「僕は旅行しないね。」
観光学部女子学生の問い掛けに、システム工学部の教授は飄々と答えた。とても信じられないという表情の彼女は心底旅行が大好きなのだろう。
「仕事で全国に行くことはあるけど、それだけ。行こうと思ってその地に行くことはまずない。」としゃべり続ける教授と愕然とした彼女の表情。なんだか見ていると面白い。
そう思う僕もあまり旅行をしない。金がかかるし、時間もかかる。そもそも、行かなくとも、想像で旅行することができてしまうのだ。先日もイタリアのローマに旅行した。

和歌山大学前駅から電車で30分。関西空港から飛行機で13時間。飛行機では隣の外国人の幅が広く窮屈だった。そのせいか、肩がすごく凝った。しかし、いざ、イタリア地に降り立ってみると、降り注ぐ太陽、地中海の潮の香りと穏やかな風で疲れは瞬時に吹き飛んだ。日本と比べて湿度が高く、冬でも過ごしやすい。これは最高の旅になるぞ。そう確信した。
最初に向かったのは円形闘技場のコロッセオ。ここで剣士や猛獣がしのぎを削っていたのかと思うと、鳥肌が立った。所々「壊されたような」壁を見て、戦争の悲惨さも体感した。その夜、本場イタリアのパスタを食べる予定だったが、寿司屋を発見する。イタリアのお寿司に興味をそそられ、ついつい入店してしまった。だが、メニューの写真を見てみると、全てカリフォルニアロール。

「カリフォルニアロールは寿司じゃねえ。」

と、ある程度想像で旅行ができてしまう。
今のご時世スマホさえあれば、Google Earthで現地を見ることが出来る。現地の品物を通販で買うことができる。行かなくても現地を味わうことが出来る。しかし、その一方で、インスタ映え、パワースポットなどの現地に行かないと得られない価値のようなものも存在する。そういったコンテンツが観光業を活性化していることも事実だ。
何でも部屋の中で手に入れることが出来る世界になりつつある、その中でどこまで現地の付加価値を高めることが出来るか。観光学部は大変そうである。

 

「あなたとはわかりあえない。」
彼女は去って行った。

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