WHO'S WHO 研究者紹介

防災意識の向上や売上アップも期待 情報技術を活用してもっと面白い世界へ

好奇心をカタチにする、吉野孝教授の挑戦

あらゆる分野の垣根を越えて情報技術を最大限に活用し、 人々の役に立つシステムで面白い社会を作りたい。 そう語る吉野孝教授に、主な研究実績や共同研究への思いを聞いた。

システム工学部 情報学領域 教授

吉野 孝 YOSHINO Takashi

住民と作る防災マップ、POSデータを活用した人流可視化

 吉野研究室で、学外からも注目を集めているのが防災に関連する研究だ。吉野教授は東日本大震災が起こった際、危険なエリアにいながら避難所など必要な情報を得られなかった自身の経験から、情報技術を防災に生かす研究を始めた。そのひとつが、Webブラウザ上で防災マップを作成できる「あがらマップ」。「名称には、あがら(和歌山弁で私たち)が住む地域の防災マップをあがらでつくろうという思いが込められています」と吉野教授は語る。このアプリケーションを用い、公民館で防災マップづくりのイベントを開催した。
 参加者はまず、各グループで調査するエリアなどを話し合う。その後、街に出て、消火栓、非常用トイレなどの位置をマップに登録する。最後に、完成したマップを他のグループにも公開した。吉野教授は「イベント終了後にアンケートを実施すると、参加者の防災意識が高まっていることがわかりました。『あがらマップ』を多くの地域で防災意識の向上に役立ててほしい」と願っている。

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 また、データを活用した新しいシステムの提案にも力を入れている。近年では、小売店で「誰が何を購入した」というデータが記載されているID-POSデータを使用したシミュレーションシステムの開発に着手。店内マップ上を動き回るドットで買い物客の様子を再現し、人の流れの可視化に成功した。このシステム開発のために、プログラムの作成だけでなく、現地でPOSデータに残された商品の位置を調べて店内マップに登録するなど、地道な作業が必要だった。「このシステムが店内のレイアウトや品揃えを見直すきっかけとなり、買い回りしやすい売り場づくり、さらには売上アップにつながってほしい」と吉野教授は期待する。

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人と情報技術を結び付け社会に役立つ仕組みを作る

 吉野研究室では、これらのテーマ以外にもさまざまな研究を行っている。観光分野では「エーカンコ」という観光支援ガジェットを開発している。観光スポットに近づくと、ガジェットのキャラクター(視線誘導エージェント)がその方角を示し、ガイドのように音声で解説する仕組みだ。「たとえば和歌山城なら、キャラクターが『和歌山城のはじまりは、羽柴秀吉の弟、秀長が築いた城です...』と説明してくれます。このガジェットで観光がもっと楽しくなるでしょう」と吉野教授もうれしそうだ。

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 医療分野では、在宅治療を受けている1人の患者に、医師、ヘルパー、薬剤師など多様な職種がかかわることがあり、これらの職種間での情報共有の重要性が高まっている。吉野研究室では、写真ファイルや資料を他職種でも閲覧できるシステム「在宅ちゃん」を開発し、職種間のスムーズな連携を支援している。「医師が撮影した患部の写真を見ながら、薬剤師が服薬の注意点を説明するなど、サービスの質向上につながることが期待できます。実際に田辺の医療センターで稼働していました」と吉野教授は胸を張る。

まずは一緒にデータ収集新しい環境を生み出しましょう

 「近年、情報技術は著しく発達しましたが、一般家庭の室内は20年前、30年前とそれほど様子は変わりません。そのような現状を変え、昔思い描いた未来の暮らしを実現するのが私の夢です」と吉野教授は語る。吉野研究室では、特に人と人とのコミュニケーションに焦点を当て、情報技術を活用した「もっと面白いシステム」を作るため、日々プログラミングやアプリ開発に取り組んでいる。「情報技術を生かしたプロジェクトや、問題解決のためのシステムを作れないかを考えている方がいれば、ぜひ相談してほしい」と吉野教授は前向きだ。

 しかし、ゴールへ向かうためには、それに対応したデータが必要となる。「効率的に研究を進めるためには、まず関係者で話し合い、データを一緒に収集するところからスタートするのが理想的です。そして、集めたデータから、協力して新しいシステムやアプリケーションを作り、新しい環境・社会を生み出していきたい」と吉野教授は意気込む。

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Profile プロフィール

吉野 孝 YOSHINO Takashi

和歌山大学着任 2004年
学歴 鹿児島大学 工学部 電気工学科〜鹿児島大学 工学研究科 電気工学専攻
学位 博士(情報科学)
所属学協会 Information Processing Society of Japan、情報処理学会
研究キーワード アウェアネス支援/協調作業支援/ユビキタスコンピューティング/Groupware/異文化コラボレーション支援/モバイルコンピューティング
受賞 情報処理学会DICOMO2012最優秀論文賞、他

「情報技術を社会に還元するには、企業や自治体との協働が欠かせません」

少年時代は、近所の電器店に通い、パソコンについて店員の代わりに解説していたことが印象に残っています。また、店頭のパソコンに自作のプログラムをダウンロードし、遊ぶこともありました。私はモノづくりが好きで、新しいものを作るのが楽しいですし、作ったものが思い通りに動くのも気持ちいい。しかし、技術だけあっても現場の知識やフィードバックがなければ社会に生かせません。情報技術の知識を最大限に役立てるため、企業や自治体、公共施設などと協働し、さまざまな実験やプロジェクトに取り組んでいきたいと考えています。