WHO'S WHO 研究者紹介

糖鎖、その甘くない誘惑

SIALO-SUGAR CHAIN

和歌山の“残り福”からプロテオグリカン!?

Uターン研究者は今日も笑顔。 世にも珍しい安心・安全な糖鎖で 人類の幸福(美と健康)を追求中。

山口 真範 YAMAGUCHI Masanori

▼核酸、タンパク質に次ぐ第三の生命鎖「糖鎖」の研究 ▼抗ウイルス、抗ガンや美容に展開中

自然に鍛えられた発想力を味方に

紀ノ川筋に生まれ、ファミコンの登場に間に合わなかった少年は、自然の中でむさぼるように遊んだ。大きなカブトムシはどこにいる?という探究心が今の研究の原点だという。小6の時に利根川進博士がノーベル賞を受賞する。「研究で人類の役に立てれば」という大きな種が自分の中に宿った。

大学生の頃から一貫して糖鎖の合成と応用を研究してきた。糖鎖は、核酸、タンパク質に次ぐ第三の生命鎖と呼ばれ、生体内で細胞間の情報伝達を担うほか、ホルモンや酵素たんぱく質を受容するなどコミュニケーターとして機能する「鎖」である。免疫機構、細胞増殖、ガンやウイルス感染など様々な生命の営みを司る。いま研究開発中の糖鎖の一つであるプロテオグリカンには、2005年に着任した弘前大学で出会った。

サバイバル研究生活が生んだ 安い!早い!面白い!実験

博士課程まで9年を糖鎖合成のメッカである岐阜で過ごしたのち、理化学研究所および京都大学のポスドクを経て、弘前大学医学部で助教となった。遠藤正彦先生が始めたプロテオグリカン研究が発展期で、高垣啓一先生のもと仲間たちと共に糖鎖の合成と医療応用にまい進する。縁あって生まれ故郷の和歌山大へ。

着任先は教育学部だった。今まで当たり前のように使っていた実験機器は一切なかった。そこからサバイバルが始まる。何もない研究室で糖鎖を合成するには?ホコリにまみれた実験室を掃除しながら静かに1年考えた。やるからにはできるだけ簡便に、手軽に、そして、完成したものが役に立たないと! 新たな発想で開発した革新的糖鎖合成技術は、通常は6か月かかる合成を3日で実現、合成設備不要の家庭の台所でもできる手軽さで新規シアロ糖鎖などを次々と生んだ。ガン抗原、インフルエンザウイルス捕捉のほか、免疫賦活効果、皮膚炎改善、保湿などの医療応用に向けて、複数企業との共同研究が進行している。

プロテオグリカンと共に、和歌山県の地域振興を

2013年、文部科学省の地域イノベーション戦略支援プログラムに採択され、研究機器が揃う。プロテオグリカン研究は2009年から現在まで継続して実施している。ヒアルロン酸より効能が高い優れモノだが、従来の調製技術では当初1グラム2000万円、現在でも120万円もする高額品。そこで新たな調製法の開発に挑んだ。材料は、梅干しの廃液である梅酢と魚軟骨の2つだけ。刻んだ魚軟骨を梅酢に漬けるとプロテオグリカンが溶出してくることを見出し、大幅コストダウン製造に成功。和歌山ならではの「産業廃棄物」を再利用した安心安全な化粧水の試作品は、大学職員間で次々にリピーターを呼んでいる。

教育学部で本格的な研究に取り組み、専門性を深めた研究に触れた学生たちが、地域の教員になることには大いなる意味がある。大学の研究はすぐに役に立ちにくいと言われるが、産業や地元に役立つ方法はあるはずだ。医学部など様々な教育研究機関で学んだ背景を活かして研究を続けながら、興味を持って訪れてくれる方に和歌山の魅力を発信している。

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Profile プロフィール

山口 真範 YAMAGUCHI Masanori

和歌山大学着任 2008年
学位 博士(農学) 岐阜大学
経歴 理化学研究所、京都大学、弘前大学医学部
研究キーワード シアロ糖鎖、糖鎖合成、グリコサミノグリカン、プロテオグリカン
特許 抗ウイルス用繊維又は繊維製品、プロテオグリカン製造方法、抗ウイルス剤ほか

1975年かつらぎ町生まれ。和歌山の魅力は、争いを好まず、個人個人の力が充足しているところと語る。「斬新なアイデアを出すには、幼い頃の実体験が大切」と、自身の子供たちも自然の中で思う存分遊ばせた。様々な研究機関で研鑽をつんだ。研究は深夜に及ぶことが日常茶飯事、不夜城で青春の大半を過ごした。しかし弘前では、夜が近づくと研究室に「早く帰れ!雪にうもれて死ぬぞ!」の声が響く豪雪地帯、唯一の関西人であった私への東北人の気遣いが今となっては心に沁みる。雪との闘いであった。それぞれの場所での出会いや経験があっていまに繋がる。