WHO'S WHO 研究者紹介

楽しそうなまちを探して

観光地を歩く。
人と人との関係性を探る。

竹林 浩志 TAKEBAYASHI Hiroshi

21世紀型産業としての観光を見据え 目の前の現象に 経営学の理論をあてはめる

バブル時代の工事現場から、ドイツ経営学の門下へ

 志望大学に振られて始めた電気工事のバイトが儲かりすぎた。時はフリーター創成期、新車をキャッシュで買ったりもした。ある日、電気工事の親方が呟いた「君みたいなんは大学へ行った方がええよ」。現場では珍しい工学部出身の人だった。学費を稼ぎながら21歳で大学へ。まだ街中にあった大学の夜間部には、18歳から社会人まで、さまざまな学生が集まって、会計士を志したり出世を目論んだりしていた。2年後には「人と違うことがしたい」と一念発起、研究者を目指して仕事は辞めた。マーケティングの時代が来ると予見していたのに、運悪くその年はゼミが開講されず。それで、経営学史のゼミに入った。指導するドイツ経営学の権威は、「アメリカ経営学をやりたい」という希望を快く受入れてくれた。

組織論、リーダーシップ論――アメリカ経営学は人間をどう扱うかを考えた

 産業革命が興ったのはイギリスなのに、経済大国になったのは経営学の進んだドイツ、日本、アメリカの3国。いずれもマネジメントが強い。50年前は経営学といえばドイツだったが、大学院に進む頃にはアメリカ経営学が隆盛になっていた。学問として発達したドイツ経営学と違い、アメリカ経営学は実践から発生する。組織論、リーダーシップ論、意思決定論......実験や学説は、工場中心の経済システムに根ざしていた。人間をどう扱うかによって、生産性や能率が変わる。その研究はむしろ社会学に近かった。学説史の研究者は、社会的な流れの中に理論の背景を見ることが大事で、目の前の現象に理論をあてはめることが使命だ。対象に向かいながら、社会からどんな要請があるのかを常に心に留めた。

 観光学部に着任してからは、観光地を訪ね、取組が成功している地域もそうでない地域も見て歩いてきた。すると、元気なまちには理由があった。「みんな楽しそうにやってはる」――その現象を、経営学は説明できる。

価値を高める好機! コロナ後に経済発展を遂げる観光地になるために

 民主主義のもとでは賛成の数が多い方へ進むのがセオリーだから、組織内で決まったことには従うべきだ。意見が違うなら、少しずつ互いに歩み寄ればいい。家族と同じ(笑)、とにかく楽しんでやること。ゆるっとつながりながら、自分の見方・考え方を作ること。インフォーマルな人間関係を大切にする楽しげな組織は前向きだ。

 今は、地域の文化や物産の価値を上げるべき時。世の中全員が同じものを欲した時代は終わり、人は、自分にとって悦びのある生活のために、わざわざ出かけて高いものを買う。地域全体に落ちるお金を増やすために、意識を引き上げることが必要だ。そこにしかないもの、できない体験の楽しみ方を、地元の人たちが見せるしかない。お金が落ちる仕組みを作るために、地域で何を目指すか、どうやって実行するか。地域が必要とする理論を携えて歩く研究者として、自分が提示する考え方が理解され、そして使ってもらえるように――旅はつづく。

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Profile プロフィール

竹林 浩志 TAKEBAYASHI Hiroshi

和歌山大学着任 2007年
学歴 関西大学商学部~同大学院商学研究科
学位 修士(商学)
研究キーワード チーム制、観光戦略、リーダーシップ
受賞 2009年 経営学史学会 学会賞(著書部門)大橋/竹林『ホーソン実験の研究』
書籍等出版物 『観光経営戦略』(共訳:センゲージラーニング、2007年)、『ビジネスとは何だろうか』(共編著:文眞堂、2020年)ほか