吹奏楽団定期演奏会、節目の40回目 舞台の裏側に潜入

吹奏楽団定期演奏会、節目の40回目 舞台の裏側に潜入

定期演奏会盛大に開催

 毎年恒例の和歌山大学吹奏楽団による定期演奏会(定演)が15日、和歌山県民文化会館(県文)で行われた。今回で40回目の開催で、初めてOB・OGによる演奏も取り入れられた。団員らによる繊細かつ力強い演奏が、県文大ホールに響き渡った。

 和歌山県教育委員会、和歌山市教育委員会、朝日新聞和歌山総局、和歌山県大学・職場・一般吹奏楽連盟が後援。指揮は観光学部3回生の三浦佳穂さん、教育学部2回生の山﨑琴音さん、吹奏楽団OBの石川二郎さんが務めた。

 

 演奏会は、現役生による1部、OB・OGによる2部、現役生とOB・OGによる3部の構成で行われた。1部ではクラシックを中心に、「マードックからの最後の手紙」「禿山の一夜」などが、2部では「オリンピック・マーチ」「まつり」などが、3部ではポップスを中心に「Mr.インクレディブル」「マイケルジャクソンメドレー」などが演奏された。

 演奏会は、赤ちゃんから年配の方まで大勢の人で賑わった。情景豊かな音色と大迫力の演奏、団員たちの真剣な表情に、訪れた人は時折手拍子を交えながら聞き入っていた。和歌山市から来た21歳の男性は、満足した表情で「一体感ある演奏でとても感動した。最初から最後まで楽しく聴けた。また来たい。」と話した。

 演奏終了後、大ホール入口のロビーでは、団員たちが訪れた人を見送った。そこで団員たちは、ゆかりのある人たちと話に花を咲かせたり、写真撮影を楽しんだりした。

 今回の定演にあたっては、ふだんの練習も指導し、本番では指揮を担当する予定だった同団音楽監督の米山龍介教授(和歌山大学・観光学部)が、本番の約2週間前に体調を崩し、出演が見送られた。これについて同団団長のミニック賢さんは、開演前の挨拶で「米山先生も団員も残念に思っている。先生から学んだことをしっかり演奏したい」と述べた。また、アンコール最後の曲「Spain」は、本来指揮を振るはずだった米山教授を思い、指揮台を空けて演奏した。

吹奏楽団・団長 ミニック賢さん(教育学部3回生)の話

IMG_5217.JPG

 今回は初めてOB・OGの演奏も取り入れたため、練習の進捗度合いなど、連携をとるのが大変だった。そのため何度も確認し合った。

 また、この1年間、50人を超える大きな団体を統率するのが難しかった。団員おのおのに様々な考えがあるなかで、それぞれ信頼関係を築きあげていくことに力を入れた。

 今回の定演のことは三年前からずっと考えていたこと。頭の中の8、9割は吹奏楽団のことだった。本番でそれをすべて出し切ることができた。

 学生指揮の方々のおかげで聴き手の方にも楽しんでいただけた。今回、例年よりも客数が多かったのは宣伝活動がよかったからだと思う。配られたチケットをさらに分析してもっと多くの人に来てもらえるようにしたい。

定期演奏会舞台裏レポ

 <熱気に包まれた15日の定期演奏会。観客を魅了した演奏の裏には何があったのでしょうか。学校での練習、リハーサル、そして当日の舞台袖に潜入し、団員の様子をレポートしました。>

 初めて潜入したのは、定演本番から約1ヶ月前の11月12日、ちょうど日が海に沈んでいく頃だった。みるみるうちに外が暗くなっていくなか、食堂から漏れる光に集まって、団員数名が楽譜に向き合い練習を続けていた。学生会館の正面にまわってみると、シンボルゾーンに立つ街灯の下で1人ホルンを吹く人、銀行ATMの前で座ってチューバを抱える人、多様な練習の仕方を見つけることができた。秋が深まるこの時期、練習は落ちゆく光との戦いでもあるようだ。

DSC_0007.JPG

食堂のオープンテラス付近に集まって練習する団員ら=11月12日17時3分、和歌山大学学生会館、筆者撮影

 次に訪れたのは10日後の22日の全体合奏練習だ。学生会館2階の少し広めの部屋に、団員50余名がぎっしりと並ぶ。扉を開けたとたん、緊張感漂う張り詰めた空気が伝わってきた。やがて音合わせが始まり、コントラバスやチューバの厚みのある音からトランペットやフルートの明るい音まで重層的なハーモニーが空気を振るわせた。学生指揮は指揮台から耳を澄ませ、「音色の広がりを意識して」「そこ苦しそうに聞こえるよ」とアドバイスする。ふだんは笑顔が絶えない彼らの表情は、真剣そのものだった。

 本番直前となった12月12日の練習でも、美しい音色をつくることだけに集中した混ざり気のない空気は続いていた。練習の内容はより本番を意識したものになっており、学生指揮からは、手拍子中の笑顔や立ち上がるタイミングをそろえるように指示が出された。休憩中も個々人で練習が続けられていた。やはり本番直前とだけあっていつもの練習と心持ち違うのかと思い、近くにいたチューバ奏者に尋ねてみると、「ふだん通りで気持ちも余裕があるね。本当はぎりぎりなんだけど」と笑顔で答えたが焦りも見せた。

 本番前日の、当日と同じ会場での練習では、空気がよりいっそう張り詰めていた。立ち位置や照明、音声などの細かな調整が続いたが、演奏へのコメントには力が入った。ホール使用可能時間の21時ぎりぎりまで練習が行われた。

 ところがホールの外に出たとたん雰囲気は一転して明るくなった。当日は演奏終了後の片付けで忙しくなるため、前日に団員同士の交流が盛り上がるという。団員各人が写真撮影に興じていた。

 迎えた本番当日。朝からリハーサルや動きの確認のため各自が慌ただしく動いていた。開演5分前、舞台袖に集まった団員全員が円陣を組み、客席に聞こえないよう小さな声をあげた。「がんばろう!」。そうしてどん帳の裏へ向かっていった。

吹奏楽団への思い 学生指揮の三浦さんにきいた

<優しい笑顔と穏やかな話し方が印象的な、学生指揮の三浦佳穂さん。定期演奏会を前に、本番にかける思いと吹奏楽団への熱意を語ってもらいました。>

DSC_0162.JPG

練習中指揮をする三浦さん=12月12日18時8分、和歌山大学学生会館、筆者撮影

―定期演奏会の位置づけを教えてください。

「和歌山と奏でる」をテーマに、この一年地域の皆さんに音楽を聴いてもらう機会を設けてきました。その集大成です。

―演奏会ではどこに注目してほしいですか。

クラシックもポップスも演奏する大学生らしさに注目してもらって、吹奏楽のよさを知ってほしいです。また、一人一人個性が違う奏者全員で息を合わせる演奏はぜひ聴いていただきたいです。

―ふだんの練習でどんなときが楽しいですか。

年齢の上下関係なく尊敬できる、個性の強い人たちと一緒に演奏できることですね。そういう自分にとって特別な人たちの演奏を一番の特等席で聴けるのもうれしいです。

―指揮って緊張しないですか。

指揮はいつものみんなの顔を見られるので安心します。逆にお客さんがいるほうを向いている奏者のほうが緊張するかも。だから、私はみんなのほうを向いて笑顔でいようって思います。

◇団員愛が伝わったインタビューでした(聴き手)

(このひとに注目)団のことを誰よりも考え、愛する副学生指揮の山﨑琴音さん

DSC_0161.JPG

 「指揮するのは楽しい」。指揮台に立って、団員と目が合ったとき、少し振り方を変えるとその変化に反応してくれたとき、「通じ合っている」と感じる。

 定演本番で指揮をする予定だった先生が急に病に伏し、本番での大役が突然まわってきた。緊張が高まり、自分が間違えると団員みんなが止まってしまうという不安もあった。でも、「やるしかない」と腹をくくった。

 いよいよ、中心となる学年としての1年が始まる。いろいろな思いを抱えた団員を引っ張っていくのは大変だ。それでも、「学生だからできる時間のかけ方を大事に」「メリハリのある団にしたい」と大きな目でまっすぐ前を見据える。

編集後記

 大学に入学して3年がたち、自宅の庭のように我が物顔でキャンパスを闊歩する日々であった。ところがある日、その庭に宝石が落ちているのを見つけたのである。

灯台もと暗しとはこのことかと、そのときは感心した。が、日々その宝石を眺めるうち、しだいに心を奪われていった。

 「吹奏楽団の演奏に感動した」と言えばその通りだが、親しい友人が所属する団体というだけの認識で3年も過ごしてきたことが、もったいなく感じる。今では、その魅力の虜になっている。

 ここ1ヶ月彼らの音楽を身近で聴いていると、私の精神もしだいに澄んでいく気がした。この宝石と出会わせてくれた方々には感謝の念でいっぱいだ。

(観光3回・岩安良祐)