WHO'S WHO 研究者紹介

うる声やつら

音声インタフェースで 人と人を繋ぎたい

オープンソースで考える 実用化研究オタクの 音魂を聴こう!!

西村 竜一 NISIMURA Ryuichi

声をコミュニケーションの接点に 人も機械も地域も繋げる“大学”への愛と決意

世界有数の音声研究所=NTTの猛者たちに学ぶ

 阪神淡路大震災、地下鉄サリン事件、そしてWindows95発売。大学生になった1995年は大変な年だった。名古屋大には、音声認識技術分野で世界をけん引してきたNTT出身の技術者がズラリ。携帯電話の誕生にかかわった先生方の下で「音声屋」としての第一歩を踏み出した。先代が作った専門家向けの難しい装置を、どうしたら一般にも使ってもらえるものにできるか。聞き取った音声でアプリケーションの機能が呼び出されるような簡易な形を目指し、音声インタフェースの実用化に没頭した。使用者みんなの気持ちを最重要視し、開発の場はもっぱら公開空間というオープンソース信者だ。

世界初の街角案内ロボット「たけまるくん」誕生!

 奈良先端科学技術大学院在籍中の2002年、指導教員に呼ばれた。「おもちゃ作るの好きだよね」一声で、生駒市に新設されるコミュニテイセンターの自動受付案内システムの開発を任された。楽しい! 施設案内、ニュースや天気予報、日時......想定問答は研究室仲間で組み立てたが、相手はチビッ子。マイクはヨダレまみれ、録音データには、子供の音声を認識できなかった「たけまるくん」のとんちんかんな回答と、「バ~カ」の甲高い笑い声が。研究者は、日々パソコンに向かいながらも見えない誰かと対話し、コミュニケーションをデザインする能力が必要と痛感した。

 膨大な"悪口データ"を元に、「たけまるくん」は「バカなんて言っちゃだめだよ」と諭すまでに成長。世界に先駆けた音声情報案内システムとして、ついには雑談にも応じるほどの能力を備え10年に渡って運用された。「人に楽しんで使ってもらうには、効率性だけでなく不完全な遊びが必要」研究者としての矜持が光った。

「大学って素晴らしい」コロナ禍の教えをヒントに、ドアは開けっ放しで

 2004年の着任当時、システム工学部デザイン情報学科の「人間中心」の考え方に惹かれた。和歌山大学ならではの教育センター『クリエ(学生たちが学部やカリキュラムを越え、自主的に挑む取組)』での学生の支援にも情熱を注いだ。自由に集まり、仲間や先生と思う存分議論して欲しい。チームで一つの目標を達成するため、自らを制限する枠を越えて欲しい。それが、大学の存在意義と信じるからだ。

 今は、全学必修となったデータ・サイエンスの講義で全1年生に語りかける。これから"大学生"になっていく若者たちに、まずは研究者って面白い大人だなと知ってもらいたい。コロナ禍は、学生たちとの雑談の機会を奪い大学の存在理由を本質的に問い直した。もう2年。遠隔授業支援グループのひとりとして、PC画面の向こうの学生たちと新しいコミュニケーションを模索しながら技術開発は続く。オンラインは代替でなく選択肢だ。「大学は、先生が楽しんでないとダメなんですよ」大人との付き合いを始めるきっかけになればと、先生同士が語らうラジオ風授業の試みが始まった。新しい声の冒険も、やはりみんなで。

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Profile プロフィール

西村 竜一 NISIMURA Ryuichi

和歌山大学着任 2004年
学歴 名古屋大学工学部~奈良先端科学技術大学院大学情報科学研究科 博士後期課程修了
学位 博士(工学)
研究キーワード 音インタフェース/音声認識/音声対話
受賞 2008年FIT2007 第6回情報科学技術フォーラム(情報処理学会) FITヤングリサーチャー賞/2016年 日本音響学会 学会活動貢献賞 ほか