「あの人に元気になって欲しい――」
その思いやりが、みんなの健康寿命を延ばします
運動と医療――社会と密着した研究生活の始まり
大学卒業後に入職した病院は、大学とは比較にならない数の実例がある場所だった。「高齢な方の高血圧症を薬と運動で治療できないか」と大勢のデータを取らせてもらう日々を通して、来るべき「超高齢社会」に向けた研究には、地元と結びついていることが何より必要と肌で知った。そして28歳、循環器医院で働きながら、さらなる研究を目指し母校にできたばかりの大学院へ。やがて軸足を大学へと完全に移し、研究者・教員として歩き出した。
要介護認定率が全国1位の和歌山へ
34歳で未知の土地・和歌山へ。その頃は心臓疾患や肺がんのリスクが全国上位で、要介護人口比率も全国一だった。知り合いもいない環境で研究が進むか不安だったが、ほどなく住友金属の健康センターにいた元和歌山県立医大の先生をはじめ地元の医療機関や行政が協力してくれるように。やがて「高齢者が運動マシンを使いに遠くまで行くのでなく、どこでもできるプログラムを完成する」という試みに、厚生労働省から研究費が出ることになった。
方針は、「徹底的に山奥へ」
和歌山県と連動し、2004年から「わかやまシニアエクササイズ」=<ワダイビクス>を展開する。北山村、古座川町など山奥を巡って330か所の拠点を作り、1万人以上が参加。5年以上の追跡調査は、経済学部の松田忠之先生(統計学)や和医大の板倉徹先生(脳神経外科)と一緒に取り組んだ。実証できたのは、仲間と一緒にやる、音楽に合わせてやる運動が効果的ということだった。
研究も、運動も、自主的に共同体(みんな)で!
要介護認定率が下がるということは、健康寿命が延びること。その始まりはまず「自分が健康になる」ことであり、次に、大切なあの人にも元気になって欲しいと願うこと。地域が自主的にコミュニティを作り、支え合い、それが広がる――いちばん大事なのは「思いやり」だと気付かせてくれた<ワダイビクス>は、著書や講演などを通じて他府県にも広がり、全国で3万人に実践されている。
2020年2月13日
Profile プロフィール

本山 貢 MOTOYAMA Mitsugi
和歌山大学着任 | 1996年 |
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学歴 | 福岡大学 体育学研究科 運動健康学 |
学位 | 博士(体育学) |
所属学協会 | 日本学校保健学会、日本運動生理学会、日本体力医学会、近畿学校保健学会、日本体育学会 |
研究キーワード | 体育学、健康科学、運動医学 |
書籍等出版物 | 『ゆっくり動けば体が若返る! ワダイビクスCDブック』(マキノ出版刊、2016年)ほか |
1962年、岡山県生まれ。福岡大学体育学部卒業~同大学院修了後、福岡大学体育学部助手、同大学医学部研究生、九州大学非常勤講師などを経て、96年4月に和歌山大学教育学部に講師として赴任。97年に助教授となり、98年に「高齢者の高血圧症および高脂血症の運動療法に関する研究」で博士(体育学)を取得。02年より教授として「介護予防に役立つトレーニング」に関する研究と地域貢献に力をそそぎ、19年より現職。奥様は助産師で、助手時代に始まった4人の子育てには「いつも院生が協力してくれた」と笑顔で感謝する。