[村川猛彦][English]

研究紹介


2010年5月28日,ゼミ中.
写真のページにも,どうぞお立ち寄りください.

目次


活動方針 [E]

キーワード: データエンジニアリング,データベースシステム,ウェブアプリケーション

私は,情報通信システム学科内で「データエンジニアリング研究グループ」の一員として,中川優教授吉廣卓哉講師,井上悦子助教,研究グループの学部生・大学院生とともに,情報通信分野の教育および研究に取り組んでいます.

私の活動は主に,データベースシステムの設計・構築・運用です.研究課題ごとに,ユーザのニーズを反映させたシステムを創り上げます.学外の研究打ち合わせにもよく参加し,利用者の求めているものを聞き取るとともに,できあがったアプリケーションが期待通り動く喜びを,利用者と共有しています.

かつては「暗号プロトコルの安全性検証」という,情報セキュリティの分野の研究をしていました.「どのように対象を記述すれば,計算機で利用でき,かつ関わる人々が幸せになれるか?」を追求するのは,研究テーマをデータベースに切り替えた今でも,変わりません.


テーマ1: 仏典の情報処理 [E]

キーワード: ディジタルアーカイブ,文書読解支援,画像処理

数百年前,あるいは千年以上前に,日本では,多数の僧侶が経典を書写していました.仏教がインドで興り,東方へ伝来していくなかで,中国語に翻訳された「漢訳仏典」が中国,朝鮮,そして日本で読まれ,書かれ,流通しました.それらのいくつかは今でも寺院に保管されています.

仏教学や国語学,考古学などにおいて,そういった史料を活用できるようにするため,国際仏教学大学院大学などの研究者らが,金剛寺や七寺といった寺院を訪問し,座主の了承の下,高精細ディジタルカメラで経典を撮影して電子的に保存しています.時間経過による劣化や虫食いなどのため,経典の文字がすべて読めるわけではありません.また,横長の巻物を撮影しているので,撮影画像を読むときには,コマごとの重複部分に注意しないといけません.

このような問題がある中,私たちは,撮影画像の余分な箇所を取り除き,一つの経典として結合するのを自動化するソフトウェアを開発しています.結合画像は,画像のサイズもファイルサイズも大きくなってしまいます(一例を挙げると,横が約30000ピクセル,縦が約1000ピクセル,40MBという画像を作成しました)が,これを適切に細分化してサーバに蓄積しておき,ブラウザでスムーズに経典画像を見ることができるようにしたアプリケーション,「Scroll Viewer」も開発しました.

以下の図が,初期バージョンのScroll Viewerのスクリーンショットです.静止画で申し訳ありませんが,実際のアプリケーションでは,経典の部分をマウスでドラッグ&ドロップすると,その方向に合わせて見える範囲が変わります.言ってみれば,Googleマップの経典版です.2006年度の卒業研究では改良が行われ,画像と,対応するテキストを対照して表示する機能が追加されました(テキストも,ドラッグ&ドロップに追随してスムーズに動きます).

Scroll Viewer


テーマ2: 聖教と人間関係のデータベース [E]

キーワード: ディジタルアーカイブ,経典データベース,人物情報データベース,全文検索

8〜13世紀の日本は,仏教が花盛りのころでした.真言宗,天台宗,浄土宗といった宗派ができ,貴族が年をとると僧侶になる(「仏門に入る」という言葉を,耳にしたことはありませんか?)こともしばしばでした.多数の寺院が設立され,経典(以下では「聖教」と書きます.読みは「しょうぎょう」です)が手書きされるとともに寺院で保存されました.

当時,印刷技術がなかったので,経典は手書きでした.ここで,その末尾に記される「奥書」が,経典の出自を表す重要な情報として,現代の仏教学や歴史学において脚光を浴びています.奥書には,誰が指示してどこで誰がいつ書写したか,そしてどこに奉納されたかなどが明記されています.このようなデータは,人文研究者が当時の人間関係や教学的環境を解明しようとするのを支援するものとなります.

ここまで聖教すなわち経典を中心に説明してきましたが,僧侶の人間関係に関する史料もあります.「系図書」です.活字化されているものもあります.

さて,このような聖教や人物情報をデータベースにして,検索できるようにしようとしたとき,問題がありました.こういった聖教をこつこつ集めて電子化している研究者より,データをいただいたのですが,あるデータ群はMicrosoft Access,別のデータ群はExcel,となってます.ファイルフォーマットだけでなく,表の構成(どの列はどんな情報か)も,まちまちです.

このような不便をなくすため,私たちは,データを統合して,使いやすいUI(ユーザインタフェース)で検索できるようなシステムを構築しています.具体的には,人物名を入力すれば,どの系図書のどこに出現するかを表示するシステムや,全文検索エンジンを使って,構造化された多数の文書から適切な聖教情報を瞬時に求めるシステムを開発してきました.

現在は,人間関係情報と聖教情報を連携させたデータベースの設計・構築を試みています.


テーマ3: 医療・介護の支援システム [E]

キーワード:遠隔看護支援,健康管理

介護保険制度が2000年に始まったものの,介護者も医療従事者も,負担が減っているようには思えません.私たちは,介護における負担を取り除き,要介護者と合わせて皆が快適に生活できるようになるのを,情報通信技術を生かして支援できないかと,考えています.

私たちはまず,高齢者向け介護支援システムを作り,そのノウハウをもとに,小児患者とその家族向けの介護支援システムを開発してきました.それらのシステムでは,要介護者(小児患者について介護者)が能動的かつ定期的に,要介護者の健康状態をサーバに送り,医療従事者がそれを見て今後の治療や介護サービスの参考にしてもらうものとなっています.

この研究は,和歌山医科大学,和歌山県看護協会,和歌山看護専門学校との共同研究プロジェクトとして実施しています.その中で私は,データベースシステムの開発や,評価実験におけるデータ管理といった活動をしています.

利用者ごとにシステムを開発しているだけでなく,データベースでどのように健康情報を管理すればよいか,という問題意識のもと,「単語帳モデル」に基づくデータ管理方式を考案しています.

単語帳モデル


テーマ4: アンケートに対するデータマイニング [E]

キーワード: アンケート作成分析支援,統計処理,判別分析

世の中では,紙上,ネット上問わずいろいろなアンケートが行われています.また,インターネット上で質問文を編集したり配置したり,回答を受け付けて様々な角度から分析できるものもあります.

私たちは,脳卒中と,労働生活の質(Quality of Working Life)を対象として,データマイニング手法を用いた分析手法を考案し,適用しました.脳卒中アンケートでは和歌山県内の約700件の回答に対して分析を試み,危険因子については,脳外科学の知見に沿った傾向を確認できました.


テーマ∞: その他のデータベースシステム [E]

キーワード: Webアプリケーション,データベースシステム,人間中心設計

これまで,教務支援,電子商取引,3次元製品デザインといった,各種業務のためのデータベースシステムを手がけてきました.教務支援とは本学内のWISSのことで,休講・補講・試験・呼び出しなどの情報を蓄積し,該当する学生にのみメールで送信しています(Webからのアクセスもできます).

それぞれのシステムは,研究室内で教員・学生の討論だけでなく,システム利用者(計算機利用に必ずしも詳しくない)の意見を得ながら,設計,構築をしていきました.


余談1: 計算機環境について [E]

Webアプリケーションを開発し,動作テストをするため,また授業準備や論文執筆のために,私は,デスクトップパソコンとノートパソコンを使い分けています.

サーバは,デスクトップパソコンに,Linuxをインストールしています.ディストリビューションは,GentooまたはDebianです.ただしそのデスクトップパソコンに直接ログインして使用することはほとんどなく,通常は,Windowsのノートパソコンから,SSHという通信方法を使用してサーバに接続し(リモートログイン),コマンドを実行しています.zshとscreenという二つのソフトウェアを組み合わせることで,ログアウトして,翌日にログインしても,ログアウトする直前の状態(実行したコマンドや出力の結果)が出てくるようになっています.

サーバの中に入れているソフトウェアには,WebサーバのApache,データベースサーバのPostgreSQL,全文検索エンジンのHyper Estraierなどがあります.

Webアプリケーションを作る際には何らかのプログラミング環境が必要ですが,私が一人でするときには,国産のオブジェクト指向スクリプト言語であるRubyを使用しています.学生と共同で開発する際には,授業やゼミで学んでいる,PHPまたはCを採用することが多いです.データベースを活用するに当たり,SQLという言語も必要不可欠です.

Windowsパソコンは,私の日常の計算機生活に欠かせません.といっても,通常の仕事では,ノートパソコンのフタは閉じています.キーボード(Happy Hacking Keyboard Lite2・日本語配列の白です)とマウスとモニタを接続して,使用しています.

ソフトウェアですが,文章を書くのに欠かせない,テキストエディタとして,Meadowを愛用しています.コマンドを実行するのは,Windows付属のコマンドプロンプトではなく,Cygwinを一式インストールして,zshを基盤(シェル)としています.Cのプログラムをコンパイルするのは,GCC (GNU Compiler Collection)です.Javaなら,Eclipseです.文書作成には,これも私一人の文書なら,TeXが第一候補です.PDFファイルまで生成できるのも嬉しいです.

ここまではフリー(無料)のソフトウェアばかり説明してきましたが,Microsoft Officeについては,お金を払ってライセンスを購入し,使用しています.文書作成にWord (doc),表計算にはExcel (xls),そして各種発表や授業には PowerPoint (ppt)です.ファイルを何人かで共有する場合,これらのフォーマットが現時点ではベストと考えています.

村川研究室では,ファイル共有にSubversionを用いています.Subversionは,基本的にはバージョン管理のソフトウェアです.ファイルというのは,プログラムのファイルにせよ,授業の資料にせよ論文の原稿にせよ,数日から数か月かけて,ああでもないこうでもないと加筆修正しながら完成させていきます.Subversionを併用すると,「3日前のファイルに戻る」ことや,「3日前のと今のとを比較する」ことが,簡単にできます(過去の情報を管理するためのバイト数も比較的小さく抑えられます).メールで送るには大きすぎるファイルを,Subversionを介することで問題なくやり取りできるというのも,もう一つの採用理由です.


余談2: 改姓について [E]

2003年10月に結婚し,「田中」から「村川」に改姓しました.

2004年4月より,学内活動において,「村川猛彦」(戸籍姓)を使用しています.授業だけでなく,共同研究の研究者についても,戸籍姓です.2005年に特許を出願した際,その出願人についても,住所も必要なことから,戸籍姓を使用しています.

学術発表や学会活動では,「田中猛彦」(旧姓)をしばらく使用していましたが,2006年,情報知識学会の編集委員を務めるのを機に,戸籍姓を使用することにし,所属学会には改姓手続きをしました.

学術発表についても,2007年3月からは全て,「村川猛彦」の名前を使用しています.

また,科学研究費補助金などでの研究者情報には,「村川猛彦(田中猛彦)」と記載しています.


takehiko@sys.wakayama-u.ac.jp
Last modified: Mon Jun 14 13:40:12 +0900 2010