和歌山大学システム工学部橋本研究室
LAST UPDATE 2016.02.26

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0. タングステートTOP 1. W3ユニットによる
ペルオキソへテロポリタングステート
3. ペルオキソイソポリタングステート
配位子付ペルオキソポリタングステート
4. ペルオキソ基を持たない
タングステート
5. ペルオキソポリタングステートの特徴  

本研究室で得られた新規錯体
[タングステン化合物 2.]
W3以外のユニットによるペルオキソへテロタングステート

このタイプに属するものとしては、いわゆる(Ishii-)Venturello型構造及びその欠損種が広く知られています。 本研究室でも、特にモリブデン系でpHが低いとき、有機溶剤を使用したとき、大きな有機アンモニウムを陽イオンとしたときに しばしば結晶として得られます。しかし、特に新しいアニオンが得られたわけではありませんので、このアニオンについては割愛いたします。
一方、このアニオンと親戚関係にあるといえるものが新たに得られたので、こちらに紹介します。


Ishii-Venturello型構造


○ ペルオキソ8-タングスト-1-ホウ酸
By H. Monju  
(21-a) (21-b)
[(BO4){W4O8(O2)6}2]13- カリウムイオン(黄色)の配置
ホウ素(III)を含むはじめてのペルオキソへテロポリタングステートです。
比較的高いpHで、カリウム塩として得られます。
(21-b)のように、多数のK+がアニオンの周りを取り囲んでいます。
(20-a)
W4ユニット、[W4O10(O2)6]
(21-a)のアニオンは、W3ユニットの拡張形ともいえるW4ユニット(20-a)を含んでおり、
BO4グループがこのユニット二つにはさまれています。
このW4ユニットを含むものは、イソポリ酸と炭酸錯体が報告されています。また、酢酸錯体(44-a)としても
得られており、W3ユニットに次いでペルオキソタングステートではよく見られます。
青い球の部分が配位可能なサイトで、イソポリ酸ではW4平面に対して上下斜め位置(対称心を持つように)に
2つの水が、酢酸や炭酸ではW4平面に対して同じ側に1つの酢酸・炭酸が配位しています。
さらにこの拡張形として、W6ユニット(40-a)もあります。


○ ペルオキソ12-タングスト-1-リン酸
  By Y. Yoshida
(21-c) (21-d)
[(PO4){{W6O12(O2)8(OH2)2}2]11- K+(黄色)、Na+(水色)の配置
こちらはホウ酸ではなくリン酸でできたものです。下に示すタングステン6核ユニット[W6O16(O2)8] (40-a)2つを、リン酸イオンでつないだ形となっています。周囲にはNa+、K+イオンが 配列し、また、Na+イオンが1個、6核W層間にリン酸イオンとともにはさまれています。2つの6核W層は平行ではなく、Na+が 挟まれている方向に少し開くように反っています。アニオンはC1対称を持っています。今回得られた結晶の空間群はP21 でしたので、1つの結晶内には1つのエナンチオマーだけが含まれています。酸性度はさほど高くない(Z=1.15)のですが、結構低い pHの溶液から得られます。31P NMRでアニオン形成挙動の追跡を行っていますが、まだはっきりとしたことはわかりません。
(40-a)
W6ユニット[W6O16(O2)8]


○ ペルオキソ10-タングスト-1-リン酸
    By Y. Yoshida
(21-e) (21-f) (21-g)
[(PO4){{W5O10(O2)7(OH2)}2]11- 左の構造のエナンチオマー Na+(水色)、Rb+(濃黄色)の配置
4核W、6核Wによるサンドイッチができたので、間ができないかな、と思っていたら、できてしまいました。5核Wによるリン酸のサンドイッチです。 こちらもアニオンはC1対称、一つの結晶の中に、二つのエナンチオマーが含まれています。初めはNa-K-Rb塩で得られ、困った ことに結晶の外見は悪くないのですが、X線を当てるときれいな単結晶ではなく、さらにだんだん壊れていき、解析すると、2つのエナンチオマーが 完全に重なり合って見えるという代物でした。ところが、K+を使わずにNa-Rb塩とすると、X線の測定中に結晶がこわれていく(-180℃吹付で 2〜3時間が限度)ことには変わりありませんが、質は良くなり、上記のような解析上の問題もなくなりました。 5核W層の間には、リン酸の他にRb+も挟まれています。 なぜか、狭苦しそうなリン酸に近い方に位置しています。そして、5核W層はリン酸、Rb+のある方向が開くように反り返るという、見た目 結構無茶な形となっています。 錯体の酸性度はZ=1であり、ほぼ中性に近いpHで得られるという事実と一致しています。これについても31P NMRによる 錯形成の追跡を試みていますが、特段の成果は得られていません。下に示す(22-a), (22-b)が2核Wに リン酸が挟まれているとみることができるので、これで3核Wにサンドイッチされているものができたら1シリーズ完成だな、と思っていますが、 さてそう上手くいくものかどうか。


○ ペルオキソ4-タングスト-1-リン酸
  By S. Kitaura, K. Kato  
(22-a) (22-b) Ishii-Venturello構造
[(PO4){W2O3(O2)4}2]7-
コンホメーションA (擬似D2d)
[(PO4){W2O3(O2)4}2]7-
コンホメーションB (擬似C2)
[(PO4){W2O2(O2)4}2]3- 
結晶の非対称単位中に、異なるコンフォメーションを有する(22-a)(22-b)が1:1で含まれています。 図で比べるとわかるように、Ishii-Venturello構造とよく似ています。負電荷は、Ishii-Venturelloアニオンが3-であるのに対して今回得られたアニオンは7-と、かなり 大きくなっています。このことはアニオンができるpHが中性付近になることを予想させますが、実際にはpH 1から5くらいの広い範囲で得られます。非常に性質の悪い針状結晶で、 きれいな構造解析はまだできていません。
[追加]その後、Sr2+を用いると良好な結晶が得られ、溶液内挙動の観察も容易であることがわかりました。31P、183W NMR いずれでもきれいな解析ができました。
(22-c) (22-d)
 
(22-e) (22-f)
アニオンの周囲にはバリウムイオンが配列しており、二つのアニオンでバリウムイオンとの相互作用が異なります。
(22-a)の周りには(22-c)のようにバリウムイオン(茶色)が配置し、 結晶全体で(22-e)のようにシート状構造になります。
一方(22-b)の周囲には(22-d)のようにバリウムイオンが配置し、 (22-f)のように二量体を形成します。
(22-g)
また、二つのアニオンは交互に並んでバリウムイオンにより架橋され、(22-g) のようにらせん状の一次元鎖を形成します。アニオン4個(それぞれ2個ずつ)がらせんの1ピッチになります。
[追加]なお、Sr2+を用いた場合にもBa2+と同様に金属イオンが配列し、さらに架橋されて 無限鎖構造を作ります。アニオン1個あたりSr2+が3つついている状態となります。酸化反応への 可能性を調べたかったのですが、このような状況からアニオンをうまく有機層に移動させることができず、 あまりうまく調べることはできませんでした。
(22-h) (22-i)
今回得られたアニオン(22-a)(22-b)は、 (22-h)に示すW二量体がPO4四面体(P(V)と言っても良い)を挟むように
形成されています。
一方、Ishii-Venturello型アニオンは(22-i)に示すW二量体が PO4四面体(P(V))を挟むように形成されています。
二つの二量体を比べると、(22-h)の方がO2- が一つ多いために アニオンの負電荷が高くなっています。
(22-j)
しかし、この二つは無関係ではありません。ペルオキソモリブデートの系では、溶液内平衡の解析から、 さまざまな二量体に関して(22-j)に示す平衡が成り立っていることが 提唱されています。この図には省かれていますが、それぞれのアニオンには適宜プロトン(H+)が 付加しており、全てのアニオンは2-の電荷を持つものとされています。
このような平衡はペルオキソタングステートの系においては明確に示されていません。しかし、Ishii-Venturello 型アニオンと今回得られた(22-a)(22-b) について考えると、同じような平衡がペルオキソタングステートでも起こっていること、それらがリン酸イオンに 捕獲され、都合のよい陽イオンとともに結晶化した、ということが強く示唆されます。 実際、(22-h)のスキーム中、上段中央および右に相当するペルオキソタングステート はすでに単離・構造決定、触媒(酸素キャリヤ)機能の評価が行なわれています。また、上段右((22-h))は、 ペルオキソ基がタングステンに対して過剰(2倍以上)に存在する場合のアニオン構成要素としてしばしば観測され、当研究室でも 酢酸、ギ酸錯体が得られています。
これらのことを考えると、アニオンの負電荷に差はありますが、Ishii-Venturello型アニオンと今回得られた (22-a)(22-b)とは親戚関係に あると言ってよいと考えています。(22-a)(22-b) のようなタイプのアニオンが得られるであろうことはかなり以前から予測してきましたが、やっとできました。
合成や溶液内錯形成反応、精度の良い構造決定、触媒活性の評価など課題山積ですが、
これら(22-a)(22-b)はきわめて重要な意味を持つアニオンです。



○ ペルオキソ5-タングスト-二リン酸
    By Y. Kunigita
(23-a)   (23-b)
[(P2O7){WO(O2)2}{W2O3(O2)4}2]8- 異なる方向からみたアニオン Cs+(すみれ色)によるアニオンの連結
単核のペルオキソタングステート1個と2核のペルオキソタングステート2個が二リン酸により架橋されたものです。二リン酸は、m5-の六座配位子 となっています。単核タングステートが少し傾いて結合しており(真ん中の絵参照)、全体でC1対称となっています。結晶中には、2種類のエナンチオマーが存在しています。セシウム塩として得られ、アニオンはCs+により架橋されて(23-b) のような一次元鎖を形成し、これがさらにCs+により架橋されて三次元構造を形成しています。溶液内の生成挙動はあまりはっきりしていませんが、 31P, 183W NMRを見ると、溶液中では単核Wが外れており、結晶化に伴って単核Wが結合するのではないか、という印象を得ています。 この化合物は調製法がちょっと変わっていて、得られた結晶は殆ど水に溶けないのに、かなり濃い反応溶液に塩化セシウムを粉末で添加した上、大量に生じる 沈殿を一度きれいに溶解させないと析出しません。このあたりの理由も、何とか明らかにできればと考えています。なお、この構造は上記の (21-a), (21-b)と関連しているということができます。バナジウムで得られた[(P2O7){V2O2(O2)4}2]8- とは違う、というところもまた興味深いものです。




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