WHO'S WHO 研究者紹介

めざすは紀伊半島の電網化、宇宙直結の地産地消IoTで災害に強い国土に

未知なる宇宙と地上をつなぐ、秋山演亮教授の奮闘

秋山演亮教授は、地域が中心となり、IoT(Internet of Things)技術を活用して進める防災を支援している。国や大企業に依存しない地産地消のIoTとは?そして、紀伊半島全体をネットワークで網羅する構想とは? 秋山教授に話を聞いた。

クロスカル教育機構 教養・協働教育部門 教授

秋山 演亮 AKIYAMA Hiroaki

省電力かつ低コストで通信するLoRaWANを活用

 東日本大震災では、発生当初に通信網が壊滅したことが救助活動の遅れにつながり、死者増大の要因にもなったとされている<図1参照>。「このような検証結果から通信の重要性を実感したことが、災害に強い通信システムの導入・推進を提案する現在の活動につながっています」と秋山教授は語る。

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 地震だけでなく、近年では河川の氾濫災害も繰り返し起きている。秋山教授は「和歌山県の山間部は水害リスクの高いエリアの一つ。氾濫の危険をできる限り早く察知するために水位計の増設が急務です。現状、そういった地域の水位を観測するためには有線の通信ケーブルまたは衛星携帯電話によるデータ転送が用いられています」としたうえで、「通信ケーブルを敷くには多大な人力が必要で、流水や落石により切断が頻発します。また、衛星携帯電話は消費電力が大きく、通信費用も高額」と問題点を指摘する。
 秋山教授は、「この課題に対応するための一つの策とし、省電力かつ低コストで人工衛星と通信するLoRa(Low Power Wide Area)WAN(広域通信網)規格<写真1>の活用が効果的です。構造もシンプルで、高校生でも制作できるほどです。データ転送量は少ないですが、水位などの情報を送信するには十分」と秋山教授は自らの提案に太鼓判を押す。

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 秋山教授の取り組みは、「地産地消のIoT防災」をコンセプトに掲げる。「地域に関わりのない大手キャリアの通信システムを利用しても、地域にメリットは少ないでしょう。また、国や県などに頼る防災はコストがかかり、非効率です。昨今の発展したIoT技術を活用し、『自分たちの身を自分たちで守る』という防災意識が大切です」と秋山教授は強調する。

LoRaWANを地域防災で運用中、鹿の罠の監視にも役立つ

 秋山教授は、和歌山市の西山東地区の方々と協力し、LoRaWANを実際に運用している。和田川沿いに7つの水位計を設置し、水位を常時計測中だ。「水位計の位置は自治体の方々と相談して決めました。氾濫する可能性の高い場所は、古くから地域に住む方々が一番ご存じですから。西山東地区の方々はLoRaWANの運用に協力的なので助かります」と秋山教授は感謝する。

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 LoRaWANは防災だけでなく、多様な用途が考えられる。その一つが鹿の罠の監視であり、京都府の笠置町で実際に活用されている。「罠と連動する引抜スイッチが作動した時にLoRaWANが信号を発信することで、遠隔地でも罠の状態を把握できます。これにより、山中に設置された何十もの罠を一つ一つ確認する手間をはぶけます」と秋山教授は導入メリットを説明する。続けて、「長期間設置しているとネズミなどがコードを齧って困ると、導入した企業の方から相談を受けたことがあります。その時は、齧歯類が苦手とする忌避剤入りのシールを勧めて喜ばれました」と振り返る。

地方をネットワークで覆うことで
災害に強い国土の実現をめざす

 LoRaWANをはじめとした、人工衛星を使用する通信技術を駆使し、秋山教授はどのような構想を抱いているのか。それは、紀伊半島全体にネットワークを張り巡らせ、必要なデータを容易に収集できる未来だ。「紀伊半島は山間部が多く、通信が困難なエリアもありますが、宇宙にある人工衛星とつながることで安定した通信が可能になります。このネットワークを生かして水害やがけ崩れなどの情報を蓄積し、災害が起きやすい場所に護岸工事や補強土壁などの防災対策を施せば、災害に強い『国土強靭化』を実現できるはずです。紀伊半島のように、効率的な防災対策が求められる地域は世界中にあるため、ここで培ったノウハウは世界で役立つでしょう」と秋山教授は胸を張る。

 そして、紀伊半島にある国立大学、和歌山大学の価値にまで話は及ぶ。「IoTや宇宙などの分野に将来性が見込まれるからといって、それらに地方国立大学がリソースを集中的に投下するのは推奨できません。地方国立大学は、幅広い分野の教員や研究施設を配置し、さまざまな地域課題解決や人材育成などのニーズに応えられる『地域の総合的シンクタンク』であるべきだと思います」と秋山教授は地方国立大学のあり方を提言した。



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Profile プロフィール

秋山 演亮 AKIYAMA Hiroaki

和歌山大学着任 2004年
学歴 京都大学 農学部林産工学科〜東京大学 理学部地球惑星科学専攻 博士課程後期
学位 博士(理学)
所属学協会 日本惑星学会、砂防学会
研究キーワード 固体惑星/宇宙政策/工学教育

「これからの大学に求められるのは問題解決を前提とした「実践」です」

学部時代は林産工学を専攻し、民間企業に入社した後に憧れだった宇宙の研究を始めたので、変わり種と言えるかもしれません。長年の夢を叶えられたのは、自分の心に従って、好きな研究に一心不乱に取り組んだからでしょう。大学という場所は「考える」ためにあるのですが、大学で研究しながらも、その研究成果を社会に実装することは十分可能だと思っています。これからの大学には、地域の問題を解決する「実践」が求められるでしょう。普段から「この研究は社会でどう生かせるだろうか」と考えられるアーキテクト人材を育成できるように努めています。