WHO'S WHO 研究者紹介

Visible / Invisible

自我の感覚

子曰、学而不思則罔、思而不学則殆。 コンピュータビジョンの研究は、 工学と哲学との対話だ。 自由に飛翔する凧を通じて、 両手が風を見るように。

和田 俊和 WADA Toshikazu

▼知覚と認識――環境と自分とのやり取りの中で思考する。

パターン認識 情報処理分野の黎明期を追いかけて

 小学3年生の時に祖父が亡くなり、死とは何かを考えた。自分が自分であるという感覚はどうやって実現されているのか、それは他の身体で共有できるのか。睡眠を奪った少年期の悩みが研究者人生の始まりだった。大学では電気工学に進むが、火花が飛ぶ実験が性に合わず、別の道を求めて図書館に籠る。そこで一冊の本に出合った。

 『パターン認識』――長年のテーマだった"自我の実現"には、文字入力にプログラムが答えを返す記号処理でなく、この技術が絶対に必要だ。1969年にこの本を著し、視覚パターン認識分野を構築して文字読取技術で世界を牽引した飯島泰蔵先生から学びたい! 猛烈なラブレターに応えて、定年を迎える飯島先生に代わり弟子の佐藤誠先生が指導を引き受けてくれた。

コンピュータビジョン研究者として新技術を拓く

 博士修了後、松山隆司先生の下でコンピュータビジョンの研究生活が始まり、助手5年目に、初の国際学会へ。MITで開催されたICCV(コンピュータビジョン国際会議)が分野最高峰ということもまだ知らなかった。本を開いてスキャンする際、ノド部分に出るゆがみを平面に修正する新手法をOHPで披露した瞬間、会場がどよめいた。論文は、その年の最高賞"Marr Prize"を受賞、たくさんの先生方に喜んでもらえて嬉しかった。

 その後。首を振っても光学中心が移動しない視点固定型パン・チルトカメラを思いつき、電子情報通信学会の論文賞を受賞。以降、論文本数が増えていく。 "ダメ"の一言で何度も返されたかつての松山先生の論文指導が、研究者に育ててくれたと実感した。1999年にはカナダのブリティッシュコロンビア大で客員助教授として10か月の研究生活を送る。雄大な自然の中で構想した最近傍識別の研究が、和歌山大に異動してからのメインテーマとなった。

2年周期でオリジナルなものを生み出す、複線の思考

 社会的な意義のあることを研究する"工学"の研究者として、企業との共同研究にも熱心だ。アルゴリズムを作るのに5年かかった発電用ガスエンジンの異常検出システムでは国際特許も取得。その後も色ターゲットの検出、迷惑メール検出システム、高速追従型能動カメラシステムから現在進行中の画像認識システムまで、情報化に向かい加速する時代に次々と挑んできた。ほぼ2年周期で別分野の新技術を確立してきた軌跡を"同時にたくさんの鍋を火にかけていて、沸いたものから引き揚げる状態"と解説する。「飽きっぽいのかな(笑)」そういえば、趣味も数年周期で入れ替わる。ここ数年は、強風の河原で思索に耽る姿が週末ごとに目撃されている。研究室で各論の実験に取り組む学生・院生との会話は、専門分野の議論が半分、残りは哲学談義だという。「学術論文は、専門知で書くことは当然として、まず、読み物として面白くあらねば」......頭の中で考える楽しみを伝えてくれる、情熱的な教師でもある。

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Profile プロフィール

和田 俊和 WADA Toshikazu

和歌山大学着任 2002年
学歴 岡山大学工学部~東京工業大学総合理工学研究科
学位 工学博士
所属学協会 電子情報通信学会、情報処理学会、IEEE
研究キーワード データマインニング、パターン認識、知能ロボット、コンピュータビジョン
受賞 David Marr Prize(1995年第5回ICCV)、1997年情報処理学会 山下記念研究賞、1999年電子情報通信学会論文賞、2009年システム制御情報学会論文賞ほか受賞