和歌山大学システム工学部橋本研究室
LAST UPDATE 2016.06.08
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0. タングステートTOP 1. W3ユニットによる
ペルオキソへテロポリタングステート
2. W3以外のユニットによる
ペルオキソへテロポリタングステート
4. ペルオキソ基を持たない
タングステート
5. ペルオキソポリタングステートの特徴  

本研究室で得られた新規錯体
[タングステン化合物 3.]
ペルオキソイソポリタングステートと配位子付ペルオキソポリタングステート

○ ペルオキソヘキサタングステートA
By H. Suzuki, H. Adachi  
(31-a) (10-a)
[W6O18(O2)3]6-  
 通常のポリオキソメタレートでは、ヘキサメタレートといえばOh対称を持つLindqvist型のものや、 これもまたLindqvist型と呼ばれるヘプタタングステートからタングステンが一つ外れたものが知られていましたが、 これは新しいタイプのヘキサタングステートで、やはりヘプタタングステートの構造と少なからぬ関係を持っています。 Wの多面体が面共有している部分がありますが(図では見づらいですが、右の方の多面体2つ)、 基本的にはW3ユニットを2つ組み合わせたような構造になっています。
 アニオンはC1対称性を持っています。現在、溶液内に生成している化学種との関連性を調べています。


○ ペルオキソヘキサタングステートB
By A. Shiga  
(33-a) (40-a)
[W6O13(O2)8]6- [W6O16(O2)8]ユニット
 対陽イオンとしてグアニジニウム(5つ)とメチルトリエチルアンモニウム(1つ)を使ったときに、 さらに新しいヘキサタングステート(33-a)が得られました。やはりC1対称性を持っています。 上記のヘキサタングステートAとは、ベースとなる組成[W6O21]6-は同じですが、ペルオキソ基の数が異なり、 タングステンの連結様式も異なっています。ある意味、異性体の関係にあるとも考えることが出来ます。 同じカチオンの組み合わせでヘキサタングステートAの結晶も得られ、塩としても良く似た組成となります。
 構造的には、このページの下のほうにある平面型六核錯体の骨格(40-a)と近い関係にあります。 平面六核の骨格を半分に切り、つなぎかえることによりこの六核アニオンが得られます。 平面六核ユニット(40-a)は、形式的に[W6O16(O2)8]12-と高い負電荷を持つために加水分解に対して 不安定となり、配位子(下の例では、アルキル基と考えることが出来ます)による電荷調整が必要でしたが、 このアニオン(33-a)は連結様式を変えることにより[W6O13(O2)8]6-と電荷を下げることに成功し、 配位子などの力を借りずに安定に存在することが可能になり、単離にも成功したものと思われます。
 溶液中での反応を何とか追いかけたいと考えています。


○ ペルオキソトリデカ(13)タングステート
By H. Adachi
(32-a)
[HnW13O46-x(O2)x](14-n)-
 結晶性が余りに悪く、カチオンの位置、ペルオキソ基の数、結晶溶媒、プロトン化の位置など不確定要素が かなり多い状態ですが、面白い構造をとっています。わかりにくい構造ですので、二方向からの図を掲載しています。 W3ユニット3つ、Keggin型構造に見られるW3ユニット(稜共有3つで環状となる)1つ、及び単核のW1つから出来ています。
 左の図からわかるように、五方両錐型のタングステンの周りを5つのタングステンが取り囲む部分構造があり、 これはMüllerらにより報告されている巨大アニオンのビルディングユニットの一つと関連してます。 ただ、(32-a)では五方両錐のWと左図でその下にあるWとが面共有しています。
 また、左図で言えば右側、右図で言えば左側の(W3ユニット2つ)+(単核W)から成る部分は、 (14-a)(14-d)に示したピロリン酸錯体のタングステンヘプタマー部分と共通するものです。
 異なる二つのW3ユニットが両方含まれる初の錯体でもあり、多様なビルディングユニットの見方が出来ることから、 アニオン構成のメカニズムについても大きな興味がもたれるものです。
 まずはとにかく良い結晶作りと合成法の確立が課題です。
By H. Adachi
(32-b)
 (32-a)(32-b)のように、周りを多くのセシウムカチオンにより囲まれています。青い球がセシウムカチオンを表わしています。 図でわかるように、セシウムカチオンはあちこちでタングステンの多面体を橋架けしていることがわかります。 このことから、セシウムカチオンの支えによりポリ酸構造を保っていると言うことができます。
 このポリ酸の形成にはセシウムカチオンが重要な役割を果たしているため、他のカチオンでも形成するかどうかも興味のあるところです。 結晶の質を改善するためにも、他のカチオンでも結晶化して欲しいものです。


○ ペルオキソヘプタタングステート
クラスレート型結晶
By H. Suzuki, H. Adachi
[W7O22(O2)2]6-
 このポリ酸の結晶は、QCs2(CN3H6)3[W7O22(O2)2].nH2O (Q=有機アンモニウム陽イオン) の組成を取り、様々なQに対してほぼ同型の結晶構造を与えます。いわば、Qをゲスト、その他の成分を ホストとした、包接化合物型結晶ということができます。また、Qのサイズが大きくなると、 全体の結晶構造をほぼ保ったままQCs(CN3H6)4[W7O22(O2)2].nH2Oに変化し、次いで 異なる結晶構造を有するQ(CN3H6)5[W7O22(O2)2]になります。Qの大きさと、結晶構造の関連を明らかにしようと試みています。
 合成的には、上述の[W6O18(O2)3]6-がQの種類によりほぼ同条件で得られるため、はっきりしない点がまだ残っています。 得られた結晶構造・アニオン構造とQとの関係は、修論要旨(⇒こちら。PDF形式で、学内専用です)を参照してください。


○ 希土類−ペルオキソヘプタタングステート集積体
  By R. Koizumi
[Rb2{(La(OH2)4)4(WO4)}{W7O22(O2)2}4]12-の構造
Ball-and-stick図
[Rb2{(La(OH2)4)4(WO4)}{W7O22(O2)2}4]12-の構造
タングステートを多面体とした図
 ペルオキソヘプタタングステートをRbおよびLaで連結した集積体です。ちょっと判りにくいですが、水色の球がRb、茶色の球がLaです。中央にWO4四面体があり、 それにLa(OH2)4が4つ結合しています。そのLaが4つのペルオキソヘプタタングステートを連結しています。さらに、向かい合う二個一組のペルオキソヘプタタングステート の間にはRbイオンが挟まれており、二個のタングステートを支えています。
 一見S4対称を持っているようにも見えますが、上図のようにちょっと歪んでいます。とはいえ、結構整った形を しています。このペルオキソヘプタタングステート4個から成るユニット全体が結晶学的に独立です。
 このユニットに上図左のようにさらにLaが2個結合しています(左側の2個)。そして、なぜかその片方だけを使って上右図のように一次元鎖構造を形成します。 実際には、アニオンの周囲にK、Rbイオンがちりばめられ、複雑な三次元構造を形成します。
 大変結晶性が悪いため、その改善と合成法の確立が課題です。ランタノイドの種類を変えて、物性なども調べてみたいと考えています。
 ・・・と書いたのですが、構造については一筋縄ではいかないことが判ってきました。詳細は追って掲載いたします。




○ ねじれ型ペルオキソタングステートカルボン酸錯体
By K. Matsuda
(41-a)
[{(C2H5COO)W3O7(O2)2(OH2)}2O]4-
 二座のプロピオン酸基が二つ、W3ユニットに配位しています。 (12-a)(12-d)に示したアニオンと関係が深く、特に(12-c)とは配位子が異なるのみです。 W3ユニットによるペルオキソヘテロポリタングステートを参照してください。


By D. Shima
(41-b)
[{((C5H5N)COO)W3O7(O2)2(OH2)}2O]4-
ニコチン酸を使っても、同様のアニオンが得られました。対掌体が存在するのがわかります。なお、ニコチン酸基のN原子は プロトン化しています。


○ 平面型ペルオキソタングステートカルボン酸錯体
By K. Matsuda By K. Matsuda
(42-a) (43-a)
[(CH3COO)2W6O12(O2)8]6- [(C2H5COO)2W6O12(O2)8]6-
(40-a)
W6ユニット[W6O16(O2)8]
 タングステン骨格は、W3ユニットがちょうど平面をなすように連結した六核型(40-a)になっています。 上記の(41-a)とはW3ユニットの連結様式が異なっており、異性体とも言い得る関係にあります。 W3ユニットが2つ連結する場合に、平面・ねじれ型どちらを選択するかの決定要因に興味がもたれます。 特にプロピオン酸イオンを配位子とする場合には、ねじれ型六核ユニットを持つ(41-a)(Cs塩)と 平面型六核ユニットを持つ(43-a)(Rb-K塩)の両方が得られており、生成過程の解明が必要と考えています。
 このプロピオン酸錯体系の平衡を
  pH++qWO42-+rH2O2+sC2H5COO-
    [(H+)p(WO42-)q(H2O2)r(C2H5COO-)s](-p+2q+s)-
 と定義し、錯体の量論を(p,q,r,s)で表わすと、(41-a)は(10,6,4,2)及び(43-a)は(8,6,8,2)となることから、 合成条件的には(41-a)の方がより酸濃度が高い条件で、(43-a)の方がより過酸化水素濃度の高いところで 生成することが予想されます。現在、この系の溶液内での錯形成をNMRで追跡する試みを行っています。 (41-a)は脱プロトン化しうることから、(41-a)(43-a)の溶存状態やプロトン化挙動に興味がもたれます。
 なお、この(42-a)は橋本がかなり以前に学会報告してありましたが、結晶不良のため、 そのままお蔵入りになっていたものです(1992年第42回錯体化学討論会)。 今回は、当時と異なる陽イオンを用いることで、上手く構造解析することができました。 今回は水/有機混合溶媒系でCs-Rb-K-Na塩として得られていますが、当時は水溶液系からK塩として 得られていた上、同様の調製条件でモリブデン錯体[(CH3COO)2Mo6O12(O2)8]6- も得られていました。
By H. Sasakura  
(44-a) (20-a)
[(CH3COO)W4O8(O2)6]5- W4ユニット
 酢酸イオンを配位子とした場合に、W4ユニットをもつ錯体(44-a)も得られました。 (42-a)から、酢酸イオン1個とタングステン2個を取り除いた構造ともいえます。 下に示すW二核の錯体と併せ、W二核・四核・六核の酢酸錯体が揃ったことになります。
 酢酸イオンのペルオキソタングステン酸イオンに対する配位は弱いようですが、 NMRによるこれら三種の錯体の関連や相違に関する調査を行う必要があります。
 なおこのW四核構造は、Stombergらによる[(CO3)W4O8(O2)6]6-やGriffithらによる [W4O8(O2)6(OH2)2]4-にも見られ、ホウ酸錯体(21-a)も得られました。 比較的現れやすい骨格なのかもしれません。 W骨格の形成過程についても興味のもたれるところです。


☆ ペルオキソタングステートダイマーを基本とするもの
By K. Matsuda
(45-a)
[(CH3COO)W2O3(O2)4]3-
モリブデン化合物のページで紹介したダイマーユニットと同様のユニットに、酢酸基が二座で配位しています。  酢酸基の代わりに、ギ酸基が配位した錯体[(HCOO)W2O3(O2)4]3-も得られました。 ペルオキソタングステン酸の溶液内における挙動を解明するために有用な錯体の1つであると考えられます。


○ はしご型ポリマー
  タングステンやモリブデンの二核錯体[M2O3(O2)4(OH2)2]2-は、過酸化水素過剰の条件下で 幅広い範囲で溶液中に安定に存在することがわかっています。また、ペルオキソモリブデン化合物 では、この二核錯体ユニットが重要な役割を果たしていますし、ペルオキソタングステートでも上記(45-a)のように、ときどき現れます。
 ここでは、この二核ユニットがはしご状に連結したアニオンを得ることができました。これまで、セシウム塩やアンモニウム塩で得られることは判っていましたが、 disorderのために詳細な構造決定はできませんでした。今回、有機溶媒を用いることでカリウム塩として乱れ構造がない結晶を得ることができ、構造決定しました。
 アニオンは直線状に伸びるきれいな一次元構造をとっています。ただ、カチオンであるカリウムイオンや結晶水との相互作用により、一次元鎖の中では多少ジグザグした構造を とっています。カリウムイオン(水色)や結晶水(赤)との相互作用は、(45-b)に示してあります。
 一次元鎖どうしはカリウムイオンにより結び付けられ、(45-c)に示すように三次元構造を組み上げています。
 興味深いのは、モリブデンではペルオキソモリブデン化合物のページに示したように、ペルオキソ基により架橋された一次元または二次元ポリマーを 組み上げていたのに対し、タングステンではペルオキソ基架橋されたものは未だ見つかっておらず、今回の(45-a)もオキソ基架橋になっています。 さらに、図ではわかりにくいですが、(45-a)での架橋オキソ基は末端酸素的であり、二核ユニット間の結合はかなり弱いものとなっています。
 現在、有機溶媒の種類や量、合成温度などに注意しながら、他のカチオンによる合成が可能であるかどうかを調査中です。
By H. Sasakura  
A. Shiga  
(46-a) (46-b)
[(W2O3(O2)4)2-]  

(46-c)




○ ペルオキソタングステート二量体を配位子とするランタノイド錯体
    By T. Kitamura
(47-a) (47-b) (47-c)
 [{Eu(OH2)3}2{(WO(h2-O2) (m2-h2,h 2-O2))2(m2-O)(m4-h1,h1,h2,h2-O2)}2]2-

  ペルオキソタングステートのダイマーが、Eu原子を包み込むような構造のアニオンです。 Eu原子には、水が3つとペルオキソ基が4つ配位しています。 ペルオキソタングステートダイマーは螺旋を巻くようにEuに配位しており、アニオン全体としては、近似的にD2対称を有して います。アニオンとしてはキラルであり、独特の物性を期待することができますが、結晶は空間群C2/cで対称心、鏡面を有するため、 単位胞中にエナンチオマーが共存しています。片方のエナンチオマーだけで結晶化できると良いのかもしれないと考えています。
 
(47-d) (47-e)
  このアニオンに含まれるペルオキソタングステートダイマーは少々変わった形をしていて、 (47-d)のように、オキソ・ペルオキソ二重架橋となっています。Ishii-Vneturello型のペルオキソ二重架橋ダイマーで、 さらにペルオキソ基がend-onでW原子二つを架橋しているものは知られていますが、オキソ架橋のものでは初めてではないかと思います。
 また、カチオンのセシウムとの相互作用を別にすれば、ペルオキソ基の配位の仕方には、一つのW原子にside-onで配位するもの((47-e) の赤色で示したもの、h2)、WとEuに、ともにside-onで架橋配位するもの(青色、 m2-h2,h 2)、2つのEuにside-on、二つのWにそれぞれend-onで4つの金属原子を架橋しているもの(緑色、m4-h1,h1,h2,h2)があります。

  さて、上記のように、このアニオンは「右巻き」と「左巻き」の構造があります。 ならば光学分割したいというのが人情。ということで、他の陽イオンが使えるか、キラルな陽イオンを使ってジアステレオマーとして 取り出せるか試そうということで、キラルではありませんが試しにアミノ酸であるグリシンを反応溶液に加えてみました。すると・・・

   
  By T. Kitamura  
  (47-f)  
 [m2-(H3NCH2COO)-[{Eu(OH2)3}{Eu(OH2)2}{(WO(h2-O2) (m2-h2,h 2-O2))2(m2-O)(m4-h1,h1,h2,h2-O2)}2]2]4-

  何と、m2- グリシン配位子(H3NCH2COO)でつながってしまいました。(47-f)に 含まれる二個のEu2W4ユニットは、いずれも巻き方が同じです。これも物性が面白そうですが、残念ながら空間群が P21/cで映心面と対称心を有するため、もう一つのエナンチオマーも単位胞中に存在します。 こちらも、何とか片方のエナンチオマーのみ単離したいものです。




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