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大学紹介

対談・おかえりなさい [第1回]

門 博文さん
衆議院議員
経済学部 第36期(1988年卒業)

瀧 寛和
和歌山大学 第16代学長

藤田 武弘
和歌山大学 観光学部長

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世界遺産・食資源――豊かな大地 和歌山で
地域から「頼られる大学」になるために

門博文さん/和歌山大学の新キャンパスが現在の栄谷に移転統合された1988年に、そこから巣立った初めての卒業生。松下興産を経てロイヤルパインズ社長に就任、バブル時代からリーマンショックまでを民間企業で過ごしたのち、2012年に衆議院議員に。地元の発展のために母校に寄せる期待は大きい。“フルーツ王国”としても知られる和歌山県伊都郡かつらぎ町出身。

地域に根を張り、世界とつながる

瀧 おかえりなさい、門さん。今日は新しい取り組みのいくつかについて、藤田観光学部長と一緒に少しお話しさせてください。

 先日、東京に「首都オフィス」を開設されたときに、山田副学長の講演を聞かせていただきました。観光学部は、学部から修士~博士課程の設置が完了し、来年からは研究センターとして「CTR=国際観光学研究センター」も新設されるんですね。

瀧 はい。教員養成系や人文社会科学系の学部の廃止や変革については新聞等でもいろいろ議論されていますが、和歌山大学は、観光学部が人文社会学系のモデルとして文部科学省からも高く評価を受けています。

門 山田先生もおっしゃっていましたね。

瀧 この新しい「観光学」という学問の進め方を和歌山大学のこれからの教育方法のパイロットモデルに、「CTR」という全学センターを中心としたさまざまな試みを進めていきます。英語で入学、卒業するという観光学部の新しいプログラムなどは、文系理系を問わず、全学にインパクトがある教育プログラムだと思います。

門 新しい話題として、このたび「COC+」に採択されたとお聞きしています。

瀧 「COC」=「センター・オブ・コミュニティー」という文部科学省の大学活性化事業に、3年目の今年、「プラス」がつきました。大学は、地方創生にからんだ形で「地」と「知」の拠点として発展しようという取組です。

門 「地」と「知」ですね。

瀧 はい。和歌山大学は、和歌山県立医科大学、和歌山信愛女子短期大学、和歌山工業高等専門学校、近畿大学生物理工学部、摂南大学、大阪府立大学、大阪市立大学と一緒に「紀の国大学」という仮想的な大学を作り、まず「学生に和歌山を知ってもらう」教育をします。それによって、和歌山はもちろん、大阪で学ぶ若者たちの「和歌山で働きたい」意識の実現を促し、地域への就職率も上げられたらという考えです。

藤田 和歌山が持っている潜在的な地域資源を活用して、既存の企業への就職だけでなく、たとえば起業精神を持つ若者も育てるべく、4つのテーマの「地域協働セミナー」も構想しています。「6次産業化」「商品・技術開発」「移住先進地の再興」「命と生活のインフラ」です。

門 国の地方創生政策の和歌山県版、「和歌山県まち・ひと・しごと創生総合戦略」のテーマと重なるんですね。

藤田 はい、6次産業化で活躍されている方や、Iターンで地域をエンカレッジされている方を招いて学生たちと意見交換する場も作っていこうと。各学部とも地域に入って学生を育てる取組をしてきましたので、それぞれの蓄積をより一層発展させていきます。

門 なるほど。

瀧 「COC+」は教育や人材輩出寄りの取組ですが、地域課題の解決に大学全体で協力するための窓口として「地域活性化総合センター(仮称)」も来年度から立ち上げることになりました。

藤田 世界とつながるグローバル・センターとしての「CTR」と対になって、地域につながるリージョナル・センターが必要だと考えました。和歌山大学は、農林水産業が非常に重要な一次資源となる県にありながら、農学に関わる専門教育を行う機関がこれまでありませんでした。しかしながら実は和歌山大学には、農学博士が私を含めて10数人おります。

門 それは知りませんでした。

藤田 第2期までに取り組んできた各領域からの「和歌山大学型グリーンイノベーション創造プログラム」の成果を大学の中で絡め合わせ、従来の農学部を超えた形で実現しようと。そんな「地域活性化総合センター」のカギになっているのが、「食農総合研究所(仮称)」です。

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食資源の宝庫・和歌山の農業

瀧 この「食農総合研究所」は、「アグリビジネス」すなわち食を使ったビジネスに力を入れ始めている経済学部なんかとも組んでいきたいんです。

藤田 「食」はひとつの観光のキーワードでもあるんです。

門 でも食は、実は難しい。日本食とはそもそも何でしょうか。数万円の懐石を日本食というのも一つですが、牛丼だって日本食かもしれない。「海外へ日本食をPRしました、評価されました、さぁ食材を日本から輸出できます」というロジックには、2つの大きな疑問があります。

瀧 はい。

門 1つは、日本食の店が海外にできたとしても、食材は現地調達だろうということ。もう1つは、日本から食材を輸出できるようにするには、家庭料理の中に入り込まないと無理じゃないのかということです。日本のイタリア料理店では日本の食材を使っていますが、スーパーにはイタリア産のパスタが並んでいますよね。

藤田 おっしゃるとおりです。日本の食材輸出に過度に期待する前に、まずはインバウンドで来られる方に、多様な食をこちらで提供することでしょう。

門 これだけ食のバリエーションが広い国はないですものね。しかも価格帯も多様で。何でも食べられる日本の食環境の特異性を、うまくPRできたらいいと思いますよね。和歌山は食べる分にはおいしいものがいっぱいあるし(笑)。

藤田 そうです、食資源の宝庫ですので。むしろ来ていただいた方に、こちらでお金を使ってもらえる仕組みを作るのが正しいと思います。

門 その先に輸出があるんでしょうね。和歌山で特にポイントだと思うのは果物ですね。日本ではほとんど認識されていませんが、これだけ品質の高い果物を作れる国ってないですよね。味も見栄えも。世界でもものすごくレベルの高いところにいます。

藤田 すごいですよね。

門 マリーナシティに来られる海外、特にアジア系のお客さんは、桃のシーズンになると、売り場のを全部くれって言うわけですよ。大人買いですよね。桃は足が早いから持って帰れないけど、移動中にみんな食べるそうです。中国にはない、と。旅行先では食べ物の楽しみが大きいようで、何万円も置いていってくれますからね。そのポテンシャルを繋いでいって、将来は輸出できるようになればと。

藤田 そうですね。

門 いま、TPPの問題も起こってきているのは事実で、フランスが農業大国であるのは、ヨーロッパ中で消費されているからだとご説明しているところです。この局面でどれだけ外へのビジネスに転換できるかがポイントになると思うし、和歌山にはそのチャンスがまだまだ隠されています。そうしないと、和歌山のこの果樹の資源は守れない。山が荒れると戻せないですから。

瀧 どんなことでも、いっぺん辞めると復活するのにものすごいパワーがいるんですよね。ある製品の製造を止めると、また作ろうかっていうときに何も技術が残っていなくてゼロからになってしまいます。細々とでも作り続けていると、いろんなことができる。まさに果樹なんかそうですね。荒れたら終わり。

門 和歌山大学に農業のオーソリティがたくさんいらっしゃるということであれば、「和大で農業」を発信してください。就農されてる方々と、和歌山大学が「農業」というキーワードで繋がって、もっと何かやれたら。

藤田 和歌山のポテンシャルは高いですね。輸出という観点から言うと、国全体としてまとまっていない、屋台の寄せ集めみたいな日本のやり方から変えたいですね。県ごとに競争せずに、ALL JAPANで。kado_04s.jpg

門 我々も政治家ですからいろいろと取り組まないといけない課題があって、農業問題では、和歌山はピンチですけど、ありきたりな言い方ながら、チャンスに変えられる。

藤田 充分あると思いますね。

門 休耕地問題を考えていくと、ここ10年くらいがラストチャンスです。和歌山はみかんの産地でした、柿の産地でしたって過去形にならないように、ぜひ和歌山大学としても取り組んでほしいなぁ。

「産」「学」のつながりで 地域活性を

門 ここまで伺って、大学としての仕組み、装置は充実されているなと思いましたが、私の率直な印象とすると、地域が求めている「観光」というものの「幹」の部分がまだ見えないと感じました。大学から見ると、地域に対して溶け込んでいると思っているけど、地域の人から見るとそうでもないという。

瀧 敷居が高いでしょうか。

門 去年、和歌山工業技術センターにお邪魔した時に、現実を垣間見たような気がしたんです。私たちのあまり知らないところで、和歌山の中小企業の方々が駆け込み寺のように頼っていたんですね。果樹試験場もそうです。農家の皆さんが相談のために通っている。地域に頼り頼られる関係があると思いました。

瀧 もっと頼られる大学に。

門 はい。商工会議所と和歌山市との間でも、先日協定を結んでもらったと聞きました。「知見に関係することは、いちど和歌山大学に相談してみて」と言ってくれるなら非常にありがたいですが。

瀧 今まであまり、大学は発信してこなかったですよね。

門 大学は、行政とつながることも大事ですけれど、やっぱり「民」とつながってください。「産官学」の「産」と「学」がもっと。観光学もありますし、経済学部だってもっとうまくブレイクダウンすれば、地域にいろいろ影響を与えられる研究があるでしょうし。

瀧 食農もうまく浸透していけたらと思います。

門 CTRでも海外の先進学校と提携されるということで、ペーパー上はアグリーしていきますよね。でも協定の締結後、和歌山大学の実力が、厳しく問われる時期が来ると思います。和歌山のためにも、実行に傾注していただきたいですね。

瀧 はい。

門 即物的なことをいうと、「この人に任せたら成功するホテルを作れますよ」というようなもの、「和歌山大学に相談したらいいことあるよ」という実利が、農業や観光による地域活性化の話の先に、「幹」としてあってほしいです。

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瀧 観光学部は10年に満たない新しい学部なので、卒業生が社会で花開くまでにはもう少し時間がかりそうでしょうか。

藤田 「幹」の部分は、追求してもなかなかすぐに結果が出ないものですが、全国から集まった「おらが村をなんとかしたい」というモチベーションの高い学生たちが和歌山の地域に入ることと並行して進めていきたいです。

門 和歌山は人口も少ないし、そんなに幹の太い産業があるわけでもありません。何か困ったり迷ったり、兆しが見えたときに、相談に行ける大学になって欲しい。観光学部か、経済学部か、教育学部か、シス工かわからないけど、とにかく力になってくれるところになって欲しいですよね。イメージの上でも、物理的にも、どうやってドアを開けておいていただけるか。

瀧 企業のように営業所をあちこち作れればいいんですが。センターが1ヶ所とサテライトが2ヶ所ありますが、移動できるサテライトも作って、和歌山の隅々まで頼っていただけるような仕組みを作れると。

門 ぜひそれはやっていただきたいと思います。地方の大学で、地方の経済に与えるインパクト、つまり頼りがいのないところは淘汰されていきます。私は出身者ですから、淘汰されてほしくないわけですよ。地域の経済、地域の行政からも頼りがいのある大学になってもらいたいと思います。

瀧 はい。

インバウンドと 持続可能な社会

門 いま政治的には、外国人旅行客を増やそうと取り組んでいて、政策もいろいろと展開されて伸びてきた。伸びてきたことによっていろいろな問題も起こってきています。これも政策的にカバーしようとしています。「CTR」という研究センターでは、関西国際空港という国際空港が至近にある都市としてのアプローチもぜひ研究してほしいです。

藤田 関空との近接性ということと合わせて、熊野古道と高野山という世界遺産があります。中国からの観光客が中心部で買い物をする現象は、ひょっとしたら一過性になってしまう可能性がありますが、日本の精神性に魅せられて、高野山や熊野古道のリピート率は上がってきています。田辺市の観光協会がベースになった「紀州熊野ツーリズム・ビューロー」という、国内で唯一の「着地型のインバウンドを専門とする」観光業者もあります。

門 そうですね。

藤田 あそことも連携しながら、いま、和歌山へのインバウンドの方々が何を求めているのかについて、地域が享受する経済・文化交流の両面の意味も含めて研究できれば、地域の意欲も上がってくるだろうと考えています。インバウンドを受けることに伴って日本がどういう社会に変わって行くのか、ひとつのモデルを和歌山からPRしていくような研究を進めつつあります。

門 政府の官公庁は、日本版DMOの組織を作ろうとしています。これまでのトラベル・ビューローとは違い、もっとストラテジーを描くことに主眼を置いた模索です。和歌山大学観光学部には、行政や観光業者が不得意な部分、研究や調査の一翼を担ってもらいたいところです。

藤田 はい。

門 さらに、IR(統合型リゾート)も政治の中では大きな問題です。「カジノ賛成/反対」という論点だけが語られていますが、そうではない。日本がようやく世界の観光の選択肢の一つになる時代がやってきたのだから、統合型リゾートが要る、そのために、世界に通じる機能が必要という話です。日本の大学ではまだ研究が進んでいない分野なので、和歌山大学がその先進事例になってくれたらと。CTRや観光学部に私が抱いている希望はたいへん大きいんですよ。

藤田 グローバルスタンダードな視点は、日本の観光に今までなかったと思います。

門 まったく新しい時代が来ているということに気づいている人がまだまだ少ないと思うんです。日本の研究者や学生、事業者も我々政治家もそうです。目線を早く切り替えないといけない。

藤田 研究のレベルもそうですけど、地域で実業に関わっておられる方の意識も同時に引き上げていこうと。

門 そうです。和歌山は田舎ですから、外国の方をもてなすということに気後れしたり、消極的だったりしますが、たとえ言葉は通じなくても、マインドは……

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藤田 皆さん持っておられますね。最近、農家民泊で外国人を受け入れられる農家さんも増えてきましたし、最初のハードルを越えるとそれほど大きなことではないですね。

門 そういう気付きのきっかけに、大学の研究・活動があってもいいと思いますね。和歌山は、日本でいちばん進んだ国際観光地方都市になるということを行政からも言ってもらわなきゃいけないと思ってますし、大学からもそういう発信というか、バックアップを。

瀧 まず「売れるもの」という発想から、逆に技術の方へ戻ってきたりすることもあります。学問が本当に世の中の役に立つために、新しい価値を作るということは、大学は弱いかもしれませんね。こちらから地域に出ているつもりでも、向こうからは充分でないというのはなぜか。今後は地域の意見を聞きながら、大学の方向性をうまく定められたらと思います。和歌山にカジノができるかどうかはちょっとわかりませんけれど。


門 いやぁ、手前味噌ですけど、可能性は高いと思ってるんですけれどね。

ハガキを書いたことのない者がDMを作る時代

瀧 もっと主体性を持って頑張れるひとが求められる昨今、大学もいろいろ工夫しているんですが、学生たちは昔よりおとなしいイメージがあります。

門 私が学生だった頃から比べると、彼らは極めて優秀な人たちです。ただ、その優秀な部分は、何に培われたものかというと、ちょっと希薄な部分があると思うんですね。学長も学部長もそうですが、我々の時代にはパソコンもネットもケータイもなく、何かを調べる源泉というのは、平凡社の国民百科事典だったわけです(笑)。調べたり研究するには、それなりの労力がかかった。けど今は、右手ひとつで、さも何年も前から知っていたように、もっと言えば何十年も前から築かれたような情報を、さも自分のもののように。

藤田 そうですね。

門 会社の経営者だった時によく若い社員に言いましたが、飲食業、観光業、ホテル業は、エンドユーザーと接する仕事です。レストランの売り上げが落ちたから、販売促進のためにダイレクトメールを出すとなると、今の人たちはコンピュータソフトを使って、一見上手そうなDMを作るんです。でもよくよく見れば、薄っぺらいんですよ、コピー&ペーストの連続ですから。

瀧 誰でも作れるような。

門 そう、それなりの、60点くらいのものですね。でも、90点100点にはならない。次に「何通出す」って聞いたら、500通とか1,000通とか、丸い数字を言うんです。

藤田 丸い数字。

門 丸い数字を言うってことは、数字に根拠がないんです。「うちのお客様の中で、先月来てくれた男性だけに出す」という根拠があれば、498人になるはず。500という丸い数字になるということは、どこかで「ええ加減なこと」をやってるわけですね。

瀧 なるほど。

門 知識の話に戻ると、手書きで手紙を書いたことがあるでしょうか。私たちの頃は、入社したらいろんな書類を手書きして、失敗したら、一から戻ってやり直し。だから考えて書くし、丁寧にも書く。失敗しながら少しずつ進化していくものですが、今の若者は経験していません。手書きのハガキも手紙も書いたことない人がDMを作っている、そんな世の中。

藤田 そうですね。

門 あえて時代を逆戻りしろなんて言うつもりはさらさらないですが、大学では、そういうことを学生のうちに経験できる工夫をしていただけたら。

瀧 完成品に見えるけれども、実は上げ底になっているイメージですね。原点に還って何かさせると実はできないという。

門 まさに。お礼やお願いは手書きの手紙で送る、そういう観点や感性を持っていただきたいです。

瀧 しんどいことを努力してやるという忍耐力ですね。自分で何かやるというのは忍耐力がつくことです。私なんかも、卒論も全部手書きだったから……

門 僕らの時もそうでした!卒論に文献を引用するときでも、見て写してますから、一応、頭の中へ字面が入ってましたけど、今はコピペですから(笑)。

瀧 考えないですよね。

門 そうそうそう。文明の利器の発達によって、書き損じが書き損じでなくなった。便利だけど、「失敗」がなくなりましたよね。失敗してはいけないというより、失敗しなくて済むことばっかりで来たのに、実社会では失敗の連続が待っています。上司に怒られるだけで「大失敗」と辞めてしまう。

瀧 定着率の問題ですね。

門 そういう意味では、失敗が許容されるような教育が必要なんじゃないかなぁ。大学だからと言ったら乱暴ですが、「失敗してもええで」「それより、もっと元気よく、いろんなことに挑戦したら」っていう風に。ぜひ学生の間に失敗してほしいんですよね、あえてね。

瀧 挑戦しなくなっていますよね。失敗しないところだけを選ぶというか。打たれ強い、失敗してもくじけないようなひとに育ってほしいですが。

門 それじゃなかったら、ノーベル賞も今後は日本から取れないようになりますよね。今年受賞された方のお話を聞いていたって、工学系の受賞っていうのは、1万回、2万回、3万回の失敗の次に、1回の偶然や1回の成功があるだけですよね。

瀧 ええ。

門 だから失敗を前提としていかないと、発明っていうのはないとすると……失敗してなかったらそりゃあ、何も発見はできないですよね。

瀧 我々、教育の中でもかなり反省しないといけないのは、いろいろとお膳立てしてしまうことがあるんですよね。そうすると、学生の皆さんは失敗を体験できない。失敗しないようにいろいろ準備した実験は、できて当たり前なんですよね。だからちょっと違う教育の仕組みを作らないと。「3回失敗しないと単位を出さない」とか。

門 学長、いやまさにそういうことだと思いますね(笑)!

藤田 いっとき、成功体験をさせるようなプログラムばかり追求してきた時代がありましたよね。これはちょっと転換しないとダメですね。

ギスギスした社会から 若者たちを解放したい

門 時代というと、就職活動も様変わりしましたね。私の頃は、和歌山大学の経済学部には「4大ゼミ」というのがあった時代で、就職に関しては、ゼミの先輩からの連続性が脈々とありましたね。

瀧 工学部と似てますね。

門 ちょうど88年の卒業で、バブルの残っている頃でしたから景気もまだよかったからですけど。同級生を見ても、それなりの苦労で、それなりの就職ができた、いい時代でしたよね。うちの娘も大学4年生で “就活”が終わったところなんですけど、エントリーシートって、お互い無駄なことですよね。

藤田 そうそうそう。

門 先日、学生の就職を考えるための会があって、機会があったので私も意見を申し上げました。大量のコピーをインターネットでやりとりする、そのような仕組みが企業と学生の双方にとっていいのか、問題提起をさせてもらいました。

藤田 中小企業は、エントリーシート方式をやめるところもあるようですね。ダイレクトに学生と面談したいと。

門 あるでしょうね。もう一つの問題は、ケータイというかスマホ。試験や面接の結果は、スマホに「非通知」でかかってくるとか。鳴った時に出なかったら、自分が待っている人事部からの報せなのかわからないという恐怖感で、スマホを手放せないんです。

藤田 授業中に学生がスマホを持って教室を出ていきますからね。

瀧 大企業も何万通って来ますから、処理できないですよね。いつの間にか無駄な仕組みになってますよね。

門 なってます。ものすごくギスギスしてるっていうか。こんなことは、止められないものなのかと。娘が受けた企業は、100人採用に4万通とか。エントリーする方もね、行けると思って出してるのか、もうわからないですよね。100通出すなら、あそこもここも出しておけ、ってなっているのかもしれないし。

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瀧 今年の就職活動時期の後ろ倒しの影響は大きいですね。8月に大手の内定が出た後、蓋を開けると3割しか残っていなかったという中小企業もあったそうです。そこからまた採用試験をやり直すと、企業にとっても大きな負担ですよね。

門 でも永遠の課題というか、いつ就職活動の解禁日にしたらいいかは、我々が活動した30年近く前から行きつ戻りつして、ぜんぜん正解に行きつけてないですよね。ずっと就職氷河期みたいな時代があったからこんなことになりましたけど、景気が安定して売り手市場が続けば、エントリーシート方式も淘汰されてくるかもしれません。

瀧 企業にいたときのことを振り返ると、成果主義だけが言われるようになってから、何かが壊れましたね。

門 おかしくなりましたね。

瀧 それまでは、プロセスをきっちりやっている人を評価してきたんですよ。結果が出なかった時でも、どれだけ努力してきたかも評価していた頃の方が、組織としても、みんなきっちりするようになりますし、全体的に見ると、成果も多かったかなと思います。

門 ねぇ。その、成果主義こそ、中央と地方という区分けの中で、弊害を起こしていると思います。販売業で成果主義と言われても、車100台売ることに対する労力は場によって違うわけです。人口が多い都市で100台売るのと、和歌山のように人口も少なくて経済も弱いところで売るのでは、比べる変数を掛けないといけないはずなのに。100台売った人は一生懸命仕事してて、30台しか売れなかった人はダメという……こんなことをしていたら、おかしくなりますよね、極端な話。

瀧 要するに同じように努力してる人が報われなくなるので、そうすると、全体的な活力が落ちますからね。

門 成果主義って言ったときの平等性が担保されていないのに成果主義って言うから、おかしくなったんだと思いますね。ホテルでも成果主義みたいな人事評価制度を入れていきましたけどね、その前とあんまり変わりません(笑)。結果は。

瀧 そうでしょうね。

門 定量的にやってようが、定性的にやってようが、前の評価が高かった人は、成果主義になっても高かった(笑)。変わらないんですよ、ほとんど。それをギスギスやって、お互い疲れることだけ。いっときのブームでやってしまったのが失敗だったと私は思います。

瀧 日本の文化に合わないものを入れてくると逆効果ですよね。

藤田 我々、大学の中でもそうあっていただければありがたいんですけど。文部科学省の方針もありますし、難しい問題ですね。

門 民間出身の私が霞が関の中で感じるのは、民間とやりとりしている国土交通省や経済産業省などと比べると、文部科学省は、奥ゆかしいところがありますね。エンドユーザーが非常に限定されていて、ほとんどが教育界の方々ですから。

瀧 そういう風土なのですね。

門 そういう意味では、教育のことが国民的議論になることや、我々政治家も一緒になって考え行動することが必要なのでしょう。

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2015年10月
取材:広報室
撮影:谷口祐太
[学生広報チームPRism]

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