【レポートup!】第39回「発達障害って?特別支援教育って? ~いま注目されている言葉を“いち”から解説します~」
公開日 2012年01月18日
日時: 平成24年1月18日(水)19:00~20:30
話題提供者: 小野 次朗 (教育学部教授)
【レポート】
今回の浪切サロンにはこれまで最多の99名の参加があり、そのなかには学校の先生や保護者の方もたくさんいらっしゃいました。皆さんたいへん熱心に小野先生の話に耳を傾け、また質問をされていました。
まだまだ、発達障害に関する正しい知識が十分に普及しているとはいえません。特別支援教育の理念や方法を知る人は少数だと思います。とはいえ、少しずつ社会や学校教育が変わってきているのも事実です。
優しい語り口で 専門的な助言を丁寧にしてくださった「スーパーONOマン」こと小野先生と和歌山大学で「特別支援教育」を学び巣立っていった卒業生・これから巣立っていく学生への期待が高まります。
【要約】
■発達障害とは
子どもは成長していく過程で様々な側面の発達を示しますが、それぞれの側面で典型的な発達を示さない場合に「発達障害」が疑われます。ただし種類は色々、程度も軽度から重度まで色々ですから、発達障害はみんな違って見えます。かつて発達障害といえば知的障害と肢体不自由(脳性まひ)を指していましたが、近年、学習障害(LD)、注意欠陥多動性障害(ADHD)、広汎性発達障害(PDD)といった障害が注目されるようになってきました。
学習障害をもつ子どもは、話しているとまったく普通の子のように見え、勉強もまあまあできるのですが、本読みがやたら下手であったり、漢字を書くことがとても苦手だったり、九九を覚えられなかったりします。
注意欠陥多動性障害には、多動性・衝動性優勢型と不注意優勢型があります。前者は、じっとしていられない、やたら人にちょっかいをかける、よく怪我をする、といったことが特徴です。後者は、よく持ち物をなくす、何かを最後まで仕上げることが難しい、物事を順序だててできない、といったことが特徴です。この両方の特徴を併せもつ混合型もあります。
広汎性発達障害とは、いわゆる自閉症のことです。癇癪を起こしやすい、自分の思うことを一方的にしゃべる、予定が変わるととても怒る、視線が合いにくい、他の子どもたちと遊ばない、一部のことにはとても興味をもつなどが特徴です。近年、自閉症の中でも、知的な遅れを伴わない事例を、高機能広汎性発達障害(高機能自閉症とアスペルガー症候群をまとめて、このように表すこともあります)と呼ぶこともあります。
■「特殊教育」から「特別支援教育」へ
これまで、多くの教員たちが障害のある子どもは通常学級には在籍しないと思っていましたので、2003年の文部科学省の調査結果は大きな驚きでした。この調査は通常学級の担任教員を対象にしたアンケート調査ですが、「特別な教育的配慮を必要とする子どもたち」が通常学級の子どもたちの約6.3%を占めていました。つまり、発達障害の疑いのある子どもが、40人学級に2人ないし3人は在籍することが明らかになりました。そうなると、先生はその子どもたちを放って授業することはできず、学級のなかに「特別な教育的配慮が必要な子ども」が在籍することを前提に授業を進めなければなりません。
こうして、2007年4月から、「特殊教育」に代わって「特別支援教育」が本格的に始まりました。「特殊教育」の時代には、障害の種類と程度によって教育の場が決まっていて、児童・生徒全体の約1.5%が養護学校や養護学級という教育の場で特殊教育を受けていました。その後、「特別支援教育」になって、先ほどの6.3%と1.5%を足して7.8%の割合で特別な教育的配慮が必要な子どもが在籍することになり、対象がおよそ5倍に広がりましたが、その広がった多くは通常学級にいる子どもなのです。ですから、特別支援教育は決して特別なものではありません。すべての学級で知っておかないといけない非常に大切な教育なのです。
特別支援教育とは、障害の種類や程度には関係なく、一人ひとりの教育的ニーズが何かを大事に考えてそれを支援する教育です。そのなかで最も注目されたのが、通常学級に在籍する発達障害の子どもたちですが、不登校の子や虐待を受けている子どもなどのように、学級のなかで特別な支援を必要とするのは発達障害の子どもだけではありません。
ユニバーサル・デザインということばが一般に使われています。これは障害のある人だけではなく、誰にでも使いやすい、ということを目標にした標語です。これを教育に当てはめると、授業中の板書をできるだけ分かりやすく整理すること、授業の中で大切な内容はあらかじめプリントとして配布すること、指示を出す時に、ことばだけではなく視覚的に提示すること、などがあげられます。これらは、一部の学習障害の子どもにとってはなくてはならない支援ですが、クラスのほかの子どもにとっても、あるととても便利な支援になります。
「特別支援教育」は発達障害の子どもだけを対象にした特別なものではなく、学級に在籍する一人ひとりの子どもの教育的ニーズを理解して支援する教育だと理解していただきたいと思います。
■和歌山大学の「特別支援教育」の現状
現在、和歌山大学教育学部では、1学年約150名が教員免許を取得して卒業します。そのうちの1割の15名くらいが特別支援教育学を専攻して特別支援学校教諭免許を取得して卒業します。さらには、特別支援教育学専攻ではない30人くらいの学生も合わせると、40人ないし50人が特別支援学校教諭免許を取得して卒業します。また、私が担当する授業「特別支援教育医学Ⅰ」では110人の学生が受講しています。すなわち150人の卒業生のうち少なくとも110人が特別支援教育について勉強して卒業していくわけです。ですから、「和歌山大学教育学部卒業の学生は特別支援教育を勉強しています」と宣伝しているところです。これは、とても良いことだと思っています。少しでも多くの教員が発達障害の子どもついて理解して授業を提供していただければ、これほどありがたいことはありません。
■社会の理解と支援
教員だけでなく一般の方にも発達障害とは何か、特別支援とは何か、といったことをわかっていただきたいです。それはなぜかというと、発達障害のある子どもたちも学校生活を終えて、いつかは社会に戻る日が来ます。「障害とは、関係性に配慮した、支援を必要とする個性(特性)」とも言えますから、子どもたちが社会に戻ったときに、社会の理解がなければ、かれらは非常に苦しい生活を余儀なくされることになります。そこで、地域社会の人たちが発達障害のことを理解して、子どもたちを受け入れてくれることができれば、かれらにとって社会は非常に生活しやすいものになることが期待されるのです。そうすれば、彼らの持つ能力をフルに発揮することが期待できます。