WHO'S WHO 研究者紹介

回路 circuit

配線がつながって 電流が循環をはじめると
冷たいサーキットを 光が駆ける

鉄冷えの厳しい室蘭の街で。 配線への尽きせぬ想いと、 カーレースへの強い衝動。 2つの回路を行き来してきた、 工学部系研究者のソリッドな生態。

産学連携イノベーションセンター(副センター長)

似内 映之 NITANAI Eiji

「屈折」「吸収」「散乱」「分散」――光を測って物を見る 光物性評価装置で地域の産業イノベーションを。

とにかくそれが好きだから(ただし趣味と仕事は分けてます)。

無性に電気に魅せられた。ハンダゴテを覚えた小学生の頃、電気とは、ゴミ捨て場のテレビや自分で組み立てたラジオだった。中学では『FMレコパル』を片手に洋楽を聴いた。マイケル・シェンカー、AC/DC、クラフトワーク......だけど初期のYMOに惹かれたのは、音楽よりあの配線のせいだったかもしれない。そういえば今も、流れる電気のパワーや信号よりも配線が好きだ。

車好きはたぶん、ガソリンスタンド勤務だった父の影響から。苫小牧高専の電気科に落ちた時、合格した機械科は蹴った。趣味を仕事にしないと決めていた。命にかかわる部分以外は自分で修理が掟。北海道の峠で"タイヤを削った"青春が懐かしい。

手のひらを太陽に――赤く透けて見えるのはなぜ?

むさくるしい工学部では『私をスキーに連れてって』が心の支え。2年間は大型タイヤの店でバイトし、3年から応用物性学科の技術補佐員として、卒研のための装置づくりや実験の手伝いを始めた。氷、半導体、磁性、多様な研究者たちと話すうちに研究者の道を志すように。それなら博士号を取れとアドバイスしてくれた先生のもと、光の研究室の1期生になり、光の回線の材料の研究に取り組み始めた。

光物性とは、光に対する物の性質。レンズを通って屈折する光や、板に当たって吸収される光を測ることで、物の性質を知ることができる。この手法をうまく使った新しい装置の開発を、と民間企業の研究者を目指すも、時は不景気の下り坂。数ある家電メーカーや光学メーカーの中で唯一面接してくれた小田原の企業にも振られてしまった。

表に立って旗を振るより、後方支援の方が向いていた。

1997年1213日、バスから見えた南国の樹に驚いた面接の日からもう23年。研究室にはラジコンカーがずいぶん増えた。そして産学連携の部署に主軸が移ってからは、新たな抱負も芽生えた。一研究者としてもセンターとしても、和歌山の産業に貢献したい。研究室では今、梅干しの中の虫を光で検出する装置の開発に取り組んでいる。

もう一つ大切にしているのは、学生が楽しそうにやっているかどうか。自発的に何かが生まれるきっかけが大事だ。合言葉は「ものづくりの基礎はハンダゴテ」。近頃はコンピュータが配線を計算してくれるが「自力で回路図が描けると違う」と卒業生も言う。製品開発において、プロトタイプが作れることは強みだ。

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Profile プロフィール

似内 映之 NITANAI Eiji

和歌山大学着任 1998年
学位 博士(工学)
所属学協会 米国光学会、日本光学会、応用物理学会
研究キーワード 光計測、光工学、材料光学、光物性

1968年札幌市生まれ。1987年に室蘭工業大学工学部第二部・電気工学科に入学。同大の博士前期課程(電気電子工学専攻)、後期課程(生産情報システム工学専攻)を修了後、和歌山大学システム工学部へ。2013年に産学連携・研究支援センター(現・産学連携イノベーションセンター)専任准教授となり、2017年から副センター長。車歴は、高校時代の原付[リード]、学生時代の[CITY Turbo]のHonda期を経て、現在の日産[プリメーラ]が25年来の相棒(走行距離28万キロ!車雑誌に載ったことも)。近年は動体視力の低下に伴い、"年に1回はサーキットを"と共に走ったオーナーズクラブの仲間たちとはラジコンカー・レースを楽しんでいる。