WHO'S WHO 研究者紹介

安全性・技能向上ツールへの応用も視野に、脳活動を把握・分析する「脳工学」に取り組む

脳の秘密に迫る、三浦浩一講師の静かな情熱

クロスカル教育機構 データ・インテリジェンス教育研究部門 講師

三浦 浩一 MIURA Hirokazu

VRシステムの改善につながる「距離感」に関する実験を展開

 近年普及してきたバーチャルリアリティ(VR)は、コンピュータグラフィックス(CG)によって作られた3次元の仮想空間を人間の視覚や聴覚を通じて現実のように知覚させようとする技術。これにより、人に提示される映像や音声などの人工的な情報が、現実と見間違えるほどリアルに表現できるようになりつつある。しかしながら、同じ映像や音声でも人によって捉え方は異なる。たとえば、同じ位置に配置した物体の映像を提示しても、その対象物までの距離感は人によって異なる。「人による認識の違いや違和感を脳活動から捉えることができれば、より現実感のあるVRシステムを実現できるでしょう」と三浦講師は期待する。

 三浦研究室では、距離感に関する実験を行っている(図1参照)。この実験には、頭に近赤外線を当て反射してくる光から脳血流の変化を読み取る脳血流計(NIRS)とVRデバイスを使用する。まず被験者に、脳血流計とVRデバイスを装着させる。次に、3m、5m、10mと離れた場所に壁がある3種の画像を参照画像としてVRデバイスで提示し、距離感を掴ませる。そして、8m、5m、7mなど、さまざまな距離に壁がある画像を提示し、どれだけ離れているかを被験者に繰り返し回答させることで、脳の動きを活発化させ、その際の脳血流を計測した。

miura1.jpg

 計測で得られた脳血流のデータについて、高度な数理理論に基づいたSVM(サポートベクターマシン)という機械学習モデルにより分析し、その結果から、「距離を認識する際の脳の動きと、脳血流の変化が関連している可能性を見出せたのは大きな成果。この実験データをVRシステムの精度向上に生かしたい」と三浦講師は語る。

認知状態を把握、分析し、技能の伝承にも応用

 熟練者自身の経験の蓄積によって築き上げた高度な技能を伝承することは、一般的には非常に困難だ。このような技能は人の認知状態が大きく関与していると考えられる。たとえば、かんなを使用する場合、木の状態をどのように認識し、どれだけ力を入れて削るかは熟練者と初心者で大きく異なるに違いない。「技能の伝承を支援するには、脳活動から人の認知状態を把握し分析することが重要」と三浦講師は語る。三浦研究室では写真1のように、力を調整する技能に関する実験を行った。

miura2.jpg

 この実験では、被験者が画面上のVR空間で擬似物体を触った際に、実物体を直接触った際と同等の感触が得られる力覚デバイスと、脳から生じる電気活動を頭皮上の電極で記録する脳波計を用いる。被験者には、脳波計を装着した上で、VR空間にある擬似球体を動かすために力覚デバイスを操作してもらった。VR空間の擬似物体を球体から立方体に変更し、それぞれに擬似的に触れた際の力の入れ具合いの違いが脳波にどのような影響を与えるかを分析した。
「技能の習得状況を脳活動により把握できるようになれば、熟練者と初心者との認知状態の違いを比較し、的確にアドバイスすることも可能です」と三浦講師は語る。

人の認知状態を客観的に把握し、多様な社会ニーズに対応する

 三浦講師は、研究で脳活動を計測する目的を次のように語る。「人の知的活動における認知状態を客観的に把握することが脳活動を計測する狙いです。脳活動は、人が考え、行動する上でどのような難しさを感じているか、またどのような違和感を感じているか、などを知る手がかりになります」

 脳活動の計測で得た手がかりはどのように生かせるのだろうか。三浦講師は「たとえば、建築やインフラの保守点検にかかわる際、高所で安全に作業を行うには、距離感を正確につかむことが不可欠。しかし、高所での訓練は危険が伴う。そういった時には、図1の実験結果を応用した訓練ツールが役に立つと思います。また、技能を効率的に習得するには熟練者を模倣することが一番の近道。写真1の実験結果を応用した技能学習支援システムがあれば、初心者でも熟練者並のパフォーマンスを発揮できるかもしれません」と語る。

 一方で「脳活動の計測結果はその時の心理状態などに影響を受けやすいため、精度にバラツキがあります」との指摘を忘れない。三浦講師は「今後は実用性を考慮し、精度の高い分析・分類を目指していきます。脳工学研究は適用範囲が広いため、実装への可能性もそれだけ大きいです」と意気込む。研究で得られた成果が社会で多用される日もそう遠くないかもしれない。

< 前の記事

次の記事 >

VIEW LIST

Profile プロフィール

三浦 浩一 MIURA Hirokazu

和歌山大学着任 2003年
学歴 大阪大学 工学研究科 通信工学専攻〜大阪大学 工学部 通信工学科〜大阪府立大学
学位 博士(工学)
所属学協会 電子情報通信学会、IEEE
研究キーワード 通信ネットワーク/コンテンツ指向ネットワーク/脳活動分析

「脳工学で、世の中をもっと便利に、安全に」

幼少の頃は工作が好きで、身近な材料でおもちゃを作ることも日常茶飯事。いつしか将来は「モノ作り」に携わると心に決めていました。大学では情報通信工学を専攻。入学後はソフトウェアハウスでゲーム制作のアルバイトを始めましたが、プログラミングに熱中し、その道に進むターニングポイントになりました。現在は、“世の中の流れを変えるようなモノを作りたい”をモットーに日々、研究に取り組んでいます。脳工学にご興味がある方、共同研究・開発に関心のある方はぜひお声がけいただければと思います。