WHO'S WHO 研究者紹介

全身翻訳家

こともなげに 便利を作る
新しいソフトウェアが
社会で意味を持つように

戦略情報室 室長(教授)

満田 成紀 MITSUDA Naruki

24音、24行、24時間―― ソフトウェア工学は 現場主義

「FM-7」――青少年は興奮した

 高校の入学祝いに、8ビットパソコンを手に入れた。『ASCII』誌掲載のプログラムをテンキーで打ち込み、レーシング・ゲームを楽しんだ。夜行列車で秋葉原へ乗り込みフロッピーディスクとドットプリンターを仕入れてからは、クラスの演劇台本の清書を任されたこともあった。志望先は、情報工学科のある京都大学一択だった。

 浪人生活の準備が整ったところへ1本の電話が。「ドイツ語かフランス語か選べ」まさかの補欠合格だった。意気揚々の新生活、のはずが、KMC(京大マイコンクラブ)が忙しすぎて大学に行く暇がなかった。ゲームよりスケールの大きいものをと、プログラムを書きまくった。例えば3音しか出ないパソコンを8台つなげて、24音の音楽を奏でた。高中正義のスライドギターを再現すべく自分でピッチを変え、家電量販店の前でデモ演奏した。そのプログラムを、先輩から咎められた。

「80×24行の画面」――プログラムは、美しく書け

 「なぜ24行以内で書かない?」プログラムは、端末の画面に収めて一目で把握できるサイズに。それ以上長いプログラムは分けろ。俄然、ソフトウェアの作り方に興味が沸いた。プログラミングの授業が増え、課題のたびに、このコード汚いな、良くないな、と提出期限を越えて書き直した。プログラムは人間にとっての共有財産だと気付き始めた矢先、研究室配属目前で留年が決まる。

 皮肉にも、留年中に始めたカラオケスナックのバイトで研究の神髄を掴んだ。お客から「君も好きな曲を」と促されて熱唱し、ママさんに叱られたのだ。それからは軍歌を覚え、おつまみの作り方を覚え......価値観は自分の側に置くものでないと教わった。思えば、興味があるのはコンピュータの中身でなく、コンピュータと人間との翻訳作業=ユーザインタフェースの方だった。利用者の求めるものは何か、イメージを共有するためのコミュニケーションの言葉を、今もいちばん大事にしている。

「キャンパスは紀伊半島全域」――和歌山大学の新しい舞台

 ぶらくり丁のフリーWiFi実験を担当した2000年以降、和歌山をフィールドにさまざまなソフトウェア開発に携わってきた。忘れられないのはセーリング競技のサポートシステム。レースは朝8時から夕方5時まで海の上という過酷さで、実験はクリスマス寒波に襲われ、腹筋がけいれんを始めて......その経験から24時間持つバッテリーを搭載し、海面ギリギリのGPSから丘に電波を飛ばせる装置が完成。和歌浦湾でのインターハイ定常開催が決まった。「現場は自然と闘ってるんですよ、いま取り組んでいる農業も同じ」柑橘農家のニーズに応えるには、Uターンできない山道を実際に体験することが欠かせない。しかも、現場から求められていることをそのままやるのでなくて、ニーズを知ったうえで自分がいいと思うものを提案することが肝腎だ。

 システム工学部から戦略情報室に異動して、今では大学そのものが研究対象になった。教育、研究、大学経営に関わるデータを分析し、情報をどう見せるか。「楽しいっすよ!」相手に伝わる言葉にこだわってきた名翻訳家の、腕の見せ所である。

< 前の記事

次の記事 >

VIEW LIST

Profile プロフィール

満田 成紀 MITSUDA Naruki

和歌山大学着任 1996年
学歴 京都大学工学部~同大工学研究科情報工学専攻
学位 博士(工学)
所属学協会 観光情報学会、電子情報通信学会、日本ソフトウェア科学会、情報処理学会
研究キーワード ソフトウェア開発環境/ソフトウェア工学/ユーザインタフェース