[村川猛彦]

ユニバーサルデザインを考慮したWEBページの構築技法研究交流会

和歌山県中小企業振興公社の平成16年度産学官研究交流会の一つ, 「ユニバーサルデザインを考慮したWEBページの構築技法研究交流会」 に参加しました.

交流会は1年間で4回開催され,それぞれ, 県内外よりお越しの講師から,JIS X 8341の規格や Webコンテンツ作成のノウハウを拝聴しました.

以下は,各回の講演内容です. 個人的につけている日記から抜粋しました.


第1回

8月6日の午後に,
『ウェブアクセシビリティ 人にやさしいウェブサイト構築術』と題する講演を
聞いてきました.
講師は,スタジオ ミュー(www.st333.com)の高田三鈴さん.

講演内容ですが,JIS X 8341という規格の説明を中心として,
アクセシビリティに配慮してウェブコンテンツを作るにはどうすればいいかを
解説していました.

JIS X 8341は『高齢者・障害者等配慮設計指針−情報通信における機器,ソフトウェア及びサービス−』という名称で,
JIS X 8341-1,JIS X 8341-2,JIS X 8341-3の3つの規格からなります.それぞれは,
JISC-日本工業標準調査会(www.jisc.go.jp)のページの「JIS検索」「JIS規格番号検索」で,
「X8341-1」,「X8341-2」,「X8341-3」を指定すれば,詳細がわかるほか,
PDFファイルを見ることもできます.

冊子は,JSA Web Store(www.webstore.jsa.or.jp)から購入できます.
JIS検索を選び,規格番号に「X8341」を入力し,検索ボタンを押せば,
JIS X 8341-1〜3の情報が出てきます.

最初の1時間はやや退屈.さらに冷房を効かせすぎていたので,
かなり眠気を催しました.
でも休憩後の解説は,のめり込んでいきました.

講演中の気になったことを.

◆JISの番号って,どれも覚えにくいと思い込んでいましたが,
8341は「やさしい」と当てはめられると聞いて,親しみが持てました.

◆「ぱんくずりすと」と聞いて「パンくずリスト」か「パンク図リスト」か悩みました.今,Googleで調べてみると,これは「パンくずリスト」のことで,分かりやすい解説も見つかりました(1(e-words.jp),2(seo-link.j-nic.co.jp)).

◆いきなりウェブアクセシビリティとかユニバーサルデザインとかを考えるのではなく,
まず正しく(手持ちの,あるいは伝えたい)情報を整理し,
それからユニバーサルデザインを検討せよ,とありました.
気をつけましょう.

◆ホームページ・ビルダーは有名ですが,
ホームページ・リーダー(www-6.ibm.com)というソフトウェアがあるとは,
知りませんでした….でも最新版が3年前なのか….

講演や質疑の中で参照していたWebサイトを.

Yahoo! JAPAN(www.yahoo.co.jp) : ホームページ・リーダーの読み上げに使用したページ.アクセシビリティ対応がなされています.
島根県(www.pref.shimane.jp) : アクセシビリティ対応がなされているページ.スタイルシートを用いて多段組を実現し(ブラウザ側でスタイルシートを無効にすればわかる),「上から下に」読み上げられるようになっています.
静岡県(www.pref.shizuoka.jp) : 島根県と比較のためのページ.従来型の,テーブルレイアウトです.
山城工芸(www.yamashiro.co.jp) : 講演者さんがプロデュースしたページ.
製造業ホームページ工場(www.h-m.jp) : 講演者さんが作成したページ.
HB-101.co.jp(www.hb-101.co.jp)Ivy SOHO(www.ivysoho.net)SEOソリューションズ(www.seo-solutions.com) : いずれも簡単に紹介してました.

講演で,Q&Aを忘れたらいけませんね.
実際ここが盛り上がって,スケジュールにあった「全員自己紹介」を
次回に持ち越したくらいです.
それはさておき…

Q: 対応すべき項目が多く,簡単にできないものもある.どのくらいまで配慮すればいいか?
A: 全部が全部は無理.

Q: IE5への対応は手間がかかる.
A: IE5向けのスタイルシートを別に用意しているサイトもある.

Q: FLASHのアクセシビリティは?
A: Macromediaでは,一連のカードを用意して順番に読み上げられるようにしている.しかし,FLASHはすべて読み上げられなくてもいいのでは.
C: ターゲットに注意.政府・地方自治体・公共団体では今後,アクセシビリティが必須になるが,企業や個人のすべてにこの規格が必要なわけではない.

Q: テーブルレイアウトは今後廃れてくるか?
A: Yes.というか現時点で廃れているといっていい.SEOとアクセシビリティが同じ方向に進んでいる.

Q: この規格の位置づけは? ウェブデザイナなら当然わかっていること?
A: ちぐはぐな規定があり,これから1年で,この利用による知見が得られていくだろう.項目をひとつでもクリアしていけば,見やすくなっていく.

質疑の続き.

Q: JIS X 8341は,何か国際規格に基づいているのか?
A: W3Cのアクセシビリティガイドラインに基づいて,日本独自のルールを盛り込んでいる.

Q: 目に見えるメリットが,実績としてあるか?
A: 小さな改善でSEO効果がある.XHTML対応のケータイは,そのまま見ることができる.

Q: 島根県のページは地味に見える.
A: 確かに.XHTML+CSSによるページで,日本では斬新なデザインのものは見当たらないが,海外にはいいものがある.

Q: 「画像にALTを入れてはいけないケース」とは?
A: 読み取り時に,前後の文字と重複して読み上げてしまうなら,入れない.文脈と関係のないイラストや写真にも入れない.
C: 「ALTを入れない」とは,IMGタグの中で「ALT=""」と指定することをいう.(「ALT属性を書かない」ことではない.)

Q: クライアントへの説明はどうする?
A: 「SEO効果」と「最新技術」.

Q: スタイルシート利用の作成手間は?
A: 2倍以上になる.作成,検証,修正のほか,スタイルシートの置換に手間がかかる.

講演で聞いた,「あ,なるほど」と思った話を,絵で.

入力フォームを作るとき,アクセシビリティとしては
(a)と(b)のどちらがいいでしょうか?

ちょっと考えればわかりますが,答えは(b)です.
というのは,読み上げソフトで(a)を読み上げると,
「カタカナで入力」のところがフリガナ入力の補足説明にならず,
次に読み上げるところにくっついて聞こえてしまう可能性があるからです.


第2回

『バーチャル和歌山におけるサイトデザインの考え方』と題して,講演が行われました.

講師は,株式会社バーチャル和歌山(wiwi.co.jp) ネットソリューション営業第二部 部長の川崎秀頼さんと,キステム株式会社 CAMCARRY推進部 (UD Color開発元)の岩崎浩さん.

あいにく,講義と重なったので,出席できませんでした.


第3回

『Macromedia Flashのアクセシビリティ -Flashのコンテンツをアクセシブルにすることはできるか?-』と題して,講演が行われました.

講師は,(有)プロスパー総合経営(www.pcjp.com) 代表取締役で,関西SOHOデジタルコンテンツ事業協同組合 理事の,稲木俊一(いなき しゅんいち)さん.

これには出席したのですが,メモをまだ電子化していません.ごめんなさい.


第4回

1月26日に,『Webアクセシビリティチェックの重要性
-障害者・高齢者・地方在住者のWeb利用の現場から-』と題する講演を
聞いてきました.
講師は,四国アクセシビリティセンター(www.nagaya.gr.jp)代表の,高市瑞穂さん.

講演内容は,「障害者・高齢者がWebページを快適に読むことができるか?
快適に読めることをチェックする方法は何か?」という,Webアクセシビリティ
の心得が中心となりました.「JIS X 8341-3という規格があるから,
それに合うようHTMLなどを書き換えよう」というのではなく,
利用してもらう人や状況のことを考えて工夫していけば,JIS X 8341-3と
相反することにはならない,といったところでしょうか.

「愛媛県の自治体サイトで,アクセシビリティはどうなっているか?」を
報告され,その直後に我が県,和歌山県の報告というのは,みな苦笑でしたし,
そこまで事前調査をされていたのは嬉しいことです.
(県内Web巡回された中では,那智勝浦町(www.town.nachikatsuura.wakayama.jp)に行ってみたいとのこと.)

少し休憩を挟んで,実演.
ホームページビルダーの持つアクセシビリティ関連機能の紹介です.
個人的には使うことないだろなと思いつつも,
自治体さんのサイト管理者さんはよく使われるということなので,
ふーんそういうものなのかと聞いていました.
「どこでも配置モード」は非常に評判が悪いとのこと.それでも,
使っている人が少なくないので,機能は残るのですか….

2回目の休憩ののち,ミニ・パネルディスカッションを.
会の代表の先生が司会進行.この日ご講演の高市さん,そして,
初回に講演をされた高田三鈴さんがパネリストになりました.

私が発言録をつくるのは僭越ですが,メモをもとに,興味深かったものを
取り上げておきます.

◆開発者の関心は?
高市さん: 日経ランキング(これ(premium.nikkeibp.co.jp)の紙面版??)は,うのみにできないが,アクセシビリティの推進になった.
高市さん: 提供者はコンテンツが,利用者はモチベーションが大事.「氷川きよし」でWeb使うようになった,「孫とメール」したいからパソコン覚えた,など.
高田さん: 発注者(クライアント)の意識向上を.「画像による時刻表」は,まずい.

◆地方色は?
高市さん: ある.地方では,リーダーの影響力が大きい.また,受注を一つ取るために非常な努力をするが,一つ取れると,次も次もとなりやすい.

◆コンテンツ作りの配慮は?
高市さん: 「ナイアガラの滝」(のアニメーション?)は一度見れば十分.ライフスタイルに密着するものにしないと.
高田さん: 製造業向けページならアクセシビリティは最低限でいい.「部品がほしい」(部品検索が容易に/効率よくできる)という目標を重視する.

◇(会場から)「ユーザ設定が大事」という意見のようで,聞いていて安心した.
高市さん: 賛成.しかし,クリエータとユーザで乖離があることも.商店サイトで「発注」ボタンの画像に代替テキストがなく,最後の段階で注文できなかった例.

◆地方におけるデジタルデバイドは?
高市さん: プライバシ意識が低い.
高市さん: 地方(小さいコミュニティ)独自のコンテンツ,サイトがあってもいい.
高市さん: 岩城村(www.town.kamijima.ehime.jp)の例.地元の人が「青いレモンを売りたい」という情熱で管理運営している.
高田さん: 口コミがあるとないとで大違い.本来,インターネットはグローバルなものであり,口コミなしで情報共有できるものなのに.

◆和歌山の情報発信について,今後への期待を
高田さん: 観光情報をWebで調べると,たらい回しになる.アクセシビリティよりもユーザビリティを考えなければ.
高市さん: 龍神村など,行ってみたいと思った所もある.和歌山県は控え目なのか,多くの市長村長で顔写真や挨拶が見つからない(愛媛県はほとんど載っている).

そんなこんなで,この1年は(といっても全部で4回の会合で,
1回欠席したのですが),「Webアクセシビリティ」を学びました.

「みんなに見てもらうWebページを作るには?」という問いに対して,
「Webアクセシビリティ」の概念や,「JIS X 8341」という規格の存在は,
唯一解ではもちろんありませんが,大いに参考になります.

じゃあこれを学んだので,サイト設計,ページデザインに活かしましょう
っと言って簡単にできるものでもない.そもそも自分としてはかなりの部分,
趣味でコンテンツ作ってるのだし,仕事上の情報に関しても,ないよりは
あったほうがいいでしょの感覚で公開しています.(後悔することもあります.)

一つ思ったのは,「見てほしい人」と「作った人」と「見たい(見ている)人」
とで,Webに期待するものに違いがあるということ.そこをはっきりしてから,
何をどのような形でWebコンテンツとして公開し,ときには公開しないかと
いうのを決めていけばいいのかな…というのが自分なりの結論です.


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[村川猛彦]
takehiko@sys.wakayama-u.ac.jp
Last modified: Thu Mar 31 15:09:45 JST 2005