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「オープンソースの集い 2001 in 名大」訪問記

はじめに

2001年6月9日(土)〜10日(日)に行われた, 「オープンソースの集い 2001 in 名大」 というのに行ってまいりました.

自分は趣味で小さなフリーソフトウェアを公開してきたくらいの技術力ですが, オープンソースというのが,自分の趣味に仕事(教育・研究)にどれくらい役立つかを 知りたくて,名阪特急の席を急きょ予約しました.

会場は名古屋大学のアメニティハウス1階,「生協フレンドリィ南部食堂」です. 名古屋の地下鉄東西線本山駅を降り,えっちらおっちら歩いてたどり着きました. 大学キャンパスの最も南,少し西のほうに位置していました.

講演レポートに先立ち,「オープンソースとは何ぞや?」という疑問に 簡単に答えておこうと思います.オープンソースの定義は, The Open Source Definition (OSD) を読むべきでしょうが,定義というより性質を挙げると以下の4点になります.

以下では,9日と10日に3件ずつ聞いた講演を,メモをもとに振り返っています.


オープンソースのウソ

11時.講演開始です.

まずは『オープンソースのウソ』と題して,風穴江さん. Linux Japanの編集長さんです.じゃなかった,今は編集顧問ですね. 「風穴江って何と読むんだろ?」と思ってたんですが,表紙スライドを見て一発; 「かざあな こう」.覚えました.

途中でスライド表示の一部が切れていることに気づきました. 講演前のチェックで見てても, 垂直同期とか水平同期とかおかしいなぁとか思ってたんですが. 簡単に復旧できそうにないので…スクリーン表示なしで(風穴さんだけ ノートマシンの画面を見ながら)しゃべってらっしゃいました.

講演内容

オープンソースとは何か? から始まりました.OpenSource.orgに定義があるものの, オープンソースにはさまざまな側面があり,そのため人によって力点が異なって, 議論が深まっていないのではないかという疑問を呈していました.

そして,よく言われる誤解,

を取り上げ,いずれも「実はそれらはオープンソースであってもなくても同じこと」と 論破してました.

他の主要なところを箇条書きしますと:

質疑応答

Q:日本でオープンソースに携わる人が出ない.
A:学生のうちから親しみ理解してもらいたい.
Q:Kylixとオープンソースは?
A:KylixやDelphiはコンポーネントの普及を促すだろう.コンポーネントはGPLにするといい.
Q:学生に親しんでもらうには?
A:まずは使ってもらう.面白い,あるいは便利だと思ってくれればいい.
Q:XP(Windows XPやOffice XP)によりソフトウェアのコピーがしづらくなり,オープンソースソフトウェアにシフトする?
A:シフトというのは懐疑的.使いたい人次第.商用でもフリーでも,著作権の尊重が前提.

感想

聞いてた中で面白かったのは, 「できる人は,人のソースを使わない.ちょっとしたものなら自分で書く」. その一方で, 「大学の教育に携わる人のソフトウェアコピーに関する意識が極めて低い」 の指摘には耳が痛いです.


オープンソース/オープンソフトウェアとライセンス

13時からの講演は,八田真行さんです.

講演内容

最初に判例のこと. BSDの裁判がアメリカで行われたりしててその情報や判例があるのに対して, GPLに関するものは,日本では,見当たらず… だからGPLが法的に正しいとは,日本では,まだ認められていないということです.

用語の説明や概念の解説. 主要なところを箇条書きしますと:

次に,BSDライセンスとGPLの比較がありました.

BSDライセンスには1999年を境に旧ライセンスと新ライセンスがあり, 旧のほうは宣伝条項ってのがGPLと矛盾してたけど, 新のほうではこれを取り払ったので矛盾しなくなりました. BSDライセンスは,ソース公開を義務づけていないため, NDA(Non-Disclosure Agreement)と相性がいい. その一方で将来の不確実性リスクがあり,商用に不向きという指摘がありました.

GPLはcopyleftのひとつの実装であり,不確実性リスクが小さくなっており, また各国の専門家による分析もなされています. 欠点は,難解であること,それから二次的著作物もGPLになるという伝播性です. GPLは産学協同開発に向いているということです.

BSDライセンスのベースは性善説,GPLは性悪説.なるほど.

企業に判例を作っていただきたいといったところで,ご講演はおしまい.

質疑応答

「権利」ということもあってか,活発でした.

Q:ライセンスは変更可とあったが,過去のソフトウェアには適用されないはず.(確認の質問)
A:その通り.
Q:デュアルライセンスを保持した二次的著作物はできる?
A:できるのではないか.
 (上述と相反する回答ですが,講演中のは一般的な解釈で,この回答の方は八田さんの個人的見解のように見えました.)
Q:日本での,日本語以外の契約は有効か? 錯誤により無効と言われるかも.
A:当事者間で合意があれば,何語でもいい.GPLは日本語・英語ともに正文.
Q:パッチを取り込む際の著作権は?
A:キメラの実例であり,著作権者の意思によるだろう.

感想

「copyleftは,著作権を駆使して逆の目的を達成する」が強く印象に残っています.

ドラゴンクエストのキメラは神話のキメラから思いっきり離れているけど, ソフトウェアの世界にもライセンスの「キメラ」があるという指摘には驚きました.


フリーソフトウェアって何?

14:00からの講演は,新部裕さんです.

発表スライドには「g新部裕」とありました. 「g」はゴミじゃなさそうで… 聞けばわかりました.最初に「ぐにいべです」って名乗ってました. GNOMEに対してg新部といったところでしょうか.

講演内容(1)

この講演は,リーダーがメンバに演説しているような雰囲気でした. フリーソフトウェアを作ることは「不良」であり「暴走族」とたとえるんですから. 例えばporting. まっとうなサポートなら,「そちらに移植ですか,サポート料金は別になりますよ」 となるけど,暴走族は,エイヤっとやってみる,そしてうまくいく,という次第.

ほかに

など,場内を笑いの渦にする発言がいっぱいでした.

ただ,「英語は壊れている.無料のビールと言論の自由を区別しない」という コメント(メキシコ人プログラマMigel de Icazaが言ったそうです)をもとに

と言うのは,その瞬間は笑えたものの,思い直すと釈然としません.

主要なところを箇条書きしますと:

講演内容(2)

g新部さんの講演は40分くらい.ただちに質疑ではなく, 八重樫剛史(やえがし たけし)さんによる, 『GNU/Linux on SEGA Dreamcast』. g新部さんと八重樫さんのペアによる講演が定着してるんだとか.

この開発の話は去年から聞いてましたが, キーボードやマウスやネットワークをサポートしたのが今年に入ってから, というのは初めて知りました.

IPAの未踏ソフトウェアプロジェクトとかいうので採択された 「DODESプロジェクト」では,Dreamcastを32台つないで, 組み込みUNIX向けの分散ビルド/テスト環境を構築するそうで.すごいですね.

Linux on Dreamcastの起動デモ…たしかにDreamcastで,なるほどLinuxです.

質疑応答

時間が押してしまって,起動デモを見ながら質疑に移りました.

Q:なぜLinux on DreamcastがM17N.ORGで?
A:g新部さんがいるから.
Q:PS2 Linux Kitはどう思うか?
A:素晴らしい.もっと暴走してほしい.NDAに反しない範囲でhackしてほしい.

もちろん回答のたびに場内爆笑です.

感想

どの講演も, スライド表示にはMagicPointを使っていて,Windows+PowerPointは皆無でした. 自分はコンピュータと向かい合うといったら90%以上がLinuxですが, プレゼンの前だけはWinodwsに向かって,PowerPointでごりごり書いています. やはりMagicPointの勉強をしたほうがいいのでしょうか.ガイドブックがあればなあ.

g新部さんはEmacs/MagicPointというものを使用とのこと. 箇条書きの項目をクリックするとサブ項目が出現し, 不要なサブ項目が消滅するのを見て,うまくできてるなあと感じました.


オープンソース・ムーブメント〜静かなる革命〜

ここからは10日(日)です.

10時より, 「オープンソース・ムーブメント〜静かなる革命〜」と題して,武藤健志さんです.

講演内容

前半は,オープンソースのMyth,つまり神話,といいますかネガティブキャンペーンの 例を指摘して,それぞれ反論を述べる形でした.順番に行きますと:

そして後半は,オープンソースのFact,と書いてましたが自分なりに解釈すると 「実情」(ときには「教訓」),がずらずらと:

まとめとして出たスライドが,「What can we do?」.この質問に対して,

を挙げていました.

質疑応答

Q:タイトルの「静かなる」の意味は?
A:徐々に,しかし着実に動いて,商用ソフトに風穴をあけようということ.
Q:この1年でどのような変化や影響があったか?
A:ソフトウェアとしては,GNOMEなど.対外的には,Microsoftがシェアドソースを言い出すなど,オープンソースを意識するようになったこと.
Q:Netscapeは継続している?
A:Mozillaはまあ成功.Netscape社の行動は失敗(初期公開のソースが,動くどころかコンパイルさえできないものだった).
Q:企業に認知されつつあるが,一般(一般の人,マスコミ)への普及方法は?
A:広場でゲリラ的に実施する(笑; これはもちろん冗談).まず知ってもらい,そして正しく理解してもらう.
Q:Debian本について一言.(武藤さんは最近出たDebian本の筆者です.)
A:Debian普及のために出したので,RedHat系の人でも,まずはこっそりとでも使ってほしい.

感想

感想にかえて,この講演で,そして他の講演でもよく出たふたつの概念, 「fork」と「車輪の再発明」について,自分なりに補足説明を加えておきます.

forkは上述の通り「開発の分岐」のことです. UNIXのforkは子プロセス生成のためになくてはならないものですが, オープンソース開発のforkはエネルギーの分散となるので 慎まなければなりません.

車輪の再発明は,Perlとともに広まったように思います. ある目的を達成するためのソフトウェアを作るときに, ゼロから作る(これが再発明!)よりも, すでにあるソフトウェアやライブラリなどを使用するほうが効率いいし信頼性も高いね, といった格言です.


Starting スラッシュドットジャパン

11時からは,次の講演. 『Starting スラッシュドットジャパン』と題して,安井卓さんです.

スラッシュドットジャパンのURLを書いておきましょう: http://slashdot.ne.jp

はじめに,講演の最初によくある挙手形式の認知度調査です. slashdotを知っている人が多く,安井さんは知らない人向けにスライドを作ったので, 少し困った顔をされていました. しかしアカウント保有者数は多くなく,これは話すチャンスだと,元気に話し始めました.

講演内容

slashdotは,オープンソースジャーナリズムです.

そしてスラッシュドットジャパンは,日本語によるslashdot. システムはslashdot本家のをもらい,メニューなどを日本語化している最中だそうです. 記事は,slashdot本家とスラッシュドットジャパンとで全く別です.

slashdotをひとことで言うと,「掲示板 + 付加機能」. そのほか,スラッシュドットジャパンでは独自に日記システムを提供しており, これの書き込み数が多いのが嬉しい誤算とのことです.

タレコミをもとに執筆者が書くというスタイルで,記事を作成しています. 執筆者は現在5人.タレコミは,アカウントの有無に関わらずだれでも可能. 記事にはコメントをつけることができます.コメントには記事へのスコアを必要とし, このスコアが記事の質を教えてくれる仕掛けです.

記事はトピックに分けられています. 現在のトピック数は87個. スライドの右上に,スライドごとに異なる小さな絵がありました.

コメントやタレコミ次第で執筆者になれるそうです. ソフトウェアだけでなくデバイスに関する内容も歓迎し, スタパ斉藤系の「こんなデバイス,動きました〜」といったタレコミを 募集していました.

アカウントを作ることのメリットは,

などです.

質疑応答

Q:ユーザ登録数は?
A:スラッシュドットジャパンは2500人,プラス100人/日.本家は6桁.
Q:アクセス数は?
A:ヒットは30万/日.ページビューは6万/日.
Q:Yendot(http://yendot.org)との違いは?
A:Yendotは備忘録.slashdotはどんな情報でも.
Q:アレゲとは?
A:元はIRCのトピック.使っていると形容詞がすべて「アレゲ」になるという,日本語が壊れる単語.
Q:OSDN Japanの今後は?
A:VAにおいて,オープンソースコミュニティを支援していく.
Q:なぜスラッシュドットジャパンのFAQは日本語ではない?
A:書いていく.多くは本家からのものなので.

感想

ここも感想というよりは補足説明になります.

安井さんはVA Linuxに勤めていて,VA LinuxがOSDN Japanを運営しています. 詳細は,http://www.valinux.co.jp/をご覧ください.


オープンソースコミュニティの作り方〜その現状と課題〜

個人的にやや睡眠不足でして,講演の10分前にイスに座ってひと寝入りしてました. 司会者のマイクで目が覚めました.

13:00からは, 『オープンソースコミュニティの作り方〜その現状と課題〜』と題して, 宮原徹(み。)さんによる講演です. 個人的に,とあるところの結婚式披露宴で同席したことがあります. 名古屋に来たのも,この方の講演があるからこそだったのです.

スライドの背景は,多くの講演者が真っ白のところ, 宮原さんのは町並みがうっすらと描かれていました.

講演内容

ケーススタディ(経験談)から.

Project BLUE
ビジネスでLinuxを使いたい人を支援するプロジェクト. 特定の組織形態をとらず,イベントドリブンな集まりになっています.
日本Sambaユーザ会
こちらは,Sambaの普及促進,それから国際化作業のために組織化したものです.

どちらも会の前身はメーリングリスト.

ユーザ会の生成に必要なものは,宮原さんによると,「人」と,「酒」と,「情熱」. 酒がないと化学反応しないわけです.

ユーザ会生成のプロセスは,

  1. メーリングリスト
  2. 飲み会
  3. ドメイン取得
  4. セミナー後に飲み会
  5. イベント後に飲み会
  6. 純粋な飲み会
  7. 4に戻って無限ループ

ユーザ会の現状は,

最後のは宮原さん個人のことですね. それにしても,至るところに酒ですか.

真面目にいきましょう. 課題としては,まず, 使う立場でとどまらず,作る立場に移っていくことを挙げていました. 具体的には, InternationalizationすなわちI18Nや MultilingualizationすなわちM17Nを日本が主導するなど, 英語圏主導のこれまでの開発形態に積極的に関与していくことを指摘しています. その際,大きな課題がふたつあって, ひとつは開発者ではなく技術者が主体であること… 人数に関して開発者の比重を上げないと,ということですね. もうひとつは英語力,これは納得いきます.

オープンソースとビジネスとの関わりについては, まずオープンソースソフトウェアの技術をビジネスに積極的に活用するとともに, 純粋主義に陥らないよう戒めていました. 場合によっては特定企業と結びつくのもありで.

オープンソースは「人・モノ・カネ」というビジネスの基本を変えていく… といっても,人はオープンソースでもやはり一番重要です. モノとカネは,コミュニティやってると自然とついてくるそうです.

ここで質問.「あなたはコミュニティメンバーですか?」

これに対して「いいえ.ユーザ会に入っていないから」というのはおかしい. 使うことも,立派なコミュニティ活動である. コミュニティは使う人が支えている… なるほどです.

Sambaのややテクニカルな話. バージョンは,2.2と,2.0.9-ja1.1alpha2ってのが並走しています. 国際化のベースを2.2にするか2.0にするか議論中だそうです.

Sambaを「使いたい人?」で挙手してみると,非常に少ない. 宮原さんがっくりしたものの, 質問変えて「使ってる人?」にすると9割以上が挙手して,ひと安心.

まとめ.

質疑応答

Q:大学のほうが企業よりも,組織下の行動の制限が緩い.(実例報告)
 宮原さんが答えにくい状況になりましたが(質問じゃなくってコメントですから),「別の教育関係者」として,私の右横に座っていた方が発言を.
C:「大学は…」と一言でくくることはできない.大学間,学部間,学科間で,組織行動は違う.
 ということです.ついでに,
C:日米の大学比較はそもそも無意味.ひとつは制度上の違い.もうひとつは,他の国との比較が欠けていること.
Q:インターンシップで,学生がオープンソース技術を学べるといいかも.実例ないか?
A:実例は聞かない.現状の短期アルバイト的なインターンシップでは意味がない.1年くらい企業派遣して,成果が卒業論文にまとめられるのなら価値がある.

感想

質問時間がもっとあれば,発言したかったことがあります.ここに書いておきます.

良きにつけ悪しきにつけ,オープンソースは虚飾を廃するんですね.


おわりに

6つの講演は,大いに勉強になりました.

学生への指導まではなかなか難しいけれど, まずは自分が使い込んで,便利な機能を紹介するとか, システム開発において機種(ハードウェア,あるいはOSなどがベースとなっている 使いやすさ)だけでなく機能(ソフトウェアの有用性)も考慮に入れて ツールを選んでいこうと思うようになりました.


関連情報

主にリンクです.上と重複するところもあります.


このページの更新履歴

2001年6月19日:あちこち修正しました.
2001年6月15日:いくつか修正しました.(が,このバージョンはサーバに置かれてなかったようです.すみません.)
2001年6月13日:このページを公開しました.

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Last modified: Tue Jun 19 02:53:25 JST 2001