WADAI NOW 〈旬〉な取組

電動車いすで ふたたび世界4位入賞

システム工学部 機械電子制御メジャー 中嶋 秀朗 教授

サイバスロンは、障がい者が、ロボティクス技術などを活用した支援機械を身につけて競い合う国際競技大会。義手、義足など6種目に出場する技術者と障がい者は、開発の段階から協力してレースに挑む。2016年の第1回大会から参戦してきた中嶋教授の現在地とは。

hyo.jpg

研究者が国際競技大会に出場する理由

「私は科学者で、イベンターではない」集まった電動車いす研究者を前に、サイバスロン創始者でスイス連邦工科大学チューリッヒ校教授のロバート・リーナー博士が解説を始めた。
第2回大会を翌年に控えた五月晴れの日、川崎市で「サイバスロン車いすシリーズ日本2019」が開かれた。競技会は一般観客に公開されマスコミの注目も集めたが、研究者たちにとっては、翌日のシンポジウムが重要な意味を持っていた。出場マシンはどのような技術で大会に挑むのか。パイロットとの協働で見えてきた課題は何か。障がい者の日常生活での困難を克服するという同じ目標に向かって、それぞれが独自の支援技術を向上させようと議論が広がる。競技会で社会の興味を喚起し、テクノロジーに触れてもらうことは手段で、目標は、社会のための技術向上だという。出場チームの代表者たちに混じって、中嶋秀朗教授率いる和歌山大学RT-Moversからは博士後期課程1年の前田孝次朗が発表を行った。前回、スイスの大会参加時より堂々と見えた。

1■IMG_0625.jpg

研究を進めるための挑戦

学生時代に脚車輪型ロボットの研究に取り組んだ中嶋教授は、大学院修了後に勤めたJR東日本で車いす乗降の不便さに触れ、新たな支援ロボットの開発を目指して研究の道へ戻った。RT-Moverのプロトタイプに着手したのは13年前。千葉工業大学で中、小型機を3機開発し、搭乗型の3号機まで進んだ研究を、2015年から和歌山大学で継続した。開催を聞きつけたサイバスロン大会へは、入学したばかりの学部1年生も含め研究室で対面したばかりの学生たちと出場を決めた。日本からの出場は3チーム4種目、RT-Moversは電動車いす部門で見事4位に輝き、オリジナルな車輪型機体の安定性で異彩を放った。
地方国立大学の研究予算は、2004年の法人化を境に年々減少している。機体の改良やパイロットとの協働のために環境を整えなければ技術向上は成し得ない。そこで、大会本部と共に日本でのサイバスロン普及に尽力を始めた。スイス大使館を筆頭に国内の企業や他大学に働きかけ、第2回大会の前哨戦を誘致。慶應義塾大学、大阪電気通信大学、千葉工業大学、東京大学&トヨタ自動車の4チームと共に、香港、ロシア、スイスのチームと競った。最下位だった。大会ルールに加わった階段の延長と、ドア開閉のためのロボットアームの開発が先送りになっていた。結果を覚悟していた中嶋教授の脇で、学生たちがうなだれた。

コロナ禍のサイバスロン2020

学生たちの目の色が変わった。100回に1回でも不具合を出してはならない厳しさを理解し、研究開発に熱がこもった。12月にパイロットの守田昌功さんが合流。大学初のクラウドファンディングも始まり、学外関係者や地元企業、地域住民が新たな支援者としてRT-Mversの挑戦に参画してくれた。3月には中嶋教授が在外研究のため一足早くスイスへ。あとはチームと機体が合流するだけ、というタイミングで大会の延期が発表された。そこから11月の大会オンライン開催までは紆余曲折のコロナ禍だった。
しかし、そのコロナがチームの成長を後押しする。指導教員と分断された学生たちは、登学もままならない状況下で機体の改良とパイロット練習を重ねた。チームの現状と、二転三転する大会の行方は、週1回のオンライン会議で確認し合った。本番競技はスイスの大会本部へ中継で送らねばならない。コースの設営から中継機材のセッティングまで、中嶋研究室総出で担った。学部からの協力者も増えた。結果は再びの世界4位。前回の4位とは意味が違った。さらに逞しくなった前田、小杉、澤田ら学生メンバーの成長の記録は、中嶋教授の大会レポートとともに、支援者への報告書に詳しく収められた。

4■2020報告書h1s.jpg

研究を"あなた"に届ける日まで

中嶋教授は、大会出場を学術貢献として社会に返すことも意識していた。第1回大会後は日英両語の学術論文や国際会議で自ら発表したが、第2回大会を受けての研究成果のいくつかには、研究室の学生たちも名を連ねた。いつか、流通する支援技術として実社会にも返したい。次の大会には企業も一緒に......。
ひとりの研究者の個人的な研究が、それを待っている社会の誰かに届くまでには時間がかかる。その研究者の向こうには、大勢の同志や支援者が連なっている。中嶋教授個人の研究として始まった取組は、チームRT-Moversとして、また先へと駒を進める。

VIEW LIST

Archive アーカイブ