WHO'S WHO 研究者紹介

視たい、知りたい、残したい… 光の可能性を引き出し、思いを実現

産業界にヒントを与え続ける、最田裕介講師の発想力

光は、非常に高速で多くの情報を伝達するのが得意だ。最田裕介講師は、この特長を生かし、対象の持つさまざまな情報を視る、測る、記録する、再構成する応用研究に取り組んでいる。それらの中から代表的な1つの研究テーマについて話を聞いた。

システム工学部 応用理工学領域 講師

最田 裕介 SAITA Yusuke

前例に縛られない試みで「分光イメージング」の画質改善に成功

 物理学では、光とは"波"であると考える。光は波長という物理情報を持ち、波長が異なると色も異なるが、わずかな色の違いを認識できることは少ない。また、物体からの反射光、または透明な物体を透過する光は、それらの物体の含有成分によって特有の波長を持つ。このような波長の違いの分布を可視化することで、対象の含有成分とその部位の特定を可能にするのが「分光イメージング」技術である。「一般的なカメラでは、一度の撮影で縦と横の2次元の光の明るさの情報しか得られません。しかし、『分光イメージング』を行うには、2次元だけでなく波長の情報も取得する必要があるため、複数回の走査(スキャン)が必要であり、時間がかかってしまいます」と最田講師はこの技術の奥深さを説明する。

 また、足りない情報を推定して補う「圧縮センシング」という技術により、一度の撮影で「分光イメージング」を実現する方法もあるが、得る情報の少なさから特に像の端で画質が低いという課題があった。そこで最田講師は、1cm当たり数千本以上の割合で直線の溝を等間隔に刻んだ光学素子である「回折格子」に着目した。最田講師は「回折格子を通過した時、波長によって分散する光を利用する例はこれまでにもありました。しかし、私たちは前例に縛られず、より多くの情報を得るために回折格子をそのまま通過する光も活用しようと考え、写真1のような光学システムを作製し、実験を行いました。その結果、取得できる対象の情報量が増え、写真2のように画質を改善することに成功しました」と説明する。

saita1.jpg
saita2.jpg

ドローンや生産ラインなど多様なシーンで活用が見込まれる

 この実験で使用した光学システムの回折格子や光源などの位置は、簡単に決まったわけではない。最田講師は「実験を行うには、波長分散した光とそのまま通過した光の両方を小さな撮像素子の上に集めなければなりません。ある程度はコンピュータで位置調整ができますが、それでも繊細な手作業が求められます」と難しさを語る。「実験には学生の協力が欠かせません。研究室の学生は自らの研究も進めながら積極的に協力してくれるので助かります」と最田講師は感謝する。

 高画質の「分光イメージング」を1回の撮影で実現できることを研究室で実証したが、社会ではどのような応用が見込まれるのか。「この技術を搭載したカメラは撮影の大幅なスピードアップを図れるため、移動しながら広いエリアを撮影する空撮用ドローンや、次々と製品が通過する工場の生産ラインでの活用が期待できます」と最田講師は予測する。「ドローンから地表を撮影し、『この区画はリン酸が多く含まれているから根菜類』といった、栽培する作物を決めるための土壌調査に役立つかもしれません。また、生産ラインに設置し、見た目ではわからない不良品のチェックに生かすことも考えられます」と最田講師は未来を見据える。

saita3.jpg

アイデアを形にして社会に還元するには産学連携が不可欠

  最田講師は、光に関するさまざまな研究を行っており、眼鏡や医療機器のメーカーと連携して共同研究を行った経験がある。眼鏡メーカーとは、眼球の収差を測定する技術で連携した。収差とは、レンズ(この場合、眼球内の水晶体)によって物体の像を作り出す位置が理想的な位置と外れた場合、理想と実際の位置の偏差のことを指す。「近視や乱視を患う人の眼球には収差があります。これを瞬時に測定し、眼鏡のレンズに反映できれば、自分にぴったりな眼鏡がすぐにできるかもしれません」と最田講師は期待する。

 一方で、常に社会ニーズを意識して研究しているわけではない。「自らの興味や関心(研究シーズ)を優先して研究テーマを設定することもあります。そのような研究成果を社会に還元するには、製品やサービスに生かしていただける企業や団体との連携が欠かせません。何かしら連携できる企業や団体があれば、積極的に共同研究や受託研究を行っていきたいです。少しでも興味を持っていただけたなら、お互いの持っているものを出し合ってディスカッションをしましょう」と最田講師は産業界にメッセージを送った。

< 前の記事

次の記事 >

VIEW LIST

Profile プロフィール

最田 裕介 SAITA Yusuke

和歌山大学着任 2013年
学歴 和歌山大学 システム工学部 光メカトロニクス学科〜和歌山大学 大学院システム工学研究科 システム工学専攻 博士前期課程〜神戸大学 大学院システム情報学研究科 システム科学専攻 博士課程後期課程
学位 博士(工学)
所属学協会 日本光学会、OPTICA (formerly OSA)
研究キーワード 光応用計測/情報フォトニクス/光記録
受賞 第1回OPJ優秀講演賞、IWH2017 Best Paper Award、他

「国内外の研究者と連携し、先進的な研究やプロジェクトに挑戦したい」

小学生の頃から自動車に興味があり、大学では機械について学ぼうと本学のシステム工学部に入学しました。しかし、幅広く学ぶうちに光の持つ可能性に惹かれ、光学に関する研究室を選んだことが今につながっています。現在は、研究活動や学生の指導を行う傍ら、常にアンテナを張り、研究の世界的な動向を把握するよう努めています。今後は国内だけでなく、海外の研究者や教員の方々と国や地域を超えて連携を図りつつ、世界的に役立つ研究やプロジェクトを手掛けていきたいと考えています。