国立大学初のチュニジア人学部長が描くみんなの幸せのための 未来予想図
経済・経営・金融・情報・産業・エネルギー・観光・交通などさまざまな経済社会システムの特性を学際的なアプローチで研究してきた和歌山大学経済学部に、地中海生まれの学部長が誕生した。
イスラム金融――利子のない、リスクシェアリングの世界
専門はFinance(金融)。まずは金融市場、株式市場、価格変動性などに関する研究を行い、1990年代にはオプション理論・リスク分析に関する研究を集中的に行いました。2008年に大阪大学MMDS(数理・データ科学)研究グループで生み出した日本初の「投資家の恐怖指数(VXJ:Volatility Index Japan)」は、日本の株式市場における将来のボラティリティに対する指標として、今も更新・公開されています。こうして従来型金融という学問分野で実績を残した後に、その研究がもたらした、世界経済・金融システムの不安定性を回避する代替的な手段としてのイスラム金融・経済学を世に提示する必要性を感じました。
イスラム経済システムでは、利子の扱いが禁じられています。そのため銀行は、リスクシェアの形=パートナーシップの形で事業者と共に利益を追求し、損失も分かち合うのです。ゼロ金利金融政策下の日本においては、パートナーシップ型に基づく銀行ビジネスモデルを学ぶ必要性があります。
経済活動はみんなの幸せのためにある
現代は、大事件やインフレなどで金融の仕組みが大きく変化しています。そして現状の経済システムは、内部的な不安定性のためサステイナブルではありません。金融危機や不景気のため、格差の問題も悪化している。いま、適切な経済社会政策を考える必要があります。自分ひとりのためでなく、みんなのためを考える意識を持つべきです。経済活動は、そもそも我々みんなの幸せのためにある――それが、私の研究と教育への原動力です。
Morality(道徳)なき経済システムは生き残りません。また、Ethics(倫理)を教えずして経済学の教育は成り立ちません。全体に対して役に立つもの、ユニバーサルなメッセージを求めて、研究・教育を続けていきます。
マグレビ先生に聞く!
■マグレブは、「日が沈む場所=西方」を意味するアラビア語。
アラブ世界の西に位置する北アフリカ諸国の総称です。「マグレビ」は「マグレブの人」という名前で、父方の先祖はチュニジアのさらに西、モロッコから来たと聞いています。
■チュニジア共和国は、アフリカや中東の中心でありながら、ヨーロッパ文化の方を色濃く感じる場所です(地中海を挟んで飛行機で1時間!)。
先住のベルベル人、カルタゴを建設しローマ帝国から恐れられたフェニキア人、約1400年前にイスラム教とアラビア語を導入したアラブ人の3民族は、3000年の歴史を経て今では見分けがつきません。
アラビア語、フランス語、英語の3ヶ国語が通じます。
気候は日本と同じで暮らしやすいよ。
2020年2月12日
Profile プロフィール
マグレビ ナビル Nabil EL MAGHREBI
和歌山大学着任 | 1996年 |
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学歴 | 大阪大学 経済学研究科 ファイナンス |
学位 | 博士(経済学) |
研究キーワード | 国際金融市場、ファイナンス実証研究、オプション市場 |
書籍等出版物 | 『Handbook of Analytical Studies in Islamic Finance and Economics』(共著/De Gruyer Publishing House、2020年)ほか |
1963年生まれ。首都チュニスの公立大学I.H.E.C. (カルタゴ)を卒業後、日本政府国費留学生として88年に日本へ。
半年間の日本語学習の後、和歌山大学で修士課程を、大阪大学で博士課程を修了。96年より和歌山大学経済学部の教壇に。2019年より現職。
近年は、数少ないイスラム金融の研究者として活躍中で、ヨーロッパの金融専門家たちと共同編集中の新著がまもなく発刊予定。
学ばせてくれた日本への恩返しの気持ちで教壇に立ち始めたが、いつの間にか日本での生活の方が長くなっている。ふだんのランチは学食のうどん。好物は寿司。