WHO'S WHO 研究者紹介

じっくり耳を傾ける地域調査でひとり親などに寄り添い、小さな声を代弁

福祉の充実のために、金川めぐみ教授が果たす使命

経済学部 経済学科 教授

金川 めぐみ KANAGAWA Megumi

貧困率は深刻な社会問題。見過ごされている「ひとり親家庭」

 ひとり親家庭の貧困率を調査すると、日本は50.8%と極端に高く、OECD諸国でワーストワン(表1参照)。その理由を、就労・福祉法制度に詳しい金川教授は「福祉政策の失敗」と端的に説明する。「たとえば、子育てヘルパーを派遣するなど、ひとり親家庭を支援する『母子及び父子並びに寡婦福祉法』がありますが、自治体に遵守する義務がないため、住んでいる地域によっては支援を受けられないこともあります」と金川教授は嘆く。

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 また、日本では養育費の取りたてが諸外国と比べて難しい。金川教授は「スウェーデンなどでは養育費の取りたてに行政機関が介入しますが、日本では養育費の取りたては相談支援にとどまっており、行政による強制力が働きません(表2参照)」と行政が積極的に介入できない現行制度も問題点に挙げる。

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 金川教授は、自治体でひとり親家庭を支援する地域計画の立案に関わり、そのための地域調査も自身で行う。地域調査は一つの自治体で4・5年ごとに行い、聞き取り対象者は10~20人ほどになる。「調査では、1人につき1~2時間ほどかけてじっくり話を聞きます。ひとり親の方は、深刻な悩みや困り事を打ち明ける相
手が周囲にいないことが多く、調査後はスッキリした表情で帰っていく方もいます。調査で聞いた話は、自らの考えを加えて"解釈"するのではなく、ありのままを分析するよう心がけています」と金川教授は調査のポイントを話した。

「時には、書記として学生を連れて行くことがあります。学生にとっては実態を直接聞くことで勉強になりますし、ひとり親の方もリラックスでき、有意義な時間となります」と金川教授は語る。


地域調査で得た気づきを情報発信や地域計画に生かす

 地域調査で得た情報をどのように生かしているのか。「ひとり親家庭を支援する制度があっても、その情報を本人が知らないケースが多いことに調査で気づきました。この事実を自治体の職員の方に伝え、支援制度を紹介するチラシがひとり親の方の手元にしっかりと届く機会が増えたのはうれしいことです」と金川教授も喜ぶ。

 そして、地域全体として取り組みを進める地域計画の立案にも生かす。金川教授は「地域計画は、どの地域にも当てはまる紋切り型にならないよう、地域調査などで得た情報から地域の強み、弱みを把握した上で、それぞれの地域の実情に応じた改善策等を立案します」と自らの信条を語る。

「たとえば都市部では、保証人の確保や低収入の問題でひとり親の方は住まいを見つけるのが難しく、彼ら、彼女らを支援する地域計画においては住宅の確保が優先される傾向があります。しかし、ある地域は古くから住宅問題に取り組んできた歴史があるため、公営団地などが充実しています。このような地域では、雇用など他の問題にフォーカスした地域計画の立案を行います」と金川教授は具体例を挙げる。


経験豊富な研究者だからこそ貢献できる領域

 計画は立てるだけでなく、その結果を検証し、次に生かしてこそ意味がある。「中には、地域計画を検証するノウハウが乏しい自治体もあります。そういった自治体には、他の自治体の詳しい人物を紹介したり、検証するための書類フォーマットを提供したり、ノウハウを教示するのも研究者の務めだと考えます。多くの自
治体に関わった経験がある私だからこそ、自治体同士をつなげることも可能です」と金川教授は胸を張る。

 地域計画や地域調査に金川教授が積極的に関わるのは、弱者とされる人たち(金川教授曰く「社会から小さくされてしまった人たち」)の役に立ちたいという強い思いがあるから。「ひとり親やホームレスの方たちは、自己責任論や世間の偏見に影響され、自らの権利を主張することは稀です。また、子どもや障がい者、高齢者の方は、社会を動かす大人たちから存在を軽視されがちです。そういった人たちの『代弁者』になることが私の使命です。彼ら、彼女らの小さな声を丁寧に拾い上げ、福祉の充実につなげていきたい」と、金川教授は厳しい現実を直視しながら、今日も前を向く。

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Profile プロフィール

金川 めぐみ KANAGAWA Megumi

学歴 早稲田大学 社会科学部〜早稲田大学 大学院社会科学研究科修士課程〜早稲田大学 大学院社会科学研究科博士後期課程〜龍谷大学 大学院法学研究科博士後期課程
学位 博士(法学)、修士(学術)
研究キーワード 社会保障/ひとり親/ ケアの倫理/社会福祉/法
書籍等出版物 ひとり親家庭はなぜ困窮するのか : 戦後福祉法制から権利保障実現を考える(法律文化社)ほか多数

「地味な研究を積み重ねることで、最終的に大きい「富士山」は完成します」

幼い頃から読書が好きで、高校時代から福祉分野に対する興味を強く感じていました。大学卒業が近づいた頃、弱者の「声なき声」を拾い上げられる仕事として、恩師が研究職を勧めてくださり、この道に進むことを決めました。私のモットーは「富士山は、すそ野があるから美しい」です。研究者の世界は天才肌で、世間の注目を集める人ばかりだと思われがちですが、実際はそうではありません。一見地味な研究が積み重なることで、最終的には大きい研究成果が生まれるのです。私は、地味な研究にも全力で取り組みたいと考えています。