
和歌山大学観光学部長
尾久土 正己
和歌山大学観光学部は2007年に経済学部の観光学科として産声を上げたが、その年の訪日外国人の数は835万人であった。この数は、昨年2018年は3,119万人と11年の間に約4倍に増えている。訪日と国内を合わせた旅行消費額は25兆円を超えており、波及効果まで考えると、すでに日本の基幹産業の自動車産業と肩を並べる存在になっている。多くの国立大学は工学部を設置し、自動車産業をはじめとする製造業を支える多くの人材を輩出している。一方で、観光学部は本学部が国立大学唯一の学部である。先の数字を考えれば、本学部に対する期待(特に観光人材養成)がいかに大きなものであるか容易に理解できるだろう。
人類の旅に対する好奇心は留まることを知らず、これまでは夢物語と考えられていた宇宙旅行がいよいよ始まろうとしている。一方で、観光の急激な成長は、オーバーツーリズムなどの課題をかかえる観光地だけでなく、地球規模で環境に大きな負荷をかけるまでになろうとしている。観光産業はその誕生のときから輸送や映像などのテクノロジーに支えられてきたが、今後はSociety 5.0を支える先端技術によって、ドラえもんの「どこでもドア」のような観光の概念をも変えてしまうような旅が登場するに違いない。これら近未来の観光を考えると、ビッグデータやAI、そしてバーチャル・リアリティなどの理工系の教育研究も、他学部や全学組織と連携することで積極的に進めていくべきであろう。
幸い、本学部は観光経営、地域再生、観光文化の3コースを設置し、様々な学術領域から観光学を研究する教員を集め、配置している。また、アジアの観光学研究の拠点として設置された全学組織の国際観光学研究センターを介して、世界の最先端の観光学の教育研究に出会える機会を用意しており、日本では初めてとなる観光教育の国際認証であるTedQualの認証も受けている。さらに、学生たちも地方国立大学として珍しく、オンリーワンの観光学を学びたいと優秀な学生が全国各地から集まっている。このような私たちに対して、本学部が位置する「和歌山」の地域は、豊かな自然と歴史とともに教育研究の絶好のフィールドを提供してくれている。
日本政府はオリンピック・パラリンピックが開催される2020年に訪日外国人の数を4,000万人に、さらに2030年には6,000万人という高い目標を掲げている。また、世界全体を見るとすでに観光産業はGDPや雇用の10%を占めており、今後も高い成長が期待されている。このような中、観光は地域を変え、世界を変え、そして観光自身を変えていくだろう。当然、その変化に合わせて、学部や大学院などの組織やカリキュラムも改革していかねばならない。ただ、その変化は地域や世界にとって必ずしも良いものだけにならないだろう。そこで、私たちは本学部の教育研究の中から輩出した人材の活躍や研究成果の応用を通じて、その変化をより良いものにする一助になればと願っている。