WHO'S WHO 研究者紹介

ディジタル時代の光と影への対応 ~センサネットワークと情報セキュリティ~

情報社会に貢献し続ける、内尾文隆教授の揺るぎない意志

内尾 文隆 UCHIO Fumitaka

農業や省エネ推進に応用が期待できるセンサネットワークを研究

 内尾教授は、センサネットワークの応用をテーマとして研究を続けてきた。「この技術は、農業や省エネなどさまざまな分野での応用ができ、高品質な農産物の栽培やエネルギー消費の削減効果が期待できます」と内尾教授は語る。
 「和歌山県といえばみかんの栽培が有名です。農家の方の話によると、水分や栄養が十分にあるより少し不足しているほうが甘く、おいしく育つそうです。ただ、不足しすぎても枯れてしまうため、それらを調整するためにセンサネットワークが役立ちます」と内尾教授は主張する。

 内尾教授は、みかんの圃場(畑)にセンサネットワークを構築し、実験を行った(図1参照)。約800平方メートルの実験圃場に、10の土壌水分計と2つの土中温度計、さらに雨量計、風速計も設置。それらのデータを参考に灌水用配管から放出される水量を調整することで、圃場の状態や天候に適した水を与えることが可能となった。「土壌水分計などセンサ等は有線と無線を併用し収集。得られたデータを拠点に送信するためにVPN技術を利用しました。このような有線と無線のハイブリッド構造を採用することで、安定した通信を担保しつつ使用する電力の効率化にもつながりました」と内尾教授は胸を張る。

 また、省エネ分野での応用も模索。オフィスにネットワーク機能を有したLED照明を設置し、ユーザーの位置と希望する明るさに合わせて、複数の照明の明るさをコントロールすることで、ユーザーの満足度向上と省エネルギーの両立を実現した。

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情報倫理・セキュリティに関する基本的かつ実践的な知識を修得

 このような研究のほか、内尾教授は「これまで和歌山大学の学術情報センター副センター長として、学内のセキュリティ強化や学生の情報リテラシーや情報倫理の向上にも取り組んできました」と、これまでの実績を振り返る。
 一方で学外では、ディジタル化の流れの中で特に中高年者がトラブルに巻き込まれる事案が多発している。この状況を憂いた内尾教授は「社会人、特に40・50歳の方々が情報セキュリティを学び直す場が必要であると強く思い、リカレントコース内に「情報セキュリティ入門講座」の開講に向けて尽力しました」と講座開設への強い思いを語った。

 講座では情報セキュリティの基本を学ぶことからはじまり、見落としがちなセキュリティホール(欠陥)や一般的には知られていないクラッカー(悪質な行為を行う人々)の手口などの実例も紹介する。さらに自身が加害者にならないための情報倫理や関連法規に関する講義も行う。「情報セキュリティ・情報倫理に関する基礎的かつ実践的な知識を体系的に学んでいただけるような内容となっています」と内尾教授は意義を強調する。

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学び直しの場を設け、社会の役に立つのが使命

 内尾教授は「大学の本来の使命は、学術をもって社会に貢献することです」と強調した上で、「本学では比較的早期からインターネットを導入し、来る情報化社会に向けて環境整備や学生への教育にもいち早く取り組んできた自負があります」と続ける。そして、「セキュリティ対策・教育の知見を生かすことで、多くの個人や企業をサイバー犯罪やインシデントから守ることができると確信し、今回情報セキュリティ入門講座の開講を決定しました」と、改めて講座開設の重要性を語る。

 「情報セキュリティ・情報倫理を学び直す・考え直す場を提供することで、社会の一線で活躍されている方がディジタルツールを駆使して安全に仕事をし、日常的に安心してインターネットを利用していただけるようになれば、大きな価値を社会にご提供できるはず」と内尾教授は考える。「本講座はインターネットを使うすべての方々に受講していただきたい内容となっています。今後はネットワーク管理者や情報セキュリティのプロフェッショナル人材の育成も視野に入れていきたい」と内尾教授は決意を語った。

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Profile プロフィール

内尾 文隆 UCHIO Fumitaka

学位 博士(工学)
研究キーワード IoT/センサネットワーク/QoS/情報セキュリティ

「学内のディジタル化で培った知見を広く社会に役立てたい」

幼少期に交流のあった工学部の学生や電器店を営む父の影響で、電気通信分野に興味を持ちました。その後、関心の幅は広がり、情報技術の道を選びました。1990年に本学に着任して以来、学内のディジタル化に率先して関わってきました。「人の役に立つこと」「人を幸せにすること」。これが私の研究者としてのモットーです。これまで本学で培った情報セキュリティの知見を、情報セキュリティ入門講座を通じて地域の方々にお伝えすることで、社会のお役に立てると考えております。