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大学紹介

対談・おかえりなさい [第2回]

宇田 有里さん
和歌山県立日高高等学校教諭
システム工学部 第13期(2011年卒業)
教育学研究科 第20期(2013年修了)

瀧 寛和
和歌山大学 第16代学長

宇田さんA 

「知りたい!」という思いの先に
教員という道がありました

宇田有里さん/システム工学部長が「素敵な卒業生に会ったんですよ」と紹介してくれたのは、和歌山県立日高高等学校で理科を教えている宇田有里さん。和歌山大学で初めて、システム工学部から教育学研究科(大学院)を経て教員の道へ進んだ卒業生で、学部では精密物質学科・山門先生の研究室に所属。伝導率の高い新規化合物の合成を目標に研究を進めるうち、化合物の構造が一部分を変更するだけで大きく異なった構造となったことに目を留め、伝導率よりも構造変化の理由について研究しようと転換し、2010年度精密物質学科卒業研究発表会にて最優秀賞受賞。軽やかで俊敏、まっすぐで明快なお話から、教員生活の充実が伝わります。和歌山県紀の川市出身。

高校生に伝える、大学で学んだ工学の魅力

瀧 おかえりなさい、宇田さん。日高高校の理科を担当して2年目ですね。高校生は理科に興味を持ってくれますか。

宇田 はい。システム工学部の化学実験や物理実験の授業で習った本格的なこと、教科書の内容から少し発展した研究のことを高校の授業で話すと、やはり生徒は興味津々といった様子で話を聞きますね。今の理科嫌いって、「知らない」からというのも原因の一つだと思うんです。教科書のその先が見えない。システム工学部では教科書で学んだ単元がどのような実験に生まれ変わるのかを学べたので、高校の授業を行う際に活かせています。

瀧 そういう先生、いいですね。理科は授業で習っても、「工学」というものはあまり知られていません。でもスマホを使う、液晶テレビを見る、デジカメを使う。工学の人が作ったものをよく使っているのに……

宇田 理屈はわからない(笑)。とはいえ、どこかに「なぜだろう」という思いはあるので、高校生は少し刺激を受けただけで興味がワッと湧いてきます。昔のように便利な機械が何もない状態の方が「知りたい!」っていう欲も湧くのかもしれない。今はスマホで調べたら教えてくれるのに調べようとしない人も多いと思います。「どうして」とすぐ聞かずに、自分で探究してほしいな(笑)。

瀧 精密物質学科に入ろうと思ったのは、高校生のときから「こんなことをしたい」という目標があったからですか?

宇田 具体的にはわからないまでも、理科、特に化学が好きで、研究したいと思っていました。和歌山大学の精密物質学科では、化学と物理が両方研究できると聞いて惹かれました。

瀧 それは嬉しいです。自分で調べて勉強したい人が和歌山大学に興味を持ってくれるといいですね。また、「高大接続」といって、従来のような1点刻みのペーパーテストでは測れない力を持つ人を大学に迎えるための議論も始まっています。高校と大学が連携して、教わった通りにできるだけでなく、自分で伸びていける若者たちが増えてほしいです。

宇田 それは理想ですよね。理系であっても文系であっても、「知りたい!」という思いは持ってほしい。大勢が進学する時代だからだとは思いますが「大学に行くのは就職するため」というのは、なんだかもったいない気がします。

瀧 大学は本来、「自分で何かをする」という学生自身の力を助けるところではないでしょうか。いつの間にか、大学も手取り足取りになっているかもしれません。テクニックや作法の伝授は必要だと思いますが、それ以外は自分でできるかどうかなんですよね。

大学卒業後の進路を考えることについて

 宇田先生は、山門研究室で勉強されて、教育学部の大学院に行かれたでしょう。システム工学部には、本年度から「理科系教員養成(スーパーサイエンスティーチャー)プログラム」が導入されたところですが、宇田先生は、その前身となる「教育職員免許状取得コース」の第一期生ですよね。教育学部の大学院入学に向けて、他学部の4年生時から教育学部の教職免許取得用授業の履修が始められる制度ですが、卒業研究と並行して、かなりのハードスケジュールだったんじゃないですか?

宇田 システム工学部の4年分と、教育学部の4年+大学院の2年分=10年分の単位を6年間で履修することになるので、たしかにハードでした。でも、この制度がなかったら大学院で3年通う必要があったので助かりました。

瀧 最近は“リケジョ”が人気と言われていますが、システム工学部にはまだ女子学生が少ないんですよ。女性が工学を勉強して働くには、いわゆる手本になる人がまだ多くないのかもしれません。

宇田 そういえば、文系の企業に就職したシステム工学部の人もいました。“就活”を始めるときはまだ社会のことがよくわからないですし、「研究職に就かなければ」と思い込んでしまうこともあるかもしれません。でもやがて、世の中にはいろいろな仕事があるということを知ります。そうして視野を広げて、最初は自分で想像もしていなかった業種に就く同期もいましたが、今では「楽しい」って言って活躍していますよ!

瀧 システム工学部は、世の中について見聞を広げることに遅れをとっているかもしれませんね。宇田先生のように、高校で理科を教えるというのは、“リケジョ”が工学の道を活かす貴重な先例じゃないかと思います。

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宇田 私はただ「知りたい!」という欲が異常に強いんでしょうね。システム工学部から高校教員になったのは私が初めてでしたが、私の興味の中心は「最先端の研究を追う」よりも、「知りたい!」という気持ちと、それを「伝えたい!」という思いでした。

瀧 「知りたい!」という気持ちを伝えること。

宇田 私は教員を目指すにあたって、社会のことを少しでも知ろうと大学3年生の時に企業のインターンシップに参加させいただきました。いろいろ経験し、勉強になりました。理系の企業といっても、事務、企業紹介など、研究職以外の仕事がたくさんあるということを再認識しました。

瀧 私は和歌山大学に来る前はもともと製造業に居たんですが、企業の仕事は研究だけでなく、設計、検査、出荷、修理と多岐にわたります。社会に出る前に視野が狭いのだとしたらそれは、大学が解決していくべき課題の一つですね。

宇田 大学では、専門に固執せず視野を広げていいですよね。

人間の能力とは

宇田 瀧学長のご専門は「人工知能」とお聞きしました。

瀧 「人工知能」は、「人間がなぜこんな風に考えられるのか」を考える学問です。それをコンピュータの上で再現しようとします。

宇田 コンピュータだったら1個1個定義しなきゃいけないんですよね。

瀧 人工知能の考え方は、まず、計算をサボること。だって人間って、すべてのことを考えないでしょう? 現時点までに知っていることだけで決めないといけない。正しい答えが出ない時もありますよね。

宇田 はい(笑)。

瀧 コンピュータはふつう、計算して作られた通りにしか動けないけど、人間はそのときの状態でだいぶん変わります。そんな「人間が考える原理」は実は、いかに計算をサボるかなんですよ。全部の知識で考えたりしない。自分の好きなところだけを寄せて、それだけで考える。だから答えが出る、そのかわりみんな答えが違う。

宇田 そうか、サボらせる…面白いです!

瀧 人工知能の研究には、「人間がやっていることを実現しよう」と、「人間とは違うやり方で人間を超えよう」との2つがあります。近頃盛んなのは「ビッグデータ」ですね。インターネットが登場して以来、世の中には大量のデータがあります。人間はその全体を見ることはできない、それこそサボらないといけないんです。関係ありそうなところを少し見るだけ。でもコンピュータは全部見ることができて、そこから規則を探そうとするんです。コンビニのレジの人が何してるか知ってますか?

宇田 お金の精算…ですか?

瀧 違うんです。何歳くらいの女性が何時に何を買った、と入力してるんです。そうすると、そのデータから、時間帯や年齢・性別ごとの売れ筋商品や、買い物の組み合わせ傾向がわかりますよね。よく一緒に売れる商品は、並べておくとさらに売れる。そういう規則化を探すということも、人工知能(コンピュータ)はやっています。

宇田 すごい! 思っていた人工知能のイメージとぜんぜん違いました! ソフトバンクのPepperとは違うんですね。

瀧 あれも一種の人工知能ですね。ああいうロボットには、中に2つの作りを入れておくんですよ。「手を差し出されたらこんにちはと言う」というような各種基本パターンと、もう一つは、学習機能です。学習機能については、ここからが重要なんですが、個別のパターンをそのまま覚えておくだけでは、ちょっと違うパターンに対応できないんです。たとえば、数学の公式でいうと、三角関数はこの問題に使える、と習います。ちょっと変えると、別の問題にも使える、あっちにも使える、と、だんだん一般化して活用します。これが人間の能力です。

人間が人間である理由

瀧 uda_03s.jpgヒゲを剃らなかった日にホームランを打った野球選手が、次の試合にもヒゲを剃らずに臨んだりしますが、実は関係ないんですよね。物事に関係があるのは本当はずっと狭い範囲なんだけど、人間って一般化してしまいます。でも一般化しないと、学んだことが使えないんですよ。紅茶の飲み方は知っている、でもこの黒い飲み物は初めて見た。似ているからミルクと砂糖を入れて飲んでみよう、なるほどこれがコーヒーの飲み方か。

宇田 それも一般化。

瀧 そう。ではこの緑色の飲み物にもミルクと砂糖を。あれ、日本茶の飲み方は違うのか、と学ぶ。一般化しすぎたからちょっと戻すんですね。こうして適用範囲を学んでいくという人間の行為を、コンピュータもしています。だから教える時には、「これはこういうものに使えますよ」と同時に「これには使えないよ」を教えると、たぶん早く頭の中に入りますよ。

宇田 なるほど。これは高校の授業でもかなり応用できます。やっぱり、応用できなかったら人間じゃないということでしょうか。

瀧 そうそう、応用がきくから人間なんです。でも今の子どもはだんだん応用力が落ちているでしょう? これがAだと学んでも、似たものを指して何かと問うと、わかりません、なんですよね。A’としたらいいのに。

宇田 聞き方が変わったり、設問の順番が逆になっただけでもう手も足も出ないとか?

瀧 ありますね。コンピュータも同じで、量が少ない場合は、まるごと覚えたら楽なんです。でも量が多い時には丸ごと覚えていると、どれを使うかを探すのにすごく時間がかかる。小さい表なら丸暗記できますけど、何ページにも及ぶ表なんか覚えられませんよね。そうなると、その表を形作った式やルールを覚えた方がいいんです。これは、表の一般化ですね。

宇田 すごく役に立ちます!

瀧 さきほど宇田先生がおっしゃっていた、「なぜこうなるのか」という思いがものすごく大事です。教えられた具体的な一例そのものじゃなくてね。

宇田 物理の公式って、「x」とか「a」とか基本的に文字ですから、「具体的に数字でいくよ」って噛み砕いた説明から始めています。

瀧 それいいですね、まず、理解できないとね。

宇田 その上で、ステップアップだよって、数字でわかったことを文字で表したらこうなるね、そうしたら全部に当てはまるね、だから公式なんだよ、と。 

瀧 それが、「一般化していく」という学習ですね。コンピュータで人工知能をやるっていうのは、人間がどのように学習するのかも研究しています。以前は、何から何まで教えないとコンピュータは動かなかった。今は、学習機能を付けておくと、勝手に賢くなるんです。

宇田 怖い(笑)! この前、生徒から聞かれたんですが、映画の『ターミネーター』のような、機械の暴走ってあり得るんですか?

瀧 まだまだずっと先の話ですけどね。「シンギュラリティ=技術的特異点」という単語があって、それは、コンピュータが人間を超えるのがいつかを指すんですが、今のところ、2045年などと言われていますね。

宇田 え…私まだ生きてます(笑)! コンピュータって今、何歳くらいなんですか?

瀧 何歳なんでしょうね。ある能力はもう30歳くらい、ある能力は2歳くらい、かな。人間の何が優れているかというと、喋る能力です。何もないところから言葉を獲得できるでしょ。コンピュータにはまだできていません。人間が文法を教えないと喋れないですね。ただ、理論物理学者のホーキング博士は、人工知能を発達させると人間が支配されるから気を付けてくださいと警告していますね。『ターミネーター』のような世界になるかはわかりません。ならないようにしていこうと、皆さんしているところです。

宇田 今年は『バック・トゥ・ザ・フューチャー2』で主人公がタイムスリップした未来の年でしたよね。あの世界に出てくる機械が、今だいたいありますよね。USJの『ターミネーター』アトラクションでは、ターミネーターを創造した会社が「我々はこんなことをしています、未来に希望を持ちましょう!」というPRをしていて、小学生だった私はワクワクしたんですけれど、今となっては、もう普通に身の回りにあったりして、ほんの数年で変わることが怖いような……。

瀧 そうなんですよ。昔は外国に行っても、手の平の上で地図を見たり、その場で日本に電話をかけたりできなかったですもんね。その後、ポケベルができて、ガラケーができて、今は写真も撮れるしテレビだって見られるという。技術の発達ってすごくって、それはみんな工学がやっているんですよ。

宇田 そうか……。

瀧 子どもたちにとって、化学は、未知のものを既知にするものなんですよね。そして工学は、不可能を可能にします。

宇田 なるほど。ちょうど文理選択の時期なので、生徒にも伝えてみます。理系の面白さや、誇りを持てるということも。

和歌山大学と和歌山をつなぐ

瀧 国立大学が法人化して11年、「大学改革」もどんどん進んでいます。今年4月、国立大学法人運営費交付金の中に3つの重点支援の枠組みが新設されたのをご存知ですか? 「1:地域のニーズに応える人材育成・研究を推進」「2:分野毎の優れた教育研究拠点やネットワークの形成を推進」「3:世界トップ大学と伍して卓越した教育研究を推進」――その中から、和歌山大学は、地域に貢献しなければいけないと「1」を選びました。外から見て、和歌山大学は地域に貢献しているでしょうか。

宇田 具体的なことはわかりませんが、私が大学に求めることでお答えできれば。日高高校は、文部科学省よりスーパーサイエンスハイスクールに指定されています。「未来を担う科学技術系人材の育成のために、先進的な理数系教育を実施する高等学校」として、より高度な研究を求めています。その活動の一環として、大学の先生方に講義をお願いすることがあります。今の私たちにできない、最先端で高度な研究を、高校生が理解できるよう、わかりやすく話していただけたら、と思います。

瀧 なるほど。やっぱりそういうところなのですね、SSHは。大学は自分たちの役割について、意識改革をしなければいけませんね。あとは、大学というものの面白さも知ってもらえたら嬉しいですね。

宇田 大学について高校生が興味を持つには、ぜひ、いま大学生活を楽しんでいる学生の皆さんの姿を見せていただくことだと思います。研究内容の詳細でなくても、大学ってこんなところ、っていうカジュアルなお話でいいんです。「知りたい!」は文理関係ありませんし、人生を楽しんでいる姿を見せて欲しいです。

瀧 なるほど、それはやはり大学の外にいる方からでないと見えない視点ですね。

宇田 はい。和歌山大学は、ほどよい狭さが魅力です。構内が広すぎないからこそ、いろんな学部の友達ができたんじゃないでしょうか。正門から階段を上がり、シンボルゾーンを通ってシステム工学部に到達するまでに、必ず誰かと会うんですよ。久しぶり、最近どう、って立ち話できる。SNSだけじゃなくって、実際に会えるというつながりが良かったですね。和歌山大学だからこそ、これだけ多種多様な分野の友人や先生と知り合えたんだと思います。

瀧 それは素晴らしいですね。

宇田 大学生の皆さんは、是非、「知りたい!」という思いを忘れずに大学生活を有意義に過ごして欲しいと思います。大学は勉学、課外活動に突き進むことができる十分な時間が与えられています。さらに世界に視野を広げる時間もあるかと思います。

 宇田先生は、研究以外には。

宇田 クリエ(※)の宇宙教育研究所とテニスサークルに入っていました。そこで経済学部や観光学部の仲間と知り合えて、卒業してからも会っています。学部が違うと、職種も全く違うので、知らない仕事や社会について、大学後の人生でも視野が広がります。

 後の人生にも関係あるんですね。

宇田 はい。大学で「先生との出会い」「仲間との出会い」によって人生を変える程の大きな影響を私は受けました。大学生活は人生の方針を決めるための猶予期間であると思います。
私の大学での経験を元に、まずは高校生に「漠然とした大学像」から「具体的な大学像」にイメージをシフトできるように伝えていきたいです。高校生に知識を伝達し、正面から向き合い心に寄り添う。そして「未来を作るのは君たち。可能性は無限」と伝え続けていきたいです。

瀧 大学生にも伝えたいですね。

宇田 高速が南へ伸びましたし、和歌山大学生の皆さんもぜひ南へ。紀南でお待ちしています。

瀧 美しい和歌山に、まだまだ秘境もたくさんありそう。私もまたお訪ねします。

(※) クリエ=和歌山大学・学生自主創造科学センターとして2001年に開設。現・協働教育センター。
 


2015年10月
取材:広報室
撮影:森脇可実
[学生広報チームPRism]

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