。片方のフェニルホスホン酸基のみが足を上げているということで、(12-c)とはちょっと違います。 また、このアニオンはランタノイド原子により(12-g)の右の図のように連結されています。


○ カチオン取り込み環状ペルオキソタングストリン酸
(クラウンエーテル類似)
By K. Kihara
S. Kitaura
(13-a)
[X2Hn{PW3O10(O2)3(OH2)}4](10-n)-
リン酸基が二座で配位したW3ユニット4つが、S4対称を持つ環状の構造を形成しています。
中央部には、2つのカチオンが取り込まれています。このカチオンは、ポリ酸生成において
テンプレート的に振舞っていると考えられます。
中心カチオンとしては、K+、Rb+、NH4+のものがグアニジニウム塩の同型結晶
として得られています。また、K+のものはカリウム塩としても得られています。
なお、このアニオンの形成については詳細な追跡を31P NMRで行ないました。


By Y. Yoshida
(13-b)
[(PO4)4{W3O6(O2)3(OH2)}2{(W3O7(O2)2(OH2))2O}2]16-
(13-a)とはやや異なる条件で、(13-b)が得られました。(13-a) と同様に、アニオン中の空洞にK+(黄色の球)を2個取り込んでいます。環の構造は、(13-a)(11-a)型のタングステン骨格4個から成っているのに対し、(13-b)では、 (11-a)型のタングステン骨格2個と(12-a)あるいは(12-c)型の タングステン骨格2個から成っています。これに伴って中心の穴も大きくなり、(13-a)ではK+イオンが 環の両側から穴を挟み込むような形で取り込まれているのに対し、(13-b)では2個のK+は 横に並んで穴の中に取り込まれています。このアニオンの反応溶液内での形成も31P NMRで見ようと試みていますが、なかなか難しいようです。 取り込まれたK+を無視して、(13-a)(13-b)の平衡を H+-WO42--HPO42-系として(p, q, r)で表すと、前者は(20, 12, 4)、後者は(28, 18, 4)となり、 酸性度は1.25と1.27になります。したがって、これらをpHの違いで作り分けることはおそらく難しく、わずかなP/W比やH2O2/W比、 [W]totの違いに頼ることになるものと予想できます。

(13-b)のK+による二量化 二量化:横から見たところ
(13-b)は、K+イオンにより架橋されて二量化しています。リンカーは[K5(OH2)6]5+ と書くことができ、ちょうど鉄アレイのように2つのアニオンをつないでいます。この二量体が、さらに周囲のK+イオンにより架橋され、 三次元構造を作り上げています。このことから、アニオン形成にはK+濃度依存性がみられることが予想できます。


○ 環状ペルオキソ14-タングスト-2-二リン酸
By K. Kihara
M. Hanano
Y. Hirata
(14-a) (14-b)
[{(P2O7)(WO(OH2))(W3O9(O2)2)2}2]16-
ピロリン酸により架橋されたW3ユニット2つが、2つのタングステンにより架橋されています。
また、(14-b)のように、ポリ酸の両脇に陽イオン(K+またはRb+)をくわえ込むことにより、
構造の安定化を図っているものと考えられます。
(14-a)は、ほぼ平面のコンフォメーションですが、「ちょうつがい」の様に曲がったコンフォメーションも取ります。
By K. Kihara
M. Hanano
Y. Hirata
(14-c) (14-d)
(14-c)(14-d)とも、ちょうつがいのように折れ曲がったコンフォメーションを、内側から見た図です。
この図には示されていませんが、折れ曲がりの内側には陽イオン(Na+、K+)があり、
折れ曲がり構造を支えています。また、(14-c)(14-d)とでは、折れ曲がりの方向が 異なっています。
で示されたペルオキソ基が、(14-c)では外側に、(14-d)では内側に来ています。
さらに、これらはいずれも、(14-a)とはペルオキソ基の配位する位置が異なっており、ただコンフォメーションが
異なるのみならず、(14-a)とは異性体の関係にあることになります。


○ ペルオキソ7-タングスト-2-リン酸
 
 
By T. Yamashita   
(14-e)  
[{(HPO4)W3O4(O2)2}2{MO5(OH2)}]n- (M=Wのときn=8) 
 まだ得られたばかりの物で結晶の質も悪く、構造が歪んでしまっています。組成も、推定です。
 上に示したペルオキソ-14-タングスト-2-二リン酸の「半欠け」相当する構造です。得られるpHも、大体同じです。 実は、あるd-ブロック元素を組み入れようとしていて、結晶にほんのり色がついているのでタングステンを部分置換して 取り込まれているのであろうと推測しています。ただ、場所はわからず、イオン式では中央のタングステンを置換して いるように書いてありますが、今のところ証拠はありません。
 アニオン形成挙動も全く見えておらず、今後いろいろと遊び甲斐があるかなと考えています。


○ ペルオキソ9-タングスト-2-二リン酸
  By Y. Hirata
(15-a) (15-b)
[(P2O7)2{W3O8(O2)3}2(W3O6)]10-
W3ユニットに二座でピロリン酸が配位した部分が二つ、ペルオキソ基を持たない
3つのタングステンで橋架けされています。この橋架けタングステン部分はこのページで述べている
W3ユニットとは異なり、いわゆる12-パラタングステートのベルト部分にに見られるものと同じです。
ピロリン酸は全体では五座のm6配位子になっています。ほぼC2対称を持っています。
また(15-b)に示すように、Na+(青い原子)により二重架橋され、二量体を形成しています。


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