WHO'S WHO 研究者紹介

未来世紀 レトロ・タイムス

人間の代替だからといって 人間の形でなくていい

ロボット研究を通じて、人間のしなやかさにシビれる。 柔らかでシャープなタイムトラベラーが組み立てる未来は――?

土橋 宏規 DOBASHI Hiroki

▼カレル・チャペックが“ロボット”を創造してからまだ100年 ▼ロボットの気持ちに寄り添う 未来志向の懐古主義者

今はもうないものと、今はまだないものへのロマン

父から与えられた懐かしのアニメで育った。新幹線待ちの本屋でふと手に取った『鉄人28号』から昭和30年代の風景に憧れて以来、歴史を遡る癖が加速した。一方で、少年時代から工作に熱中し、塾では数学の難解クイズにど(・)ハマリ。机でじっと考え、新しいものを構想するのが好きだった。ロボットハンドを研究する今でも、ロボットの歴史と新発想の機体開発の両方に向けて興味は尽きない。日本では、ロボットといえばヒト型で友達になれるものというイメージがあるが、JISによる定義は「二つ以上の軸についてプログラミングによって動作し、ある程度の自律性をもち、環境内で動作して所期の作業を実行する運動機構」。ずっと自由でクリエイティブだ。

ロボットの発展は、産業ロボットの発展と共に

本格的にロボットが産業界で働くようになったのは1960年代からで、大学での研究が始まったのも同年代と新しい。進んだ研究室では、"ハードウェア(機構)とソフトウェア(制御)の両輪が必要"という文化に鍛えられた。どれだけ高度な命令を出しても、ロボット本体に充分な身体能力がないと応えられないからだ。幸い、大学では研究室に配属されてすぐ三菱電機と複数の研究室が関わる大きな共同研究に参加する機会を得たこともあり、理論と実践を通じて、ロボットの気持ちになって考える習慣が身に付いたと思う。

ロボットはある一つの作業は速く正確に行えるようになったが、人間なら容易にこなせる「山積みのネジから1つを持ち上げて正しい向きで穴に締める」一連の作業などには未だに別のロボットの手助けを必要とする。1台で完結できたら経済的、省エネ、省スペースだ。産業界のために、機構と制御の両面から研究開発の課題はまだまだある。2019年度日本機械学会奨励賞を受賞した組立作業用汎用ロボットハンドは成果のひとつ。他機や視角センサの補助なしに部品を整列~把持する画期的な技術となった。

新発想のマニピュレーションを

恩師の横小路泰義先生の呼びかけで、ロボティクス技術の向上を目指すロボットの世界大会「ワールド・ロボット・サミット(WRS)」に数年前から関わっている。初開催の2018年大会には16チームが臨んだが、クリアできない難題ばかり。追加で出され未達成に終わった「チェーンの組み付け」課題を研究室に持ち帰った。チェーンはクニャリと形が安定せず、かといってゴムのようには変形しない、扱いが難しい部品。熱心な学生と取り組んだ末、汎用的な成果が出たのが嬉しかった。

新たに発表された企業との共同研究では、食品をつかむロボットの研究に取り組む。これまでも多くの研究がなされているが、硬い工業製品と違って、まだまだ実用化に向けては課題がある分野だ。今回も新機軸を見つけられるか。研究室の学生と一緒にワクワクする挑戦は続く。

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Profile プロフィール

土橋 宏規 DOBASHI Hiroki

和歌山大学着任 2017年
学歴 京都大学工学部~同大大学院工学研究科
学位 博士(工学)
研究キーワード ロボットハンド、把持戦略、アライメント、マニピュレーション、ロボットセル生産システム
受賞 2019年度日本機械学会奨励賞(研究)ほか

1984年大阪市出身。図書室で貪り読んだタイムトラベル小説が大好きで、『バック・トゥ・ザ・フューチャー』3部作は100回以上見た。趣味は古き良き日本の面影を求めての台湾旅行。好きな俳優は『丹下左膳』の大河内傳次郎 。ライバルは指導学生。立命館大学に勤めることになった時は、京大時代にすれ違っていた吉川恒夫先生の講義を、学生を押しのけて最前列で受講。ロボット工学の歴史をビッグバンから語り出すスケールの大きさに、泣き出さんばかりの感動を覚えた。いつかご一緒できればという夢が叶い、論文でご一緒している幸運に感謝。