WHO'S WHO 研究者紹介

「まちなか」でピクニックやキャンプ。画期的なアイデアでエリアマネジメントを推進

まちづくりを牽引する、永瀬節治准教授の閃き

観光学部 観光学科 准教授

永瀬 節治 NAGASE Setsuji

まちの新たな可能性を切り拓く、公民学連携による社会実験

 永瀬研究室は、和歌山市駅前の商店街・自治会と協力し、公共空間に賑わいと憩いを生み出すまちづくりの社会実験「市駅 "グリーングリーン"プロジェクト」に取り組んでいる。2015~2017年には、駅前通りを緑の広場に変える社会実験を実施した。ピクニックエリアとして通りの一部に天然芝を敷き、キッチンカーやオープンカフェを設置した。普段、自動車が行き交う道路に天然芝を敷く試みは全国的にも珍しく、バス会社や警察など関係各所との調整に苦労したと言う。また、和歌山城の旧外堀の魅力を知ってもらうため、市堀川でのクルージングも実施した。

 初回の来場者数は約6,000人。「予想以上の反響がありました。公共空間を憩いの場として再生することに地域の方々も大きな手応えを感じ、その後のまちづくり推進への原動力になりました」と永瀬准教授は語る。

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 市駅周辺での社会実験は以降も継続的に実施。そのコンセプトを受け継ぎ、2018年からは紀の川の魅力を発信する「シエキノカワでピクニック」を実施している。市駅から徒歩7分の場所にある河川敷に、畳ベンチやハンモックなどの寛ぎスペースやBBQエリアなどを設置し、カヌー体験や夕暮れの手持ち花火、2022年にはキャンプも実施。「まちなか」とは思えない開放的な空間で非日常の時間を思い思いに楽しむ人々の姿が見られた。永瀬准教授は「南海電車で鉄橋を往復する中で、車窓に広がる身近な紀の川の魅力に気づき、なんとか活用できないかと地域の方々や学生たちと考えたのがこの社会実験です」と振り返る。

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市駅でのパネル展から始まった、まちづくりのアクション

 「市駅 "グリーングリーン" プロジェクト」を手がけるきっかけとなったのは、南海電鉄の協力のもと、2014年に市駅で開催したパネル展だ。その前年に、同社から利用者の低迷する市駅の活性化策について本学の観光学部に相談があり、教員有志による提案の検討が行われた。その場に参画した永瀬准教授は、さらに市
駅と周辺のまちの歴史についてゼミの学生たちと調査を行った。その結果を市民に発信することで、市駅の存在価値を見つめ直してもらおうと考え、2014年3月に「市駅開業111年」と銘打ったパネル展を開催した。予想以上の反響があり、8月には閉店前の髙島屋と連携し第2弾を開催。あわせて市駅周辺のまちづくりのアイデアをまとめたパネルと市街地模型を展示した。

 そこへ偶然訪れた市駅地区商店街連盟会長より「地域のために一緒に話し合いができないか」と声がけがあった。さらに自治会にも参加を呼びかけ、地域の主体と共同で「市駅まちづくり実行会議」を結成。ワークショップを通じてまちづくりの検討を行う中で、駅前通りでの社会実験の企画が生まれ、行政や多くの関係者の支援も受けて実現した。2018年には市駅周辺のエリアマネジメント推進組織として、一般社団法人市駅グリーングリーンプロジェクトを設立。翌年には和歌山市から都市再生推進法人の指定を受け、活動を発展させている。

地域の人々と共にまちの可能性を引き出す、エリアマネジメントの実践

 衰退を続けてきた市駅周辺エリアの再生には学生たちのフレッシュな感性と行動力が欠かせない。永瀬准教授は「私の研究室には活発な学生が多く、忙しいゼミということを知った上で入ってくるので、定期的なゼミの時間以外にも積極的に活動に参加してくれます。社会実験の準備段階から、企画のアイデア出しだけでなく、関係者との協議や参加者の問い合わせに対応してくれたり、細かな作業を引き受けてくれるなど、心強い存在です」と学生に信頼を置く。

 エリアマネジメントで、永瀬准教授が大切にしていることは何か?「自治体や企業の役割も重要ですが、より大切なのは、地域で暮らす人々が受け身ではく主体となり、まちをよくするために行動することです。そのような思いから、市駅周辺の地域の方々と私の研究室で協力し、さまざまなアクションを実践しています。今後も、地域の特性を生かした新しい価値の創造に向けて、熱意と行動力のある地域の方々とまちづくりの可能性を共有し、新たな挑戦を楽しみながら、活動をステップアップしていきたいと思います」。

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Profile プロフィール

永瀬 節治 NAGASE Setsuji

和歌山大学着任 2012年
学歴 東北大学 工学部 建築学科〜東北大学 大学院工学研究科 都市・建築学専攻〜東京大学 大学院工学系研究科 都市工学専攻
学位 博士(工学)
研究キーワード 歴史的環境保全/生活と観光/公共空間/都市デザイン

「地域に深く関わりながら、固有の実践プロセスを探求します」

父が転勤族だったことから、3つの小学校、2つの中学校に通いました。転校を重ねる中で、地域に根ざした暮らしや人々に憧れを持ったことが私の原点です。大学では建築学を主に学びましたが、もともと建築物が集まったまちのあり方に関心があり、大学院では都市工学を専攻。地域の人々が主体となって推進するまちづくりを研究テーマにしました。“流行に流されない研究”を心がけ、20年、30年後に振り返ったときに意味があったと思える取り組みを続けていきたいと考えます。