ほぼリアルを実現する 究極のVRができたとき
それでも人は観光をするだろうか――
1968年12月24日、1枚の写真が20世紀を変えたように
月に地球が昇る――アポロ8号の写真を見たとき、人類が想像したこともない視座の大転換が起きた。その美しい球体には、国境などなかった。「足元の地球を全球(GLOBE)として捉えるためには、うんと離れなくては。人間の一生なんて、宇宙の歴史から見たらほんの一瞬。400kmしか離れていない宇宙ステーションひまわりなんて地面スレスレ。長い時間感覚と広い視野を獲得すれば、物の見方は変わります」
そもそも星に惹かれたのは、不思議な苗字のルーツを遡って歴史に興味を持ったから。小中高と、目の前にないもの=歴史や天文に夢中だった。大学では星の化学組成を調べて"織姫は貧血気味"なんて卒論を書き、大学院では赤外線領域からさらに掘り下げた。研究を通じて得た"尖った深い専門性"は、フィールドが変わっても役に立つ。その生き証人がここにいる。
「プラネタリウムみたいな空がある」時代のツーリズムのために
民間人の宇宙旅行が実現しようとしている一方で、各地の星空観光も盛り上がりを見せている。ゼミでは、環境省主催の「星空の街・あおぞらの街」という取組で与論島のサポートに入り、人材養成の真っ最中。旅館で働く人やガイド向けに天文の講習会を開くほか、夜空を照らしてしまう防犯灯を改造するなど、資源や人があるところに専門性を足して観光地にする活動を学生たちと一緒に推進している。
360度の全天周映像を体感できるデジタルドームシアターも、8K時代の到来を受けて一気に展開しはじめた。世界各地の天体ショーに加え、音楽イベントやスポーツなど、仮想体験の臨場感・没入感はさらに増す。移動と非日常性で成り立ってきた観光は、これから変わる。それを見据えて "宇宙人"の情熱は今、後進の教育に向かっている。「世界一のアストロ・ツーリズム研究者を作りたい」
2020年2月13日
Profile プロフィール

尾久土 正己 OKYUDO Masami
和歌山大学着任 | 2003年 |
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学位 | 博士(学術) |
研究キーワード | 観光学、天文観光、VR観光 |
受賞 | 2009年、文部科学大臣表彰(科学技術分野)、2010年、文部科学大臣・宇宙担当大臣より感謝状(2010年6月のはやぶさ地球帰還インターネット中継をはじめとする様々なサポートに対して) |
1961年岡山県生まれ、大阪育ち。83年に大阪教育大学教育学部特別理科を卒業。教員採用試験に落ちたため“消極的”に母校の修士課程に進む。直後に私立高校から声がかかり、中退して高校教員になったものの、中途半端になった研究を続けるために教員を休職して復学。90年より兵庫県立西はりま天文台公園の研究員、95年より和歌山県美里町立みさと天文台天文台長を務め、02年には佐賀大学大学院工学系研究科で博士号(学術)を取得。03年に和歌山大学に着任し、クリエ(自主創造科学センター/当時)の教授~センター長として数々の「ワイルドな人間」を世に送り出した。08年の設立に伴い観光学部へ。19年より現職。現在はドームシアター映像の研究実績を買われ、2020年東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会のアドバイザーを務めている。