WHO'S WHO 研究者紹介

有益な情報提供や関係者との連携を通じて 外国につながる子どもを支援

多文化共生社会の実現への長友文子教授の思い

国際イニシアティブ基幹 日本学教育研究センター 教授

長友 文子 NAGATOMO Ayako

外国につながる子どもたちが、住みやすい社会をつくるために

 長友教授は早くから、インドシナ難民をはじめ、日本を訪れた外国人への支援を東京などで行っていた。「当初と比べても、外国につながる子どもの支援は大きく進んでいるとは言えません。県内でも在留外国人が増えていることを受け、2020年に「外国につながる子どもへの支援プロジェクト」を立ち上げまし
た」と長友教授は語る。

 同年には『こどものための やさしい日本語 防災ハンブック』を制作した。この冊子では、災害時の対応や日頃の備えについて、小学3年生が理解できる『やさしい日本語』で解説している。「たとえば "高台に避難せよ" といった日常生活であまり使用しない単語や表現は、"高いところに逃げてください" とわかりやすく言い換えています」と長友教授は具体例を示した。

制作にあたっては、海外からの留学生と日本人学生たちが協力。「アイデアを出し合ううちに、生活様式や考え方まで話が及び、互いの国の文化を学ぶ貴重な機会になったようです」と長友教授はうれしそうに語る。また留学生の指摘で、ひらがなから日本語を学ぶ外国人にとっては漢字と同様にカタカナも難しいと分かったため、両方に読み仮名がふられている。「災害が身近でない地域をルーツに持つ子どもたちにも、この冊子で防災を学んでほしい」と長友教授は期待する。

 さらにハンドブック第2弾として『日本の小学校の一日』を手がけた。外国につながる子どもやその家族が日本の学校の習慣を入学前にわかるように、海外との比較も入れながら、学校の一日を紹介した。

和歌山から全国へ発信、国や他大学の協力も得たシンポジウム

 プロジェクト発足3年目となる2022年11月には、シンポジウム「地域の力を生かそう~外国につながる子どもへの支援~」を開催した。会場、オンラインを合わせると100人以上が参加。文部科学省からの報告や、専門学校やNPO法人からの事例報告もあり、多くの意見やアイデアが活発に飛び交った。

 長友教授はシンポジウムの企画から実施まで中心的な役割を果たし、さらには自身も登壇し、プロジェクトの報告を行った。「和歌山県は、外国人が少数の『外国人散在地域』に該当する一方で、日本語学習で困っている子どもは少なくありません。そういった子どもを支援する団体や個人もいましたが、以前は横のつながりを持つ機会が少ない状況にありました。シンポジウム開催を通じて多くの同志と出会えたことは大きな成果です」と長友教授は胸を張る。

さらに「支援のさらなる充実は私一人だけでは絶対にできないこと。シンポジウムの開催をきっかけに和歌山が外国人にとってより住みやすい地域になれば」と長友教授が描く将来像を語った。

多文化共生社会の実現に向けて、新たな価値を創造していく

 長友教授は、「外国につながる子どもへの支援プロジェクト」の推進をはじめ、市や県の教育委員会とも連携しながらさまざまな活動を行っている。そのすべては、多文化共生社会の実現という目標につながる。

 長友教授が留学生や難民への日本語支援を始めた当初は、日本で暮らす外国人が増え始めた時期でもあった。「ビザが切れたため病院に行けない、仕事を失って収入を得る手段がないといったケースもたくさんありました」と長友教授は当時を振り返る。研究者となった今では、「外国人の日本語習得をサポートする
中で、日本人も彼らを正しく理解し、意思疎通を図ることが、多様な人々が共に生きる豊かな社会への第一歩になるはず」と確信している。冊子の制作・配布やシンポジウムの開催も、多文化共生社会の実現への想いが込められている。今後も、シンポジウムなどでつながった同じ志を持つ仲間と共に、新たな価値を作り上
げる取り組みを実践していく。

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Profile プロフィール

長友 文子 NAGATOMO Ayako

和歌山大学着任 1994年
学位 教育学修士
研究キーワード 日本語学/日本語教育

「人との出会いを大切に、多くの外国人を支援していきたい」

大学卒業後、外国生活に憧れ、オーストラリアへ留学しました。そこではさまざまな国の留学生が、訛りのある英語で積極的に交流をしていたことに大きな刺激を受けました。また世界中の人とつながる楽しさを実感できたことも貴重な経験でした。帰国後、ミャンマーからの留学生やインドシナ難民への支援に携わったことで、日本語教育の重要性を感じ、この道を選ぶに至りました。日本語教育の研究は「人」があってこそ。私自身、人が大好きで、人とお話しするのを大事にしています。今後も多くの縁を大事にし、和歌山で多文化共生社会の実現をめざします。